VSガーリック
パスティラとマラカナによる屋上射撃の作戦は、Cクラス最強のデットとガーリックによって阻止された。
俺は校舎の屋上で発砲音がして、そしてアナウンスよりパスティラとマラカナの脱落を聞いた。その瞬間、ある考えがよぎる。
「今発砲音がした。多分ガーリックの銃の音、だよな」
ガーリックの銃をデットが使う事で、屋上の2人の意表を突いた。
だが屋上のデットが銃を持っていると言う事は……。
「今ガーリックの武器は刀のみって事だ」
ガーリックは目の前にいて、隠れている俺らに気づいていない。
「どうする? ソニア」
ニーナもソニアの考えが分かった。
ニーナの問いかけに俺は、周囲を見渡して誰もいない事を理解すると、武器である木の棒を持って走り出す。
「チャンスは今しかない!」
相手は刀を持っているが、対ポン刀の戦い方は知っている。
「あ?」
屋上の経過を、上を眺めて見ていたガーリックは俺の接近に気づいて振り向いてきた。その顔は恐ろしく冷静。驚いた様子は一切なく、ただ面倒臭そうに刀を抜いて俺を待ち構える。
「……お前はもっと後のつもりだったんだがな、勇者蹴り」
「うおおお! おッ———えっ、ぷひゃん!」
気合いを入れて駆け寄ったが、走った事で巨乳が揺れてバランスが崩れた。男のようにはいかない。そのまま変な声を上げながらこけてしまった。
ズザー!とこけた勢いで地面を滑る。見上げればガーリックの可哀想なものを見る視線。
「何してんだお前」
そう言いつつうつ伏せに倒れる俺に刀の切先を向けてくる。そしてそのまま体重を乗せて上から突き刺してきた。
距離およそ2メートル。俺は刀を振るために前に出されたガーリックの右足に向かって、自分の体の下に隠していた木の棒を打ちつける。
「ッ!」
弁慶の泣き所に当たり、一瞬痛そうな顔をしたガーリックだったが、突き刺す動作はやめずにそのまま振り下ろしてくる。
だが一瞬止まった隙をついて、木の棒を振り上げて刀を躱す。そして体を横に転がしてガーリックから距離を取った。
「どうだ! 対ポン刀用戦法カエル寝! 倒れて滑り込んだのは刀の攻撃選択肢を突きのみに限定させたかったから! そして」
「チッ」
ガクン、とガーリックの体がバランスを崩して、片膝を地面につけた状態になる。さっき棒で突いた膝の痛みで堪らず膝をついた。
「さて、次は」
ビリヤードをするように両手で木の棒を持ち、その先を、ガーリックの右胸に付いているワッペンに向ける。
「接近しなきゃ壊せない。だから刀を躱してワッペンを壊す」
「……」
黙っているガーリックが何をするのかと思えば、ダン!と痛いはずの足を地面に叩きつけるように踏み込んで、震える体をゆっくりと起こす。
「え……」
「この程度がどうした」
コアが体の治癒を行っているのか、徐々に立ち上がっていく。しかしそれでもある程度の痛みはあるようで動きは鈍い。
今しかない!
俺は走り込んで、ガーリックの懐を目指す。そんな俺に対してさっきまでの震えが一瞬で消えたガーリックは、余裕の態度で刀を構えた。
(まずっ! 立ち上がりにくそうにしていたのは嘘か! 俺が飛び込んでくる瞬間に一気にコアで回復して迎え撃ってくる!)
完全に罠にハマった。
蜘蛛の巣に引っかかった羽虫の気分だった。
「ガーリックを舐めすぎた……っ! あれは!」
上から何かが落ちてくる。立ち止まって見れば、それはガーリックの銃。ペーパーボックスピストル。
「おい返却雑すぎるだろ」
イラついたガーリックの声。
上の方を見れば一瞬だけ屋上の上にいるデットの姿が見えた。ガーリックから預かっていた銃をあそこから落として、ガーリックに返したつもりなのだろう。
だがチャンス!俺は落ちてくる銃に気を取られているガーリックの隙を突き、木の棒をまた膝に投げつける。
「ッ!」
ガーリックはそれに反応して咄嗟に後ろに飛び退く。
それに応じて俺は前に飛び込み、そして落ちてくるペーパーボックスピストルを取った。
「ッ! 貴様……!」
ガーリックの表情が変わる。顎を引いて顔が陰り恐ろしい目つきで俺を睨みつけてくる。一瞬それに動揺した。怒り……否、ガーリックの激怒の感情を真っ向からくらう。
そんなガーリックに対して俺は銃を向ける。
「動くな、手を上げろ」
ドラマの警察みたいなことを言う。
しかしガーリックは銃口を向けられているのにも関わらず、激怒の表情を一切崩すことなく俺を睨みつけたままだ。
(死を覚悟している、と言うよりは死なない余裕か……まさか)
引き金を引くも、弾が出ない。
ガーリックの方を見れば刀を持っていない方の手のひらを見せてきていて、その上に光り輝く弾丸が幾つも乗っていた。
「なぜペーパーボックスピストルなのか。それは弾が入れやすいからだ、コアで作った弾がな」
「コアで作った……!」
弾はガーリックの自作だったのか。だったらいくら引き金を引いても弾は出ない。
ガーリックは手のひらの弾丸を握り込んで、再び開いた。手の上から弾丸が消えた。そしてその手をこちらに差し伸べる。
「それを、ハチノスを返せ、今なら見逃してやる」
一瞬迷った。
返したところで後ろから撃たれる可能性がある。
だが俺はガーリックには勝てない。ならここは言うことを聞くべきだとも思った。
銃を渡そうと近づこうとした俺の後ろから、茂みをかき分ける音が聞こえた。振り向くとニーナが隠れ場所から出てきていた。
「ソニア! それを私に渡して! 銃弾なら私も作れるはず!」
「ニーナ」
「おい!」
ニーナの提案に乗ろうと振り返ろうとした俺に、ガーリックの怒号がかけられる。
「もし持っていってみろ。地獄の果てまで貴様らを殺しに行く。同級生だとか、殺しはダメだとかカンケーない。俺にとって殺しによる罰よりも武器を取られる方が何倍も重い」
ガーリックの言葉に怯む。それだけの事をしそうな勢いと凄みがあった。
「返せ、ハチノスを」
「ソニア! これで、これで私も役に立てるの!」
敵か。
友か。
板挟みの選択を迫られた俺は、悩んだ結果ニーナの方へ走った。
「そうか。ならお望み通り殺してやる」
ガーリックの周囲に鋼色のオーラが現れる。
「学園長も親父も偉大な魔術師も勇者達も誰も知らない俺の魔法、『ガリックシステム』で……」
「逃げるぞ!! ニーナ!!」
途中で銃を地面に置いてから、ニーナと共に逃げた。後ろからの攻撃は来なかった。
△▼△▼△▼△▼△▼△
———ガーリック視点。
「なるほど、先に逃げるために走り出したのは俺に銃を持たせず、後ろから銃撃されないためだったか。ふん、案外冷静じゃないか」
愛銃のハチノスを拾い上げる。ソニア・ブラックパンツァーか、頭角を表すだけの能力はあるらしい———ッ!
咄嗟に刀を振るう。ハチノスの拾う瞬間、ブラックパンツァー達が逃げ去った方向からライダークが拳を構えて飛びかかって来たからだ。
ライダークは咄嗟に振った俺の刀を躱し、さらに懐まで飛び込んでくる。
「悪いなガーリック———ッ!」
拳がワッペンを撃ち抜く寸前、真上からデットが双剣を振り下ろしながら飛び降りてきた。ライダークは堪らず後方に飛び退く。
「チッ! デット! ソニアの時は出てこなかったくせに!」
デットは何も言わずに、恐ろしいスピードでライダークを襲う。剣がライダークの腰につけたワッペンを切り裂く寸前に、今度は俺が止める。
「待て! デット!」
デットが剣を止めたのを確認してから、銃を拾い上げて背を向ける。
「もういい。一旦引くぞ」
「どうして? 今なら狩れる」
「力はお前、知略は俺だ。そう言う役割だと組む前に言っただろ。いいから来い」
そう言い残し背を向けたまま、窓から校舎の中に入る。デットもライダークに剣を向けて牽制しながら、後から付いてきた。
(今じゃないんだよ、今じゃ)
この試合の最終目的のためには、ライダークは必要だ。