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ケンカの赦し

 チュパッ。


 朝、ギブソンとの戦いが行われる講堂に向かう途中、入り口前でロザリアと一緒にいるボディアと出会い、そして朝の挨拶をした。つまりキス。

 昨晩マッサージの皮をかぶったセクハラを受けて、次の日には女の子とキスなんて。どうなってんだ俺の人生。ほんとに。



「ソニア、いってらっしゃい。頑張って。ギブソンはBクラスでもかなり強いから」


「勇者との戦いではその強さをほとんど見られなかったけど」


「フェアのためにあまり口出しはしないけど、ギブソンには恐るべき技がある。気をつけて」


「恐るべき技……?」



 ボディアからの助言を受けて、尻に食い込むブルマを治しながら、講堂に入っていく。周りの観客席には、人がまちまち程度で少なかった。



「昨日に比べると超少ないわね」


「そりゃ勇者を殴った2人って認識だろうし」


「……じゃあなんでロザリアとボディアは来てくれたの?」



 今、学園長の計らいで俺とギブソンの戦いの間は授業もなく、誰でも講堂に入って観戦できる。それでも今いる観客は昨日より少ない。

 ロザリアとボディアはなぜここにいるのか。俺の戦いを見に来たって事だろうけど……そういや昨日のマッサージ(仮)の時にも思ったが、ソニアとロザリアってそんなに仲良いのか?学園に来た当初はそんな風に思えなかったんだが。

 2人は順番に理由を言ってくれた。



「私はルームメイトがクラスメイトにもなる瞬間を見に来た」


「私は……」



 しかしボディアの方は一瞬黙り込んで、それから言葉を選んでから答えた。



「ソニアとギブソン、どちらが勝つか気になるから」


「……」



 その答えが、ボディアがさっき答えようとしたものとは違うのは誰が見ても明らかだった。

 さらに俺はその奥の、ボディアが答えようとしたものがなんなのか、わかった気がする。多分ボディアは朝倉颯太が気に入らないんだ。だからあの勇者を殴った2人の戦いを見に来た。そう言う感じか。



「あ! ソニアソニア! あそこ! ニーナがいるよ!」



 ロザリアが指差した方にはネコミミフードの友人が、講堂のステージの隅っこに立っていた。



「よ」


「……よ。ずいぶんと気楽なものね。これからBクラスの相手と戦うって言うのに。なんのための戦いなんだか私にはわからないわ」


「昨日はありがと」


「私はちょっと寝不足。と言うか筋肉痛」



 ニーナと話してから、ステージの方を見れば学園長が1人、中央で立っていた。背中に両腕を置き、静かに立っている。



「学園長は何してるの?」


「祈り。戦闘という“邪悪”な行いに対して赦しを神に承ってるのよ」



 俺のささいな質問にボディアが答えてくれた。



「邪悪?」


「本来ここは勇者のサポートと、魔族との戦いに向けて戦闘訓練を行なっている学校。それなら無作為に、イタズラに、あちらこちらで戦闘を行うのは悪とされている」


「え? ケンカもダメなのか」


「……?」



 首を傾げるボディアが俺を見つめて黙り込んだ。

 代わりにロザリアが続ける。



「まあアレだよ、多分、“力”って言うのは必要だけど怖いもの。その怖い部分が、神から私たちに向かわないよう、暴力は悪いことと知っているので神様どうか天罰はやめてくださいって許してもらってるって事じゃない?」


「この中で数少ない地元民なのにあやふやね」



 ニーナがぼそっとツッコんだ。



「あれっ、そういえばボディアとニーナが集まったら他国の生徒大集合ね。って、あんまり知らないのは仕方ないじゃない! 神様なんて興味ないし!」


「こら、ロザリア。いつも言ってるでしょう?」



 ロザリアはボディアに叱られた。



「えー、でもソレ、よくわからないし」


「怠慢は大罪の一つ。大罪と規定しているその意味はやったらダメという躾と同じ。つまり怠慢も傲慢もやってしまえば必ずマイナスの状況に陥る。神様への祈りや理解はキチンとしておくべきよ」


「私は神父様でも哲学者でもない! だからわかんなーい! 逃げます! それじゃソニア! 頑張ってね!」



 逃げるように、というか逃げてロザリアは観客席の方に上がって行ってしまった。ボディアはため息をつきながら、



「私って面倒くさいかしら」


「え?」


「ああ、いえ。なんでもないわ。ソニアもギブソンも応援してるわ」



 ロザリアに続いてボディアも上がっていき、ニーナとは何も言わずに視線だけを交わして、ニーナも観客席に行った。残されたのは俺一人。



「じー………」


「⁉︎」



 すると俺に向けられる視線を感じて、上を見上げると、真上にレッサーベアーがいた。観客席の手すりから身を乗り出してこちらを見下ろしているのはちょっと怖かった。



「レッサーベアー、来てたのね」


「もちろん。私の教えたこと、覚えてる?」


「コアの本質ってやつ?」


「そ。自分を信じて、自分の心を信じてあげて。そうすれば……まあ一矢報いるくらいはできると思う!」


「応援になってる? それ。勝つとは言ってくれないの?」


「ギブソンの強さは同じクラスの私も知ってるから。まず勝てないと思うから、初めから全力で行った方がいいよ」


「そのつもりよ」



 レッサーベアーとの会話を終えて、学園長の元へ行くことにする。リーナやロザリアのいる所も見えた。手を振ってくれたので振り返す。



(心か……昨日アイツを蹴飛ばした時みたいに、元の自分を今の自分に当てはめる……いや服を着る感じかな? 纏うような気持ちで……)



 学園長の元に行くまで、頭の中ではどう戦うかシミュレーションしていた。

 そして祈り中話しかけるのも申し訳ないと思って、後ろに立って待とうとした。しかし俺が立ち止まった瞬間、学園長から話しかけられた。



「ソニア・ブラックパンツァー君、私の横へ」


「あ、はい」



 言われた通り学園長の横に立つ。顔を伺えば目を閉じていた。祈り中も目を閉じていたようだ。



「朝倉颯太は王都に帰ったよ」


「え! か、帰ったんですか?」


「ああ。まるで襲われたみたいに怯えた顔で、昨日の夜のうちに帰って行った」



 襲われた……まさか、俺か?記憶がないけどVIPルームで俺がアイツを襲って撃退したのか?



「それと……」



 昨夜何があったか思い出そうとしている俺に、学園長は声を小さくして、



「この勝負が済んだら学園長室に来たまえ。君と話がある」


「え?」


「勝負の邪魔になるなら忘れてしまってもいい。ルームメイトのロザリア・マルキュリア君にも伝えておく」


「あの、話って?」


「………」



 学園長は一瞬黙った後、目を開き、こちらを見つめてきた。学園長の目は薄い青色の綺麗な瞳をしていた。



「君は、勇者の朝倉颯太だろう?」


「え!」



 なんで知ってるんだ⁉︎バレてた⁉︎



「話はこれまで。続きは後で。ギブソン君も来たしね」


「あ……」



 気になるけど打ち切られた。

 そして学園長が講堂の入り口を向いたので、俺もそちらを向いた。すると確かにギブソンと、友人と思われる黒髪メガネの少年の二人が並んで入ってきていた。



「え」



 そしてギブソンの姿を見て驚く。ギブソンは昨日と同じ運動着を着ていたが、体のあちこちがボロボロだった。

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