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VSデット

 ガーリックから逃げた後、俺はニーナと共に物陰にまた隠れた。その間にも何人も脱落者が出た。



「あと、何人だ?」


「私たちも入れて後9組。でも……」


「そこまで減っても戦いの音があんまりしないな」



 戦いの試合中だとは思えないほどの静寂。



「みんな私たちみたいに機会を伺ってるんじゃないかな。それにテンテラが残ってるから爆撃の恐怖もあるし、デットとガーリックもいるし」


「みんな警戒し合って出るに出られない状況に陥ってるって事か」


「どうする?」



 どうしよう。

 まず第一前提、もっとも重要な事柄が一つある。俺はガーリックに勝てないと言うこと。あの一戦で分かった。すなわちガーリックが脱落しない限り俺らは優勝できない。

 そして次にこの膠着状態で誰が得すると言われれば、それはガーリックのペアだ。デットの戦闘力で隠れている相手を各個撃破すればいい。

 なら理想は残る全員でガーリックデットペアを叩くこと、だが理屈はそうはできないしやっても勝てるかどうか怪しい。できない理由は隠れているみんなは互いに意思疎通して協力し合えるような関係性ではないと言うこと。

 理想と理屈のどちらかに傾いているかと言えば理屈の方だ。理屈で誰も何もできない状況。ならばここで求める理想はなんだ?



(理想はガーリックとデットを降す事だ)



 だがどうやってできる?

 理想の次は理屈だ。

 どうやってガーリックを倒せる?さっきの一戦でガーリックは油断も隙もない上級者だと分かった。俺では勝てない。

 ならデットを倒すにはどうする?彼女の戦闘力は脱落アナウンスの数とスピードでわかる。とんでもない強さだ。けれどガーリックとは違い、デットの“中身”はまだわからない。



「……ニーナ、デットってどんな奴だ?」


「どんな奴?」


「どんな性格してるか、とか」


「冷たい。人の気持ちを考えないような、極端な合理性を求めてる自己優先的な人よ」


「そうなのか?」


「そうよ。クラスでも避けられてる」



 ニーナの話も加味しながら、唯一話したこの競技が始まる前の講堂での彼女との会話を思い出す。

 あの時もニーナの言う通り自分ばっかり話してこっちの答えを待たずに去ってしまうような自分勝手っぷり。



(デットの弱点はそこかもな)



 無敵と思ってたデットを降せるかも知れない。

 しかしどうする?

 俺は今の状況を改めて整理する。今はみんなが警戒し合って膠着している状態。静かさが優っている。

 あ。

 そうだ、思いついた。



「ニーナ」


「なに?」


「悪い、やられるかも知れん。けど任せてもらっていいか?」


「……ええ」



 ニーナの了解を得て、俺は隠れている場所から抜け出した。そしてグラウンドに大股で入り、大声を張り上げる。



「勝負だ!! 私と一対一の勝負をしよう!!」



 膠着状態の中に、俺は一石を投じる。



「誰かいないか! ワタシと勝負する者!!」



 叫ぶ。



「オレと勝負しよう!」



 俺の喉と口から出た女の声が響き渡って、俺の耳に戻ってくる。

 一瞬の静寂。

 ダンッ!と大きな足音が後ろから聞こえた。振り返るとそこには黒髪の少年が立っていた。



「いいぜ、やってやる」



 ライダーク・ロイムロヒ。



「お前の“作戦”に乗ってやる」


「え? 分かった?」


「まあな。が、しかしそれはそれ、これはこれだ」



 ライダークがゆっくりと歩み寄ってくる。それに応じて俺も近づく。



△▼△▼△▼△▼△▼△

 ……一方、デットとガーリック。



「ねえ、動いたよ。今度もまた止めるの?」



 屋上にて、寝転んでくつろいでいるガーリックにデットはそう尋ねる。

 ガーリックはずっと屋上で飲み物を飲んだり、寝転んだりと随分のんびりしている。そしてデットの言葉にも返事を返さないで、目を瞑って寝息を立てている。

 デットは屋上からグラウンドを見下ろす。下ではソニアが大きな声で勝負しようと持ちかけ、それにライダークが応じて互いに近づきあっている。

 一触即発の雰囲気。



(今ならどっちも斬れる)



 もう一度デットはガーリックを見た。ガーリックは寝ているままだ。止める気配はない。

 デットは双剣を鞘から引き抜いて屋上から飛び降りた。



(ふん)



 寝たふりをしていたガーリックは、手元に()()()()()()を置いた。

 一方でデットはぶつかる寸前のソニアとライダークの元に走っていく。そんな彼女の行動にガーリックは、思い通りに動きすぎる彼女の単純さを鼻で笑った。



(ブラックパンツァーは一対一の勝負を望んだ。それは隠れている全員聞いている。ライダークがそれに応じて出て来た。そんな姿を見て、誰が邪魔しようと考える?)



 すなわちデットは空気が読めない。

 あんな度胸を見せた2人を、攻撃するチャンスだと捉えるのはデットの強さであり弱さだ。

 よって当然そこに気づいた者らにとって、それは弱さとなる。



「「だと思った」」


「ッ!」



 互いに互いだけを見ていたはずのソニアとライダークが、デットが近づいて来た瞬間にデットの方を向いた。そして同時に拳を振るう。

 気づいた時にはもう遅い。

 バキィ!とデットは走った勢いのままに、顔と腹に一撃ずつ喰らって、走った勢いを殺せないまま前方に吹っ飛ばされる。



「こんなの!」



 が、そこは実力派と言われるデット。吹っ飛ばされた先で即座に体勢を立て直す。

 ソニアとライダークはデットと戦う構えを取る。



「2人がかりなら勝てるって思ったの? そんなわけな———」



 い、と言おうとして。



『デット、ガーリック! 脱落!』



 最強コンビの脱落を知らせるアナウンスが聞こえた。



「……え?」



 何が起きたのかわからない。デットは呆然とする。



「熱ッ!」



 すると乳房の先に、熱した鉄を触ったような熱さを感じた。見ればそこにつけていたワッペンが割れていた。

 取って確認してみると焦げ臭く、ワッペンの裏には小型の爆弾が爆発したかのような焦げ跡があった。



「なにこれ……」



 小型の爆弾。

 なんでそんなものがデットのワッペンに付けられていたのか。

 爆弾を用意できて、デットのワッペンに付けることができる人物……それは。



(武器商人の息子で、私とペアを組んだ時に私のワッペンを唯一触った人物……)



 屋上を見上げればガーリックがこちらを見下ろしていて、そしてデットの視線を一切意に介さず屋上から姿を消した。



「……利用されたってわけ」



 デットの戦闘力を使い他の出場者を脱落させ、そして最後には誰かに攻撃された瞬間を見計らって仕掛けていた小型爆弾を起爆させる。そうする事でデットをテイよく脱落させる。


 この試合の全ては、ガーリックの手の内で踊らされていた。

 デットは小さく笑った後、その場を立ち去った。

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