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目指すものは遠くて

「ライドウ君も一緒に出て行ったんですか」



 紅屋もリキュアもいなくなった学園長室で、加えて聞かされたのはライドウもギブソンと一緒に退園したというもの。

 俺はさっき部屋で見たライドウを思い出す。



(つまりあの時にはもう、行く準備をしていたって事か)


「それで、次は本題に移ろうと思う。君の話だ」


「あ、はい」



 勝負の直前に学園長からここへ来るよう言われていた。そして学園長は俺の正体に気づいている。



「まず、私はキミをソニア・ブラックパンツァー君の体に精神を宿した勇者朝倉颯太君だと認識している。合ってるかい?」


「………」



 俺は部屋の出入り口の扉を見てしまう。



「大丈夫。聞かれてない」


「……わかりました。答えます」



 学園長の目を見て、答える。



「俺は男です。元は学園長の言う通り朝倉颯太でした。しかし召喚された瞬間に、召喚された瞬間すらわからない内に、気づけばこの体になっていました」


「どう言う感覚だった?」


「どう言う……? えーと、まず初めに胸が重いなと」


「え? ああ、いやそうではなく。ナパ君の話だと魔王の魔法でそうなっていると聞いたものでね。体に何か異変が起きているかもと思ったが……ま、君にとってはどちらにせよ“大変”だったか」


「あっ、そっち」



 心配してくださってたのか、なんか、変なこと答えたな。

 でも魔王が何なのか知らない俺にとっては、魔王の魔法がどれほど危険なのか知らない。厄介なのは身を持って実感しているが。



「ナパさんから話を聞いてたんですか。あー、だから知ってたんですね」


「そう。昨日、朝倉颯太君が来た時に彼から話を聞かされた。にわかに信じ難い話だったが……ギブソン君の問いに対して明確に答えを持っていたのをみて確信した。来たばかりの異世界人があんなすぐに答えられるわけないからね」


「しかし入れ替わってる相手が、このソニアだと納得できたんですか?」


「できるね。昨日今日の君の行動を見ていれば確信が持てる。いやちょっと前から不自然に思っていた。伊達に生徒を見てきているわけじゃない、ソニア君だってどう言う子なのか知っていた。それが急に豹変して、代わりに朝倉颯太に元のソニア君の性格を感じた」


「信じてくれるんですね」


「ああ。おっと口外はしないから安心してくれ。この件に関わっているのは“勇者”と“魔王”。慎重に扱うべきだろう」


「……それで、俺をここに呼んだのは事実確認のためですか?」


「いや君のこれからを一緒に考えようと思ってね」


「これから……?」



 これから、と言われても俺はもう決まってる。

 元に戻る方法を探す事、そして奴に近づくためこの学園で最優秀成績を収めて仲間に選ばせて、そして元に戻って魔王とやらをさっさとぶっ倒してから、元の世界に帰る。



「元の世界に帰れると思うかい?」


「え? 魔王を倒せば良いんですよね?」


「もしかして君は魔王を知らないのか? 異世界から来た人は大体魔王に予想をつけているものなんだが……」



 第六天魔王も人間だし、なんとかなると思ってたけど。



「そうだね、例えば君は30人に囲まれたら勝てると思うかい」


「はい。元の体なら」


「……。なら、100人はどうかな」


「100⁉︎ そ、それは流石に……」


「魔王はその100人の100倍、一万人相当の戦闘力があると考えてくれ。いやもっとかな」


「え……………」



 か、勝てない?

 あれ、勝てなかったら倒せないから……帰れない?



「そんな。それじゃ元に戻っても、意味がない……」


「まず元に戻る手段がないんじゃないかな。忘れたかい。入れ替わったのは魔王の魔法によるものだと」


「あ……」



 戻るには魔王から元に戻す方法を聞き出す必要があるのか?

 帰るにも魔王、戻るにも魔王。



「ど、どうすれば……そ、そもそも! 入れ替わり魔法は本当に魔王によるものなんですか?」


「ナパ君が言うんだから間違いない。彼はコアによる魔法活用技術開発の第一人者。人間の使う魔法は、魔族達の使う魔法をコアで模倣し戦術的に整えたもの。そして魔法は魔王が作ったものだから、それを研究し続けてきたナパ君は魔王の力に対して敏感だ。すなわち魔王の魔法だとナパ君が言うのなら間違いないんだ」


「え……それじゃあ、元に戻るにはやっぱり」


「魔王から答えを聞き出すしかないだろうね」



 え……え……。

 そんな。

 しかしよく考えればもっと早くに気づくべきだったと後悔する。魔王が何なのか調べたらどれだけ俺の目標が絶望的なのか分かったはずだ。



(いや元に戻る方法はニーナが童話から導き出すと……いいや、やっぱりダメだ。勇者と魔王が関わってるならニーナが危険になる)


「けど手がかりがないわけじゃない」


「え?」



 絶望していると、学園長がそう言った。



「魔王と関連した人物を一人知っている」


「え……?」


「それは牢屋に捕まっている生徒でね。かなり凶暴で魔王とも関わりがあるから、超危険人物として捕えられてしまっている。その子からもしかしたら戻す方法を聞き出せるかも」


「ほ、本当ですか⁉︎」


「もちろん、私もその子に聞いたよ。と言うか聞いてきたばかりだ。しかしうんともすんとも答えてくれなかった。けどもしかしたら、君だったら答えてくれるかも。どうだい、希望はあったかい」


「でも入れ替わりの事を何も知らなかったら」


「その時はその時。魔王に直接聞けないのだから」



 ただし、と学園長は続けた。



「何度も言うようだがその生徒はかなり危険。だからキミが話すにしても、危険に抗える強さが必要だ。なので彼女と話すための条件は、Bクラスに上がる事。Bクラスになった時に彼女と話す機会を与えよう」


「Bクラスに……」



 今日、さっきそのチャンスを逃したばかりだ。いや元々勝てない相手だったからチャンスを形に変えるのも運任せだったから、どの道ムリだっただろうけど。



「了解したかい」


「俺の目標はまずBに上がる事。はい、了解しました」


「あー後、もしその生徒の話が聞きたければ五芒星の子達に話を伺うと良い」


「五芒星?」


「あえて誰かは控えるが、あの中の1人がその魔王に関連した生徒と戦った事のある人物だ。話が聞けるなら聞いておくと良い」


「どうして誰かは言ってくれないのですか?」


「それが君にとっても、彼らにとっても利益になると考えたから、と言っても納得してくれはしないか。こんな言い訳をしても、君にあまりにも不親切。説明をさせてもらえないか」


「はい、お願いします」



 こほん、と咳払いをしてから学園長は話し始めた。



「私は長年この学園でいろんな生徒と、勇者を見てきた。私が生徒達を色んなところから集めていることは知っているね」


「はい」


「勇者召喚は15歳から、そしてこの学園は中等部から始まるから13歳から。すなわち私は勇者がどんな人物かわからないまま、必要かも知れないという考えだけで集めている。しかし……無作為に選んでいるはずの生徒達が、どう言うわけか、勇者にあんがい都合のいい子達なんだ」


「どう言う事です?」


「気が合う、似ている、信頼し合える、喜びを分かち合える。勇者と生徒はまともに会ってないのにも関わらず互いに仲間になるのに衝突も少なく、互いに利益のある関係性になるんだ。不思議なものだ。運命というやつかな」


「はあ……運命ですか」


「そして今代の勇者は君だ。そうだろう?」


「え? あ、そっか。それじゃつまり……」


「彼らは君と通じ合い、分かち合い、信頼し合える準備ができている。入れ替わってしまって、性別も変わって大変だとは思うけど、君が彼らと同じ生徒の立場にやってきたのは彼らにとっても君にとっても有益な事だと私は考えている。だからこそ彼らとは沢山会話して、関わり合って、心を通わせて欲しい。その機会を増やすために私は答えを言わない」


「……う、うーん。なんか運命とか、信じられる要素は少ない気がしますが」


「納得してもらえないかい。さらに言葉を尽くす準備はしてあるけど」


「いや五芒星に関してはもう大丈夫です。それよりも……」



 そもそもの話、どうして俺は勇者として召喚されたんだ?

 召喚された時に王都側の人間から説明されるとか。

 いやそうじゃない。その説明はなんで勇者を召喚したかの説明になるだろう。俺が気になるのは……。



「俺が勇者に“ふさわしい”とは思えないんですが」


「そうかい? 私は気に入ってるけどね。おっと上からだったか。すまない」


「あ、いえ」



 でも本当に俺が勇者として召喚されたのはなんでなんだろう。

 元の世界での生活を顧みても、ふさわしいと思えるモノは見つけられない。と言うか最低な奴だと自分で思っている。

 喧嘩ばかりして、親とも昔喧嘩して———殴ってしまったし……———、初恋は神社のお守り屋の巫女さん。そんなくだらない俺に勇者として召喚される要因はないと感じる。



「俺が召喚された理由って何なんですかね」


「……今年の勇者召喚に王都側はかなり期待していた様子だったが……しかし、すまん。私にはその答えを持っていない。けれど僕の視点からすれば君は勇者にふさわしいと思えるよ」


「……すみません。余計な事聞きました」


「いやそんな事ないよ。疑問に思うのも当事者として当然だろう。いくらでも聞きたまえ」


「ありがとうございます」



 それから、近い内に昇級できる機会があるから準備しておきたまえ、と忠告を受けたのを最後に学園長との話を終えた。



「あ、そういえばソニアに関して」


「…………そこはノーコメントにしておきたい。私自身も、この歳で恥ずかしいが、頭の中を整理しきれなくてね。もう引退かもな」



 出て行く前に聞いたことは学園長にとっても悩みの種だったようだ。学園長として生徒であるソニアを心配したい気持ちもあるが、アイツの性格上どう扱えば良いのかわからないのだろう。

 アイツが首謀者かも知れないと言うのは……学園長だって考えついているはずだ。無駄な負担になるか。やめとこう。

 次の学園長はナパ君に頼もうか、なんて言っていた学園長と別れて学園長室を後にした。



(魔王、勇者……そして俺のすぐ周りにいる学園の同級生達)



 色んな話を聞いた。一歩前進と言ったところか。

 まず元に戻っても魔王には勝てない。それ以前に元に戻る方法も魔王が握っている。

 手がかりは牢屋に捕まっているという危険な生徒。ソイツの会うにはまず力をつける必要があり、そのためのBクラス昇級という最低条件。

 ひとまずはBクラスを目指す。



(負けたばっかで、リベンジする相手もいなくなって、それでも上を目指せか。ヤバ、気ぃ重くなってきた)



 同時にいつも重く感じる胸が、さらに重くなった気がする。

 思い胸を抱えながら、部屋に戻った。そして扉を開ける。



「おかえりー、ソニア」



 ルームメイトの何気ない一言。

 けれど不意に、なんだか、その一言に少し救われた気がした。



「ん? どーしたのソニア?」


「いや……明日からまた疲れるかも、なんて」


「また夜中に特訓とかするのー? 次からはちゃんと寝る前にカーテン閉めてよね。と、こ、ろ、で……今日は疲れてるよね? よね?」


「な、なに?」


「マッサージ、しよっか?」


「いやいやいや! いらないいらない!」



 また揉まれるのは勘弁!変な気分になるんだよ!

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