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テンテラ爆撃

 ライダーク・ロイムロヒ。彼は焦っていた。

 頭上から降ってくる爆撃から逃げるのに必死だ。上からの攻撃なら腹に付けたワッペンが壊されることはないが、ダメージを負うのはまずい。

 倒したばかりのマックとダッズンと共にグラウンドの外を目指して走り逃げる。背後ではドズン、ドズンと上からの砲撃により地面が抉れていく。



「うおおお! 脱落者相手にも容赦なしか!」


「おいマック! 離れろよ! このままケジャリーの場所まで戻る俺にお前が付いてきたら、ケジャリーの居場所がバレるだろうが! 戦闘から離れた場所に隠れてもらって、的を増やさないようにしつつ“動画”撮ってもらうって俺の作戦がバレたらどーするんだ!」


「バレたくないなら大声で言うんじゃない! 馬鹿野郎!」


「馬鹿野郎だと! 今俺のこと馬鹿にしたか! 脱落したくせに!」


「本格的な戦闘なら負けていない! 僕は負けてない! 決して!」


「喧嘩の内容に注文多いのは自信のなさの証だぜ、お坊ちゃん!」


「黙れ! ダッズン! 別の方向に逃げるぞ!」


「あ、あいあいさー! ぐおおお!」



 ライダークは上空を見上げる。そこでは、機械の体をした少女が空中に浮かび、足から砲弾を撃ち下ろしていた。

 腕の噴出口からブーストを吹き出して空を飛び、両足を重ねる事で一門の砲台ができる装備。それがテンテラの“特別な”能力、変身能力によって装着したメタリックボディ。



「ぼかーん、ぼかーん」



 間延びした呑気な声色とは裏腹に、宙に浮かぶ彼女の足元にはクレーターが幾つも出来上がっていた。

 そんなテンテラの背に、相方の女子が乗っていた。テンテラは地面に対して垂直に、ピンと体を縦に伸ばして浮いているため、背中の少女はテンテラの首に腕を回して捕まっていた。

 しかし何を思ったのか、彼女はのっしのっしとテンテラの体をよじ登ると、肩の上に両足を乗せて威風堂々とした立ち姿を見せた。そして彼女———周りから『メル様』の愛称で呼ばれている正統な王族であるメル・メウンタンはバカスカ撃ち込まれて慌てふためいている地上のクラスメイト達を見下ろし、眺めた。



「ふぅ~、美しくない。全くもって美しくないわ」


「なにが? ていうか肩に立たないで、重くはないけどなんか顔の横に人の足があるのも、肩に乗られるのもイヤ」



 テンテラの文句は無視、と言うか自分上位主義の彼女には、鼓膜を揺らした音も自分に関係なければ脳に届く前に遮断して受け付けない。つまり聞いてない。

 フリル満点のミニスカートワンピースドレスを、優雅に風に乗せてはためかせる彼女は、腰に手を当て怒った様子で喋り始める。



「“暴力の世界”なんて目指してるライザ・グリフォンは間違っている。見なさい、クレーターが出来上がり、そして泣き叫ぶ人々の姿を! 暴力で花は育てられないのよ!」


「話聞いてる? と言うかなんの話?」


「人の余裕こそが美を産むのよ……はあ~、それで現状はどんな感じ?」


「ん? 大半は脱落したね。ただ、私のは爆撃でワッペンを狙ったものじゃない。私らは成果を上げてないからね」


「なら誰が落としてたの?」


「デット」


「まあそうね。あ、そうそう。この競技会が終わったら大浴場を開けるって言ってたわ。久しぶりに大きなお風呂で体を休めたいわ~」


「ねぇ、会話できる? って、ん?」



 話ができない相方に辟易していたテンテラだったが、背後から何かの気配を察知した。躱そうとしたがそれよりも先に、飛んできていた弓矢がテンテラの右腕についた空中浮遊装着を貫き、破壊した。



「んにっ! やば! 墜落する! 私の装甲が弓矢に壊されたなんて⁉︎」


「よく見なさい、飛んできた矢の先が“硬化”していたわ」


「硬化⁉︎ マラカナなのね! ていうかマジで墜落する!」


「それじゃ後で落ち合おうか」


「え?」



 テンテラの返事を待たずに、メル様は水色のムチを取り出すと、長く伸ばして校舎の壁についた雨どいパイプにくくりつけ、テンテラの肩から離脱した。



「私はー⁉︎ あほー!」



 テンテラの文句はメル様には届かない。

 一方、ライダークは講堂近くの茂みに隠れているケジャリーと合流した。そしてそこからテンテラの墜落を目撃し、弓矢が飛んできた方向を確認した。



「あそこは校舎の中等部んとこの、屋上か」



 校舎の南側は中等部。その屋上に2人の人物と、一台の台車付き大弓を目撃した。



「あれはパスティラとマラカナか。パスティラは頭がいいし、屋上からマラカナの弓で狙撃するのが作戦だったのか。いつの間にあんなところに……お?」



 校舎の方を見ていると、講堂の影から誰かが出てくるのが見えた。向こうからはライダークの方が見えない。

 そして誰かと思えば、フードを被った小柄な女子と、銀髪巨乳の女子のコンビ……ニーナとソニアだった。



「アイツ……」


「どうするの? 向こうはこっちに気付いてないみたいだけど」


「……ちょっと様子みるか。あっちは屋上のパスティラに意識がいってるしな」



 ソニアとニーナの会話が聞こえてきた。



「あそこにいるのって」


「パスティラとマラカナだね。知ってる? マラカナは【メタルリッチ】っていう種族で、肌を硬質化させられる特殊能力を持ってるのよ」


「マラカナか……」


「……もしかして、マラカナがタイプだったりする?」


「ち、ちげーよ。まああの大人っぽい色気はなかなか……」


「やっぱり好きなんじゃん」


「違うって!」



 タッタッタッ!

 と、そこでソニアとニーナは走ってくる足音を聞いて、近くの物陰に隠れた。

 そして走ってきたのは、なんとガーリック。グラウンドの方にいるものだと思っていたライダークは驚きつつ、どうして彼が走ってきているのか、どこに向かっているのかを考えて身を潜める。

 一方でガーリックはパスティラとマラカナのいる場所の真下で止まり、壁に背を向けた。

 上の方ではマラカナとパスティラがその様子を見ていた。



「アクアパッツァ君だ、なんのつもりかしら」


「校舎に入るつもりもない。いや、まさか……マラカナ! 弓矢を真下に向けられる⁉︎」


「え? ……ごめん、難しいかも」



 マラカナの弓矢は、台車に乗せて動かす大きな弓。その理由は体の皮膚を硬質化させられるマラカナの種族特性を活かすため、矢の先に自分の肉片をくっつけて、そこから硬質化を行う事で矢先を硬くし威力を上げるため……普通の弓矢では硬質化した重さに耐えられないため、こんな大きな弓を引っ張ってきている。ちなみに肉片を剥がした体の部分はコアによって治せる。

 とにかく台車付き大弓なため、真下には向けにくい。



「まずい!」



 パスティラはガーリックの考えがわかった。ガーリックから目線を外してグラウンドの方に向ければ、そちらからデットが走ってきていた。



「マラカナ! あのデットを射てる⁉︎」


「準備が間に合わない! ……硬質化させないままで射つ!」



 デットを狙って弓を放つが、デットはそれを素早く動いて躱していった。狙いは正確だったはずだが躱されてしまう。

 そしてデットはガーリックの元に走り込んだ。マラカナの弓が当たらない位置に。つまりガーリックの狙いは———!



「真下から襲撃すること!」



 デットは両手を重ねて組んだガーリックの手に足をかけ、ガーリックは思いっきり真上に向けてデットの体をかち上げる。

 デットは大きく上に飛ばされて、途中で校舎の壁の窓のヘリや凹凸に手や足をかけ、猛スピードで登っていく。

 あっという間に2人の元へデットが上がってきた。



「ッッッ! 【ファンデーション】!!」



 パスティラは咄嗟にコアで作った盾で、デットの振り下ろした剣を受け止める。



「へぇ、やる。盾は下げない方がいいよ」



 双剣でとめどない連続した猛攻をしかけるデットは冷静だった。



「これは私の双剣が盾を打ち破れるか、パスティラの腕が疲れて盾が下がるかの勝負だから」


「防ぎ切れるって結果はないのかしら!」


「ないね」



 パスティラは腰につけた剣に視線を向けるが、諦める。デットの言う通り、この猛攻相手には防ぐことに徹するしかない。

 万策尽きたかに思えたが、パスティラの視界の端からマラカナが手を伸ばしながら飛び込んできた。手の先は硬化で固められていて、形は鋭く尖っていた。その手はデットの片腕を掴んだ。

 デットの手から片方の剣が落ちる。好機と見たパスティラは腰の剣を抜こうとした。だが何よりも早く、デットは落ちていく剣を拾うわけでもなく、腰に手を回して何かを取り出した。それは———ガーリックの銃だった。


 パァン!


『マラカナ、パスティラ! 脱落!』

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