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ペアワッペン

「これより、ギブソン・ゼットロックとライドウ・ヤナギの二名が抜けた二つの席をかけた戦い———B級争奪戦を開催する!」



 早朝、集められたCクラスの面々は講堂での学園長からの言葉にどよめき立つ。

 もしかして、昨日のメールの内容はこの事を言っていたのか?



「B級争奪戦?」


「B級の誰かと戦って勝てば昇級。それがルールじゃないのか?」


「まあ、まずは聞きたまえ」



 講堂のステージに集められた俺らは、真ん中に立つ学園長の話を聞く。



「今日、君ら以外の生徒達は休みとなっている。なるべく商都や王都に出て行くようにも言っておいた。ま、当然寮や校舎にはまだ残っている生徒もいるけどね」


「そんな連絡、昨日にはなかったよな」


「でもなんで全校生徒休みなんて……」


「それはこの学園全域を使って競い合うからだ。ルールの説明をしよう」



 すると講堂にワゴンを押して俺たちの担任が入ってきた。名前はイシュ先生。黒髪短髪、美人だが無表情で感情が読みにくい冷たい先生だ。そんな担任の先生が押して運んできたワゴンの上に乗せられていたのは何十個もの丸いワッペンだった。

 学園長はイシュ先生が学園長の元に来るより先に歩み寄って、止まったワゴンの上からワッペンを二枚取った。そして掲げて俺らに見せてくる。



「これからするのは『ペアワッペン』」


「ペアワッペン……?」


「空いたのは二席。だから二人同時に上がってもらうため、二人一組となって競技を行なってもらう。ルールは簡単。壊れると審判となる我々教員達に知らせが来る装置が取り付けられたワッペンを、体のどこかに取り付けてもらい、そしてペアのうち片方でもワッペンが壊されると二人同時にアウツ……そこで脱落となる」



 競技的なバトルロワイヤル、というやつさ。そう言った学園長は一度俺らの顔を見渡した。



「しかしCクラスの生徒数は41人。一人余る計算となる。なのでペアではなく一人で参加したっていい。ただし三人以上はダメ。競技中の他参加者との協力も禁止とする」


「なら私らはダメだな!」



 学園長の説明の途中で声をあげたのは、長い黒髪をして背が高めの女子。名前はドコラ。

 勇者が二人やって来た日の早朝に、ギブソンに挑んだらしい三人組のリーダーだ。そして残りの二人は彼女の後ろに立つ太っちょのボイラと、ガリガリのズヤァの男子二人だ。



「ちょ、ちょっとドコラ……」



 戸惑って声をかけるのはズヤァ。

 そんな彼の声も届かず、ドコラと、彼女に同調するボイラは大きな声で話を進めていく。



「私たちマグマベース出身の三人組は常に一つ! 三人組がダメだって事は、私たちは出場資格がないってわけね!」


「そうだそうだ! だよな! ズヤァ!」


「え、あ、え?」


「私は三人一緒にBクラスに上がりたいんだ! それは二人も同じ気持ちだろう!」


「ああ、もちろんさ! だよな! ズヤァ!」


「え、えーと……俺は別に」


「よっし! 学園長! 私とボイラとズヤァは参加しません!」



 二人から肩を組まれ、勝手に非参加を決められたズヤァは怯えていた。学園長は一応ズヤァにも意志を尋ねたが、ズヤァは考えたのちに『どうせドコラがいないと何もできないし』と参加を諦めた。半分渋々、半分悟った感じで。

 学園長はまた機会があるとズヤァを慰めてから、三人を不参加として認めた。



「あ、私も……」


「待ちたまえ」



 他にも不参加を伝えようとする生徒がいたが、学園長はそれを止めて話を続けた。



「彼ら三人の意思はわかった。しかしもう少し聞いて欲しい」



 競技を行う区域はこの講堂以外のすべてとする。競技中の者は講堂に入らない。脱落者はこの講堂に集まるようにするからだ。



「そして当然殺人もダメだ。武器の扱いには注意するように」



 出場者とペアが決定した後に一時間の準備時間を設け、スタート地点も準備時間が終わったその場からとなる。武器に関しては自分達の用意したものと、武器庫から借り受けたものを使うこととする。

 ただし競技中は武器庫を閉じる。準備時間中に借りる事。



「以上で説明は終わりだ。さて次にペアの取り決めだ。決まったら担任のイシュ先生に報告して、ワッペンに登録する。私が講堂から出て行ってから30分以内に決めてくれ」



 そう言って学園長は俺たちから離れて、講堂から出ていった。説明は以上というわけだ。



(よっし! よっし!)



 これはチャンスだ。

 説明中はずっと黙っていたけど、Bクラスに上がれる絶好のチャンスに喜びの声をあげたい気持ちだった。実際Bクラスの生徒には勝てる気がしなかった。けれどここでこの競技に勝つことができれば、昇級することが可能だ。

 しかしCクラス内でも下の方の実力だから舐めてかかる事はしない。ここは確実に勝てる方法を探すべきだ。



「———ニア、ソニア!」


「えっ? ニーナ?」


「ずっと声かけてたのに気づかないんだから」


「あ、ごめん。それで何か用事?」


「あなた、ラウラウと組みなさい」


「え?」



 俺がラウラウと組む?

 ラウラウの方を見ると、考え込んだ様子で立っていた。昨日の負けが響いていなきゃいいけど……って、人の心配してる場合じゃない。

 小声で話す。



「なんで私がラウラウと? 昨日話したくらいでそんなに接点ないよ?」


「知ってるでしょ、ラウラウが相当の実力者だってこと。昨日は負けちゃってたけど、実際上位の実力者と戦ってあそこまで戦えるのは中々ないことよ。まああなたがギブソンと戦えてたのも異常だけど、とにかくラウラウがいればあなたも勝ちを拾える可能性がある」


「私の勝利を考えて助言してくれたってこと? でもそうなるとニーナは?」


「私のこと考えてる場合? 私はいいから、あなたは勝つことだけを考えなさい」


「それはそうだけど……」



 もう一度ラウラウの方を見ると、彼女はいつの間にか俺の方を見ていた。目が合ってしまい、心臓が飛び跳ねる思いをした。

 緊張する俺とは違ってラウラウはジッと俺の方を見つめてくる。見定められてる感じだ。



「ほら、行って来なさいよ」


「お、おう」



 ニーナに背中を押されて彼女の方へ歩み寄る。向こうもこちらを見ているから気づいている。

 周りではCクラスの面々が各々話し合っていた。その騒めく横を通って、ラウラウの元まで行く。



「ラウラウ……その」


「アタシと組むの?」


「人から決められて、従うのは普通嫌なんだけど、友達の気遣いだし……うん。組みたい」


「でもアタシは嫌よ」


「えっ」


「昨日、私が声をかけた時、不思議に思わなかった? どうして私がアンタ達に声をかけたのか……たまたま見かけたから? 違う。ずっと見てたのよ。アンタとボルティナが走っているところをね」


「嫌って言うのは? 私が弱いから?」


「違う! けどなんだか、不安があるのよアンタを見てるとね」



 だからごめんなさい、と振られてしまった。ラウラウは俺から離れて行く。



「不安……」


「振られちゃったわね、ごめんなさい、ソニア」


「いやいいよ。大丈夫。と言うかそれなら一人で———」



 俺が一人で参加しようと言うよりも先に、少年の声がして俺の言葉を遮った。大声という訳でもなく静かに、だがその一言は存在感を放って何よりもよく聴こえた。

 少年の名は秀才ガーリック、そして彼は一人でいる少女に向かってこう言った。



「デット、俺と組むぞ」



 な、なんだって⁉︎

キャラ紹介


【C級の担任】イシュ・マームランス

 一年Cクラスの担任教師。いつも無表情。大農園サンシャイン出身。

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