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ギブソンとの戦い

「!」



 腹に食らわせたはずの肘鉄は全然効いていない。肘が腹にめり込んでいるのに、痛がる様子が全然ない。



「……なあ、それが本気か?」


「ッ!」



 距離を取ろうとして、しかし頭の怪我で足がふらついて倒れてしまう。だったらと完全に倒れる前に足蹴りを喰らわせようと足を伸ばした。

 だが俺が想像していた動きは全然できなくて、蹴る前に床に倒れて、足蹴りもギブソンに当たらず、違う方向に伸びていた。しかも当たっていたとしてもギブソンの爪先を小突く程度だったろう。

 何かしようにも、何もできない煩わしさ。



「ぐ、あっ……」


「本当にそんなもんか? 悪者を蹴飛ばして見せた綺麗な足蹴りはどうした?」


「綺麗な……?」



 そっか。あの時はちゃんと元の俺の蹴りができていたのか。

 だったら今もできるはずだ。なのに、初めからずっと昨日と同じように自分を想像して着るような感覚で力を出そうとしてるのに、全くできない。

 と言うか考えも、どんどんまとまらなくなってきた。多分、頭の怪我のせいか。



(ば、バカしたな……頭の血が出て、脳みそ回らね……)


「こっちから行くぞ。女だからって、容赦はしない。つかお前はそう言うの嫌いだろ」


「よ、よくわかってんじゃねーか」



 正直、手加減して欲しいけどな。この体を扱っていると切に思う。けどそれを口にするのは俺の心が許さない。

 ん?

 心……?



(俺の心は確かにあるのか)


「さあ行くぞ、意識保てよ! 意識無くなった瞬間に学園長に治してもらって、勝負終了だ!」



 軽々と体が持ち上げられる。そして空中で体が回転して頭が下にくる。

 そこへギブソンも飛び上がってきて、後ろから腰に手を回してきた。

 まさかこの体勢は!



「【パワーボム】!!」



 腰が曲げられ、背中を床に叩きつけられた。空気が一気に肺から出てゆく。



「カハッ……!」



 い、いてぇ!手加減しろって言っただろ!いや言ってなかったか!

 くそ。こんな自分勝手な考え方すんのは窮地になってる証拠だ。ギブソンは一回しか攻撃してないって言うのに!



「げほっ! げほっ!」



 床に大の字になって、呼吸を整えようとする。だがこの一撃でもう疲労困憊だ。

 勝てそうにないと思う自分を、腹を殴って戒める。



「へぇへぇ……ぶえっ……くっ、かはっ、はあはあ」


「降参は? ありかなしか」


「……なしに決まってんだろ」


「なら続けようか」



 今度は逆さに持ち上げられて、ギブソンは自分ごと倒れる。これはアイツにもやっていたブレーンバスターだ。

 ゆ、床でやるなよ……ぐえっ!



「ぐ! ぐ、ぐう……」


「まだだぞ!」


「ぐあっはっ!」



 今度は鳩尾にエルボードロップ。息をする暇もない。

 グググ、と肘が減り込まれて吐き気を催す。グリグリとさらにねじ込まれるとさらなる苦しみと吐き気。苦しい……!



「うぷッ……ぐぇ……くっ、くッウッ……ブッ、ク、シュー……! んゲハッ、ハグゥ、んン……ガフっっ」


「もしかして、俺の探し求めている答えを、お前は持っていないのか?」


「かはっ!」



 勝手言いやがる。

 ギブソンは俺のから体を離すと立ち上がり、見下ろしてくる。とっても純粋な目をしていた。



「はあっ、はあっ……お前の欲しいのがなんのか知らねーけど……俺はお前の喧嘩を受けただけだ」


「どうして?」


「喧嘩に理由を求めるな……バカ」



 腹に力を入れようとすると、鳩尾にさっきの食い込んだ肘の感覚が蘇ってきて、苦しい。

 腹に優しく手を置いて膝を折って体をなるべく丸める。なんとか動けるぐらいには痛みも無くなって欲しい。



「………俺は、勇者を越えた勇者になりたい」


「言ってたような気もするな」


「笑わないのか」


「笑ってほしくないのか。ならなんで言った」


「笑われてもいいが、答えが欲しいから」


「なら……お前が聞きたいのは勇者がなんなのかってことか。やっぱり」



 話しているうちに、段々と痛みが和らいでいく気がする。

 今のうちにコアの扱いを試してみよう。

 さらにギブソンの質問は続く。



「お前はどう思う? 勇者とはなんだ?」


「……昨夜、寝る前にちょっと考えた。けどどうしても同じ答えに行きつく」


「それは?」


「勇気とは心と行動の話。なら勇者は、その心と行動に関連する者だと思う。ならどんな心か、どんな行動か……だから———」


「だから?」


「ふさわしさ、が重要なんじゃねーかな。ケンカの赦しが必要なこの世界で、暴力を持てる勇者は正義の勇者にも悪人の勇者にもなれるはずだ。お前がアイツを悪者と言ったように、勇者と悪者は一歩間違えればどっちにでもなれる。なら自分でも他人から見ても、心と行動が勇者に相応しいと思える、その人が勇者なんじゃないか」


「…………」



 ギブソンは表情を変えず、ジッと俺を見下ろしている。

 そろそろ体は動くな。



「まあ俺的には勇者自体は別にどうでもいい」


「ん?」


「あとな、勇者はもう一個なっちまうものがある。なんだと思う?」


「なんだそれは?」


「愚か者だ!」



 コアの扱いはできなかったが、体はなんとか動くくらいには回復した。そして貧弱な体でも、できる攻撃がある。それは、目潰しだ!



「なるほど、勉強になった」


「ありゃ」



 寝ている体勢から飛び上がって、チョキでギブソンの目を突き刺しに行ったが、簡単に腕を止められた。

 や、やっぱり寝転んだ体勢から身長の高いギブソンの目を狙うのは悠長すぎたか。



「ちょっとモヤが晴れた気がする。だが同時に新たなモヤが生まれた。雨が止んだら次は雪が降ってきたみたいな気分だ」



 ぐいっ、と掴まれた腕が引っ張り上げられて持ち上げられる。肩が外れそうだ。

 そして目の前にギブソンの顔がくる。



「さっきから俺やらなんやら、この世界だのなんだの———お前は誰だ」


「な、何でもかんでも聞いて答えてもらえると思うな。答えられない答えもあるんだよ」


「そうか。なら何某、これから俺は本気で行く。コアで防御できるならしとけよ」


「したいのは山々だがな……うくっ⁉︎」



 背中側から腰に手を回されて、そのまま高く飛び上がった。現実ではあり得ない高さまで、ジャンプして連れてこられた。会場の全員が見渡せる。

 このまま落とされてもマズイし、ギブソンは何かするつもりだから尚のことヤバイ。

 防御しなきゃ!防御防御防御防御防御———ッ!



「死ぬなよ!」



 まさかこれがボディアの言ってたギブソンの恐るべき技か!?

 プロレスの技に入る時と同じく、ギブソンは技の体勢を取っていく。まず俺の股が開かれて、そして足をギブソンの開いた太ももの上に乗せられて固定。足から抜け出そうにも足がかっぱらいていて股関節に上手く力が入らない。

 ならば上半身で、と思ったところに、顔面をアイアンクローで掴まれる。

 空中で足が開いたまま固定され、頭も抑えられた。このまま落下すれば……ッ!



「【大陸落とし】!!!」



 ドガァン!と俺の背中と後頭部が落下と同時に叩きつけられた。落下のスピードと威力が合わさって、その威力は床を割った。

 講堂全体が揺れ、衝撃音が轟く。



「ゴボッ!」




 痛い、喉が熱い……背中の感覚が痺れてなくなった。吐血してしまった。

 けれど……けど、生きてる!

 ギブソンは俺から離れると、立ってこちらを見下ろす。口から血を流して倒れる俺を見ている。



「……途中、コアの流れを確かに感じた。咄嗟にコアで防御したか」



 そうか、俺は防御しようと必死になっていたが、コアを操れていたのか。



「しかし続行不可能だろう。終わりだ。学園長の采配もそう言うだろう———」


「まだ終わってねぇぞ」



 こちらに背を向けたギブソンの、足を取る。必死に掴んで、そして足首を捻り上げる。



「ぐっ⁉︎ あ、アンクルホールド……」



 たまらずギブソンは倒れ込む。

 コアだ、いいや、心だ。心の向くままに……凶暴な俺を目覚めさせればいい。

 力がみなぎって来る。足首を持つ手に力が入る。



「ぐああっ! ど、どこにそんなチカラ、隠し持って……」



 痛がるギブソンの足を持ったまま立ち上がる。

 そして足を引っ張り、ギブソンの巨体を背負い投げして床に叩きつける。



「こっからだ……!」



 思い出せ、中学生の頃を。

 思い出せ、元の俺を。

 喧嘩に明け暮れた日々を。

 立ちあがろうとするギブソンに向かって、いつもの、慣れた足技を喰らわせる。



「【神風】!!」

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