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実力主義のクラス分けと“五芒星”

 食堂に入り、カウンターで給仕の人から料理の乗ったお盆を受け取り、ザッと食堂を見渡す。そしてネコミミのついたフードを顔が隠れるほど被った女の子が、カレーライスを口に運んでいるところが見えた。

 その子の近くに寄り、や……やあ、と歯切れ悪く声をかける。するとフードの隙間から赤い瞳が覗き、コチラを見ると、目が合った。

 目を合わしている間、少しの間沈黙の時間が流れた。食堂の喧騒も聞こえなくなったかのような静寂な時間が流れ………そしてフードの彼女はこくりと頷いた。周りのうるささが戻ってくる。



(ソニアの友達だというこの子には、多分薄々勘付かれている)



 このフードの子の名前はニーナ。どこかの国の王様の姪っ子なんだとか。その王様から育成のためにこの学園へきたものの……ソニアと同じ落ちこぼれだったらしい。

 しかし王族らしく人を見る目は鋭いようで、落ちこぼれ仲間の友達だというソニア(俺)に対して怪しげな視線を送り、俺がここに来てからずっと不干渉を貫いている。



「隣、座る……わよ」



 まだ慣れない女言葉を使い、隣に座らせてもらう。

 俺は入れ替わっていることを隠している。だからこうして言葉遣いにも、ソニアの友人関係にも気を遣っている。

 なぜ隠しているのかというと、言っても信じてもらえないからだ。これは偉大な魔術師ナパの言ったことで、あんなに賛美されている勇者が、本当は自分なんだと落ちこぼれの一女子生徒がのたまったところで、周りからは信じられずにバッシングを受けるだけだ。嘘つきやら酷い罵声を浴びせられたり、果てには暴力も振るわれるかもしれない。真実は言えない。



「カレーライス、食べてるんだ」


「だから?」


「い、いや……」



 話題を作ろうと苦心したが、出てきたのはつまらないもので、それもあっさり一蹴されてしまった。そこからは会話もなく食事に戻る。

 丸いパンをかじる。この体になってから食が細くなった。元の体だとブリの煮物一切れで白飯二杯はいけたのに……そこまで自慢できる例えじゃないな、これ。



(……ブリ食べたい)


「きゃあああああ!!」



 突然、女の子の悲鳴が食堂に響き渡る。すぐさま立ち上がり、何があったのか現場に行こうとしたところで、ニーナに腕を掴まれて止められた。



「どこ行くの?」


「えっ? いや、何があったのか確かめないと!」


「……そ」



 それだけ言ってニーナは手を離してくれた。何のつもりで引き止めたのかわからないけど、とにかく向かわないと!

 そして現場に行くと、周りにはどよめく生徒たちがいて……そしてその生徒たちをかき分けて真ん中に行くと、スープをこぼして倒れている女学生と、その隣で女学生の容体をよく確かめてから、頷く女の子がいた。



(あ、確か彼女……)



 その女の子に見覚えがあった。

 肩まで伸びた艶やかな黒髪に、頭の上にお団子に巻いた髪を乗せた可愛らしい子。その片腕には槍を持っていた。赤い槍であり、切っ先には切れないようカバーがかけられていた。

 彼女は……。



「大丈夫? 虫が居たんだって?」


「は、はい……どうも虫は苦手で、すみません、お騒がせしてしまって。それに“五芒星”の方に迷惑を……」


「迷惑だなんてとんでもない。君に怪我がなくて良かったよ」


「あ、ありがとうございます! リキュア様!」


「そんな、同い年なんだから様付けなんてやめてよ。あはは」



 優しく笑いかけ立ち上がる彼女の名前はリキュア。先程“五芒星”と呼ばれていたが、それはAクラスの中でもトップクラスに強い五人の総称だ。リキュアはその五芒星の一人。

 まずこの学園には三つのランクがあり、クラスも変わる。Aが最高で、Cが最低。

 ちなみに俺はC、ニーナもC、ロザリアとボディアはBクラスだ。



(最高ランクAクラスの中でもさらに突出して強いのが“五芒星”……いつか越えなきゃいけないかもしれない相手だ)



 俺は優秀成績を取って、勇者に近づくのが目的だ。優秀成績とは学術面はさほど重要ではなく、戦闘面の方がこの学校では重要視される。つまり俺の目的にはAクラスになることが最低条件。

 上のクラスに上がる方法は、ひとつ上のクラスの生徒と戦い、勝つこと。



「ん、おや?」



 すると事を済ませたリキュアが俺の方を見た。その視線にドキッとした。



「君は確か……」



 俺に話しかけているわけではない。視線は俺の方を向いているが、焦点は俺のすぐ後ろを見ている。横に避けながら後ろを振り向くと、大柄の男がリキュアを見下ろして立っていた。

 金髪に筋肉隆々の、大きな男子生徒。



「よおリキュアちゃん。事の次第は済んだか」


「ええ、この通り。なんともなかったわ」


「それは良かった」



 強面な顔つきを綻ばせて、大柄の男子は俺を押し退けてリキュアの元に歩み寄った。あの男は誰だろう。



「ソニア、ソニア」


「…………」


「ソニア!」


「え! あ、ニーナ。いつのまに」



 まだ慣れない呼ばれ方に反応が遅れてしまった。俺のスカートの裾を掴んでソニアの名を呼んでいたのは、さっきまでカレーライスを食べていたはずのニーナだった。



「どうした、のよ?」


「もういいでしょ。さっさと朝ごはん食べて、クラスに行こ」


「あ、ああ……うん」



 五芒星のリキュアと、金髪の男子が話しているのを尻目に俺はニーナに引っ張られて元の席に戻り、朝食を済ませて教室に向かった。

 誰だったんだろう、あの金髪の男子は。

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