VSライダーク
「なんでデットが脱落を? 俺は腹を殴っただけだし」
脱落のアナウンスを聞いて俺は首を傾げる。なぜデットが脱落したのかサッパリ分からない。
人の心がわからないデットを誘き出して不意打ちを仕掛けるところまでが俺の作戦だったが、応じてくれたライダークも加担し始めて一緒に攻撃したが……ライダークもデットのワッペンを壊したようには見えなかった。
何があったのか。
「おい」
と、前方から重々しい声が向けられた。
ライダークが、俺を見ている。
「作戦がどうあれ、一度勝負すると言ったんだから、止めるなんて言わねーよな」
ワッペンをズボンに付け直してから服を脱ぎ捨て、上半身裸になった。
ライダークの迫力は凄まじい。
やる気だ。
「……やらねーとは、言ってない、わよ」
俺も退くに退けなくなった。こっちも腰を据えて拳を構える。
「行くぞ……ソニア!」
「ああ、来い!」
気合い満点のライダークとの戦闘が始まる。
まずは体を前に倒してから地面を蹴って、飛んでくるように迫るライダークを、真っ向から拳を打ち出して対抗する。だがその突き出した拳に拳を合わせられて、力負けして後方に吹っ飛ばされる。
「くっ!」
吹っ飛ばされた先で膝立ちの体勢で持ち直し、前を向くと……誰もいなかった。
視界で捉え切れなかったが———真横にライダークが地面に手を付いた横回りをしながら俺の後方に移動する気配を感じた。咄嗟に肘鉄を後ろに突き出す。
だがそれは躱されて後ろ蹴りが背中に飛んでくる。
「ぐあっ!」
すかさず体制を立て直そうとして体を起こし……そこへ二発目の後ろ蹴りが飛んできた。首と胸の間に強い衝撃を受ける。
「うぶぅ! けほっ! かはっ!」
何度も地面を転がる。痛い、激しい痛みに一気に気分が動転して、考えられるのは次の攻撃をどう躱すかの一点。
蹴り飛ばされて転がって距離が開いた。ライダークは何を仕掛けてくる?
ブゥン!と拳が真正面から飛んでくる!
ガズン!
咄嗟に左腕でそれをガードする。ゴキ、と腕の骨から嫌な音がした。折れたか。左腕が機能しない。痛い。
だが痛みを堪えて右腕を突き出す。だがそれは簡単に振り払われて、体がその勢いに負けて右向きに曲がる。その曲がって広がった左脇に膝蹴りが打ち込まれる。
「がっ!」
「ライダーク流、喧嘩殺法」
膝蹴りにより体の曲がりが元に戻り、真正面を向いた状態でライダークの方を向く。
そしてライダークは俺の左腕を自分の方へ引き込むと同時に、引かれて体が前のめりに倒れ、ライダークの方に近寄った俺の顔面に向けて肘鉄を刺し込んだ。
「“火打”」
こめかみに鋭く肘が当たり、脳が揺れてパチパチと目の前に電気が走る。体が引き寄せられていた分、深く長く痛みを感じた。
揺れる体。ライダークはそんな俺に向けて拳を振り上げる。
(負け、られねぇ!)
浮かんだニーナの顔と、俺の意地。
咄嗟にその拳を両腕でガードし、そして地面を強く蹴ってライダークの腹目掛けて頭突きを飛ばす。
が、それはライダークが堪えて腹で受け止め、逆にさっきよりも大きく振り上げた拳が落とされる。
「“戒刑”」
ドゴォオオオン!!
メキメキメキ!
衝撃波の大きく激しい音と共に、地面にめり込み潰れていく体の嫌な音が脳に響く。
コアを込めて体を防御してなかったら危なかった。しかし俺のコア量はラウラウ戦で消耗しているため、この防御でかなり使ってしまい、残り少ない。
「“針蹴”」
「ッ!」
一度大きく後ろに飛び退いたかと思うと、爪先を向けながらスライディングして突進してくる。爪先の狙いは額だ。
慌てて横に転がって避ける。
だがスライディングして通り過ぎかけたライダークは止まり、横に転がった俺の体を両腕で掴み上げると、
「“達磨殺し”!」
地面に向かって思いっきり投げつけた。
コアでガードする。地面をバウンドして吹っ飛ばされる。
あまりの衝撃と痛みでしばらく声が出なかった。
「なあ、ソニア。Cクラスにいる奴らってどう言う奴らか知ってるか?」
唐突にそんな話が聞こえてきた。
回復するのも兼ねて話に付き合うことにする。
「……いや」
「最近気づいたんだよ、身をもってな。上に上がる意思がなくなった、心が折れた、諦めた、限界を知った、そして……何もして来なかった奴らだ」
「そうは言い切れないんじゃないの?」
「一人二人は上昇意識があるだろーさ。けれどBクラスはそれを当たり前に持っている。そして超えられない才能がある……Aクラスはもっとすごい。俺は何もして来なかったクチの奴だ」
「ゲホッ! けほっ! そ、そうなの? にしては凄い強いけど」
「フッ、それは喧嘩ばかりして来たからだ。でも俺から仕掛けた事は少ない。やったのは向こうから喧嘩売ってくるものばかりで……受け身のまんま暮らして来て、結果がこのザマ」
ライダークは嘲笑を浮かべて、両手を広げた。
「受け身の体勢のまま、才能もないのに運だけに任せた男の限界がここだった。最低クラスの上澄ですらない。だが俺は進む意思を見つけた、それがお前の姿だ、ソニア」
「私?」
「勇者召喚の儀式から数日、お前の姿から目が離せない。勇者蹴りも、ギブソンとの戦いも、そして今も! お前の姿は元気をくれた! それが今の俺の原動力だ!」
ザッ、ザッと一歩ずつこちらに歩み寄ってくる。
「戦おう! 見せてくれ! 俺はお前に希望を見出した!」
「……受け身のケンカだけでここまで強くなったと。なら私はお前を越えるべきだ」
俺も立ち上がって近づく。いよいよ決着がつくだろう。
本気で行こう。全部出し切る……いいや、今まで以上の、俺でも想像つかないほどの力を想像しろ。理屈ではなく理想の俺を妄想しろ。そしてそれを力にしてしまえ。
本気で行く!
「行くぞ……………ッ」
腰を落として、腕を捻り、拳を握る。そして腕を回転させながら威力を増し、殴りつける!
「【木瓜紋】ッッッ!!」
拳はライダークのアゴにヒットした———!
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
拳を突き出す瞬間に、肩が動いたのをライダークは見逃さなかった。
肩を捻ることで回転した拳は威力を増して、狙った場所に到達する。
(スクリューパンチ! だが、ムリだろ! その体じゃ打てねぇはずだ!)
打たれた瞬間は驚いたものの、顎にヒットした瞬間に、ライダークの中ではもうソニアの負けを確信していた。
現にソニアはすぐさま肩を抑えて崩れ落ちた。ライダークは録画によってソニアの動きをある程度わかっていた。そこからソニアの関節は運動不足で硬いことも見破っていた。ガーリックの銃を撃つ時に膝を曲げずに撃とうとしたのが、膝関節が咄嗟に動かなかった証拠だ。
肩関節だって硬い。だからスクリューパンチなんてものを打てば相手ではなく自分が壊れる。
ぐらつく頭の中を抱えながら、地面に崩れ落ちたソニアに向かって拳を振り下ろす。
結果、直頭部に衝撃を受けたソニアは完全にノックダウン。
「まるでテメェの体を知らないトーシローの戦い方だな。知識として知っていても出来なければ意味がない……いや、もしくは俺も考えつかない事実があるのかな。まあいい」
『ソニア、ニーナ! 脱落!』
ソニアのワッペンを壊したのち、背を向ける。
「……けど、お前が成長した姿を想像すると……ゾッとするな」
己のワッペンも壊し、ライダークはその場を立ち去った。