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開幕戦

 みんなペアが決まって行って、準備時間に入る。俺とニーナは学園の武器庫から武器を借りてきた。

 と言ってもニーナは武器を扱えないと言って何も借りなかった。本当は少しでも俺の力になりたいと無理にでも武器を選ぼうとしてくれたが、気持ちはありがたく受け取って、諦めてもらった。

 そして俺の選んだ武器は……。



「木の棒?」


「さすが学園だよなー、俺が扱い易いちょうど良い長さがあったんだから」



 手にはめた“黒のレザーグローブ”で棒を持って見せる。ちなみにこのグローブは準備時間開始直前に、女子から渡された。



「なんで木の棒なの?」


「コレくらいしか扱った事ないからだな。まー基本は殴ったり蹴ったりなんだが、無いよりマシかなってな」



 一度足を止めていたが、再び歩き出したニーナ。

 その後ろで俺は、自分で持った棒を見て、ちょっと寂しさを感じた。そしてそのまま股の間に挟んで———



「何してるの?」


「え! い、いや! なんでもない!」



 ニーナからの冷たい指摘に、慌てて股から棒を取った。

 顔が熱い。



「大丈夫かしら。それで、この辺りに隠れるのよね」


「あ、ああ、講堂が禁止区域ならこの辺りに来なさそうと思ってな」


「作戦はかくれんぼしながら好機を待つ。本当、それで勝てるのかしら」


「ま、果報は寝て待てって言うだろ」



 そうして俺らは胸につけたワッペンを揺らしながら移動して、講堂の建物の陰に隠れて競技開始を待つ事にした。周囲を見れば、校舎と講堂があって、グラウンド周辺の様子は見えない。



「開始と同時にグラウンドで何か動きがあると思う。結局ドコラ達意外全員出場したから、みんながみんな隠れてるわけじゃ無いだろう」


「グラウンドでは人が集まってるって事?」


「多分な」



 待つ間暇だな。

 暇になって自然と、俺の好きな植物を地面に書いていた。隣からニーナがそれを覗き込んできた。



「それなに? バラ?」


「いいやこれは『大和錦(やまとにしき)』だ。バラじゃなくてサボテンの仲間……というよりサボテンが多肉植物の仲間で、その中にこの植物もいる」


「でもバラにそっくりね、その花弁」


「今描いてるのは花じゃなくて葉の部分だ。バラのように開いて見せるけど、実際はバラと全然違って、バラは茎の上に花を開かせるが、大和錦の葉は鉢植えの土の上で開く。言うなりゃ大和錦は大地のバラだな」


「へー、でもなんで———」


「この葉っぱの緑の部分が、斑点模様に赤く染まっていって、紅葉がそう呼ばれるのと同じように錦色って呼ばれる。ちなみに葉の先っぽにはサボテンと同じようにトゲがあってな。それから花は茎からビヨーンと伸びて生えて、この葉っぱの間から出てくる」


「えっと、そうじゃなくて」


「それから同じ多肉植物に『不死鳥錦(ふしちょうにしき)』っていう不死鳥って植物の斑点バージョンがあってな。そっちも結構特徴的で、花も綺麗でさー、ラッパ状なのが垂れ下がって……その花が綺麗な紅色をしてて、あーあと不死鳥と不死鳥錦のタネの見分け方がピンク色かどうかだったり……」


「熱く話してるところ申し訳ないけど、私が聞きたいのはそこじゃなくて、なんで知ってるの?」


「なんでって……まあ『錦』に縁があってな、その過程で気になって調べていくうちに」


「どういう縁? もしかして錦のナントカ~なんて呼ばれてたりしたの?」


「………………」


「ソニア? 顔が紅くなってるよ? それが錦色?」


「こ、この話はなしだ! 終わり終わり!」



 慌てて地面に書いた大和錦の絵を消す。このまま行くと、あの恥ずかしいあだ名の事を説明しなくちゃいけなくなる。



「え~! 消しちゃうの? 綺麗に描けてたのに。写真も撮ろうとフラン取り出したばかりなのに」


「いらないっての!」


「まあこんな事してる場合じゃ———」



 ニーナが喋っている途中だった。学校のベルが鳴り響いた。開始の合図だ。

 そして学園長の声でアナウンスが流れる。



『これより126代目勇者パーティ候補Cクラスによる、Bクラス昇級をかけた争奪戦、競技ペアワッペンを開催します。3……2……1……スタートです』



 ドオオオオン!

 アナウンスが終わると同時に、辺りに大きな音が鳴り響いた。音の発生源はグラウンドの方だ。どうやら始まったようだ。



「……当初の予定通り隠れながら定期的に移動するぞ」


「うん。それはいいけどさ」


「けどさ?」


「今度、教えてよね。錦の事」


「多肉植物にまだら模様が付いてたら錦って名前に付くらしい」


「そうじゃなくて、あなたの話」


「……機会があったらな」



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「マック! お前の青の炎と、俺の赤の炎! どっちが強いか決着つけようじゃねーか!」


「そういう熱いのは嫌いなんだがな……応戦以外、あり得ないか! チキショウ!」



 一方、グラウンドではソニアの予測通りCクラスの面々が大勢集まって乱戦が巻き起こっていた。

 開始と同時にサンタンクが手に赤い炎を纏いながら、マックに襲いかかる。マックも手に、手の大きさと同じ青い炎を出現させて応戦。赤い炎と青い炎がぶつかり合い、爆発的な衝撃波を辺りに撒き散らす。



「ぐぅ! ううう」


「マック! お前のパワーはそんなもんか!」



 正面からぶつかり合い、押し合う。サンタンクの炎は大きく、威力もあってマックを押して行く。



「おいサンタンク! 出し切るなよ! 温存しながら戦え!」


「おっと、そうだった。わりーなマック、決着はまた今度な」



 オトロゴンに注意されてサンタンクは身を引こうとするが、マックはそれにニヤリと笑って見せた。



「勝手なことばかり言いやがって。俺を格下だと思ってナメてたら痛い目見るぞ! いいや見せてやる! ダッズン!」


「あいあいさー!」



 三角帽子を被った男子のダッズンがマックの背後に現れて、ぶつかり合う炎に手を向けた。するとなんとマックの炎が青色から赤色に変色して、サンタンクのものより数倍大きく膨れ上がった。

 これにはサンタンクもびっくり。



「な、なんだと! こんなデカい炎を……」


「落ち着け! ダッズンは魔法の威力や攻撃力は真似できないが、それ以外の形や見た目は完璧に真似できるんだ! つまり幻影! それはダッズンが出した偽物の炎だ!」



 気づけばいつの間にかマックが目の前からいなくなっていた。押し合っていた力が突然なくなった感覚を感じ、サンタンクは急いで周囲を警戒する。



「押し合うのをやめて隠れた⁉︎ ど、どこに行った!」


「炎の影だ!」



 ダッズンの出した炎の幻影の脇からマックが飛び込み、手に宿した青い炎を押し付けてくる。狙いはサンタンクの胸についているワッペン!



激灼拳(げきしゃくけん)! 【狛犬】!」



 しかしそれは先に気づいたオトロゴンが横から“深力”による波動砲によって吹き飛ばして妨害した。片手を軽く握りすぼめた形から波動砲を放ち、マックを吹き飛ばす。



「ッ! く、くそ! なんてパワーだ!」


「退くぞサンタンク! 戦いはまだ続く! 大きく消耗する前に場所を変える!」


「わかってる!」



 オトロゴンが指示するより先に、周りにいた他の生徒達に向けて炎を撒き散らしたサンタンクは、それにより道を作ってオトロゴンと共にマックの前から退いて行った。



「やっぱマックも油断ならねーな。ダッズンと組んだのも今のが狙いか」


「っ! 待て、前方! 炎でガードしろ!」



 バン!

 銃声がなり響き、飛んできた銃弾は炎で受け止められ、地面に叩きつけられた。



「⁉︎ まさか……」


「カミラとミカライトのコンビだ! 武器商人の娘と軍人の娘! まっ先に俺らを潰しに来たか」



 前方から現れたのは、黒一色のボディーラインに張り付くライダースーツを着た女子。大人びた雰囲気をして、艶やかな所作で歩いてくる。



「ミカライトの方かよ」


「どーも。優勝候補を落としに来たわよォ、イケメン少年クンたちィ」


「なんだそりゃ、同い年だろ」


「1人か?」


「私がそう簡単に身を晒すと思うゥ? 軍人の……それも基地で生まれた生粋の軍人の私がァ?」


「後ろだ! オトロゴン!」



 背後から忍び寄っていたもう1人、真っ白な軍服を着たカミラが迫ってきていた。白の軍服ジャケットを羽織って前を豪快に開いて、中は黒いブラだけというトンデモない格好の女子だ。

 彼女はオトロゴンに接近していたが、持っていた剣が当たる前に蹴りを刀身の横に当てられて、防がれた。



「おっと、そう簡単には行かないか」


「お前なんて格好してんだ!」


「動揺すれば貴方らの負けよ?」


「ちょ、ちょっとズルくないか!」



 剣を振ってくるカミラに対して、オトロゴンはかわしながら拳を打ち込むタイミングを探す。

 その後ろではミカライトが銃を向けてもう1人を牽制している。



「さぁて、私はソニアちゃんとこ行きたいんだけどねェ、アンタらを消耗させた方が安全———ッ! チィッ!」



 ダンッ、ダン!

 話の途中で、横から撃たれた事に気づいて咄嗟に体を翻す。ミカライトは飛んできた二個の弾丸を見た。鍛え抜かれた動体視力によって、高速で飛ぶ弾丸を捉えた。

 そしてそれがガーリックの弾丸だと即座に気づく。すぐさま銃を飛んできた方向に向ける。



「おっとと……何よォ、協力は禁止じゃなかったァ?」


「その銃、量産型の自動拳銃か。確かメタルアーマー社が出してる……ふん、信頼できるのは大手ってわけか」



 現れたのは予想通りガーリックだった。腰には刀を装備し、手には銃口が六つあるハンドガンのペーパーボックスピストルを持ち、ミカライトに向けている。



「貴方こそ小ちゃくて可愛らしい銃を持ってるじゃ無い?」


「お前の相方は別社の娘だろう? そっちを使わなくていいのか」


「何がァ? 私が何を好こうが、何を使おうが、全ては私の自由でしょォ。とーゆーかー、私の質問に答えてよォ?」


「マックと戦うサンタンクを狙ったお前らと同じで、俺もお前らを狙った。誰かを狙っていると気づかないうちに自分も誰かに狙われている」


「ふーん、じゃあァ」



 ミカライトはガーリックからサンタンクに狙いを変えた。



「私が今、サンタンク君をやってもいいってことォ?」


「……」


「おや、おやおやおや、どうしたのかなァ、黙っちゃって———」


「えい」


「え!」



 すると、後ろから気づかないうちにデットが走って近づいてきていて、ミカライトの横を通り抜けざまに彼女が胸につけていたワッペンを剣で切って壊した。



「そりゃ黙りもする。作戦が成功するって瞬間には特にな」



 アナウンスが響く。



『ミカライト、カミラ、脱落!』


「くっ! は、速すぎんのよォ!」



 ミカライトは反応速度も、動体視力も、勘も鋭く鍛えている。だがそれでもデットのスピードの前には追いつかなかった。斬られた瞬間に気づいたくらいだ。



「サンタンク! カミラが脱落だ! 俺の方からこの場を離脱する!」


「お、おう。なんでガーリックが来たんだ?」


「さあな」



 ため息をついて脱力するカミラの横を、オトロゴンとサンタンクが抜けていってその場からいなくなった。



「ガーリック、あの2人は? 今なら走って、近づいて、斬れる」


「必要ない。それよりも作戦通り蹴散らすのが先だ。そして次に警戒すべきはパスティラ達だ。何人か脱落させたら一旦退いて戦況を見定めつつ、パスティラを探す。アイツは必ず有利な場所に陣取ってるはずだ」


「……わかった」

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