『筆頭』と『最強』
———『筆頭』視点。
思わず、自分が見惚れたものを悟られたくなくて元々深く被っていたフードをさらに目が隠れるほど深く被る。
視線の先ではソニア・ブラックパンツァーの綺麗な蹴りがギブソン・ゼットロックに炸裂しているところだった。
ギブソンの体はぐらつき、倒れ込む。ソニアは疲労が溜まっていて追撃できない。どちらも攻撃できない膠着状態に陥る。
(綺麗、だったわね。あの蹴り)
蹴るまでの動作、蹴り込んだタイミング、蹴り込む位置、蹴った後の動作。それら全てが美しかった。
あれは一朝一夕ではできないであろう。磨き上げられている。洗練された所作と、慣れが垣間見える。
ソニアと自分はほぼ同じ身長だ。自分がもしギブソンにアレを喰らわせようと思ったら、あそこまで上手く出来る自信がない。
「どこであんなものを覚えたのかしら……」
ソニア・ブラックパンツァー。ほとほと聞いたことがない名前だ。どこかで聞いたかも知れないが覚えられるほどの印象は持っていない。
けれど自分でも驚くほど見入ってしまった技。いつの間にあんな才能が私たちの代のCクラスに生まれていたのか。
(あの勇者にも、あの蹴りを喰らわせていたのを私は見ている。あれからだ。あの瞬間から彼女は私の中で大きくなって来ている)
「———お前がそこまで熱中するほどかい、アイツは」
急に横から話しかけられた。
それを余裕を持って受け止め、フードの隙間から横目で、話しかけてきた人物を視認する。
学生服のシャツの上に軍服を着た男。サングラスと頭には翼の缶バッチを付けた黒緑のバンダナを巻いていて、人相が隠れている。
彼は昨日の勇者とギブソンの戦いの場にはいなかった人物だ。
“五芒星”の『筆頭』と呼ばれているのは私だけど、この男は『最強』だ。五芒星最強すなわち126代目勇者パーティー候補最強。
彼は下にいるソニアを見ながらこちらに歩いてくる。
私は冷静さを保ちながら返す。
「……何か、感じるものがあってね」
「ふぅん。お前にしかわからないものでもあるのかね」
飄々としたその男は、私の隣で立ち止まると、一つ席を開けて隣に座った。
「……昨日はいなかったみたいだけど、なんだか彼女の事を知っている風な話し方ね」
「ダチに動画撮ってもらってな。それ見て、こりゃイイ蹴りだと思って見にきた」
ヒラヒラと振りながら手に持った『フォン・ラーニング』、略称フランの画面を見せてくる。そこには昨日の勝負の最後、勇者朝倉颯太を蹴飛ばすソニアの姿が映っていた。
「あなたのお眼鏡に叶うなんてね」
「蹴りだけじゃねーぞ。なんとなーく、気に入った」
軽口を叩くように、特に気持ちを乗せず、彼はそう言った。
「お前も似たようなもんだろ」
鋭い眼光がこちらを見る。それに言葉ではなく、首を傾げる事で返事をして、そして話題を変える。
「ところで、どうして昨日はいなかったの? もしかして勇者が来ても来なかったのは、勇者に興味がなかったから? 今代の、私たちの勇者が気に入らないから?」
「バイク免許取ったばっかでな。バイク乗り回してたから校内にいなかった」
(……なんか、可愛い理由ね)