錦の喧嘩師
———ギブソン・ゼットロック視点
イテェ……初めて、こんな蹴りを喰らった。自分の芯が揺れるのがわかる。頭も脳もぐらついて目の前が揺れる。
目の前で銀髪がなびく。
(コイツは……誰だ?)
俺は一体誰と戦っている?
朦朧とする意識の中で、目の前の女子が、まるっきり別人に見える。
考える内に、段々とはっきりして来る意識……すると今自分がどういう状況なのかを知る。
なんと俺はソニアの肩に担がれていた。俺の腹を頭の後ろに乗せて、30センチも違う女子が俺を持ち上げている。
「な、なにする……!」
「こっからが……俺の……奥義だ!」
担ぎ上げられてから、なんとソニアは俺の体を真上に打ち上げた。その高さはさっき俺が飛び上がったのよりもさらに高い。天井に届きそうなほどの高さ。
俺を打ち上げた勢いは、俺の体を固まらせるほど。もがくこともできず、そこから落ちていくだけ。
「暴を禁じ、兵を治め、大を保ち、功を定め、民を安んじ、衆を和せしめ、財を豊かに———」
下を見れば、ソニアが両腕をダランと力なく下げて待ち構えている。
いいやアレは、あの力のない構えは待ち構えているのだろうか。わからないまま俺はソニアの元まで到達し、そして———
「【天下布武】!!!」
一気に、真上に突き上げたソニアの両腕。
二つの手のひらは俺の腹を突き、メリメリとめり込んでくる。
(ぐ、ぐるじ……ガハッ!)
圧迫されて痛みと苦しさが、空気と一緒に口から吐き出される。
腹を突いた両腕はそのまま俺を放り捨てた。床に転がり、腹を抑える。
(全然、違う……さっきまでとはまるで別人だ!)
俺が【大陸落とし】を使った後からだ。その時、ソニアの体にコアの流れが見えて……そっから変わった。
まるでソニアに何者かが宿り、力を貸しているような……いいや、ソニアの中に全く別の誰かがいるかのようだ。
「へ、へへ……そうかい」
違うのか。
勇者が来てからずっと変なことばっかだな。勇者が悪者だったり、ソニアが別人だったり。
ソニアを見ればまだコアの流れは見えて、まだ戦えるようだ。
「そうじゃなきゃな……この技を使うつもりはなかったが」
俺の全部をぶつけてやる。
ソニアではない、ソニアの中にいる、惚れた誰かに向けて———!