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長い一日の終わり

「おかえりー、ソニア」



 ルームメイトの出迎え。俺が部屋に戻るとロザリアがテレビを見ていた。

 ベッド、ソファ、テーブル、そして壁にテレビが付いている2人部屋。部屋に入るとロザリアの観ていたお笑い番組かなんかの声が反響してよく聞こえる。

 ロザリアは俺が入って来るのを見ると、わざわざテレビを消してくれて、話し始めた。



「何してたの?」


「いや、別に」


「そうなの? おでこ赤くなってるけど……転けた?」


「大丈夫、寝れば治るから。それより今もう結構時間経ってるわよね」


「まーね。放課後に勇者が2人来て、ギブソン君が勇者と対決して、そのあとだから夕方ももう越えちゃってるよ」



 そう思うと長い一日だったな、今日は。

 ロザリアの格好を見れば、すでにパジャマ姿。夜9時から朝の4時まで何するのも生徒の自由。ロザリアはもう寝る準備ができているみたいだ。



「ロザリアは寝ないの?」


「まだだよー。それよりソニア、ちょっといい?」


「ん?」


「今日、どうして勇者を蹴っ飛ばしたの?」



 真面目な顔をしてそう聞かれる。

 確かに気になるよな。どう答えようか?



「うーん」


「答えにくいの? 私ね、ギブソン君が戦い出したのもビックリした」


「そうだね。私もビックリした」


「だよね! でもなんだかさ、こう……スカッとした自分がいたのが一番おどろいた。ギブソン君が張り手でぶん殴った時も、ソニアが顔面を蹴飛ばした時も」


「スカッと? もしかして勇者の事が気に入らなかったとか?」


「そんなわけない……はずなんだけど。うーん、わかんなーい!」



 頭を掻いて悩むロザリアの姿を見て、ふと、なぜギブソンが勇者にあんな事を言い始めたのか、考えてみた。

 勇者に疑問を持つことは、この世界の人間たちにとってどういう扱いになるのだろう。やはり冷たく白い目で見られてしまうほど、異分子だと思われてしまうのだろうか。でもロザリアが悩んでいるのは恐らくギブソンの行動が原因だろう。勇者への疑問が伝染して周りにもこういう考えを持つ者が現れ始めている。

 ならギブソンも誰かから伝染したものが、今日あんな行動を起こした原因となったのかもな。



「うあー! わかんない! けど、ソニア!」


「ん? なに?」


「お風呂入るよね!」



 ……え?



「と、突然なに?」


「今考えてるうちに、ソニアがずっと運動着のままなのに気づいたの!」


「そ、そう。まあ今も着てるけど」


「それでお風呂入るよね?」


「あー………うー………」



 入らないと、ダメかなぁ……。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 ギィ、と風呂の扉を開けてペタペタと湿気ったタイルの上を裸足で歩く。冷たい水を踏んで足から肩、頭にかけて感覚が伝染する。

 ブルブルと体を震わせると、何も身につけていない胸が揺れる。今の俺は裸だった。

 生まれたままの姿。無駄な着衣を身につけず、これからシャワーを浴びる格好になっている。ただ一つ無駄な付属品があった。



「こ、こけないようにしないとな……」



 前が見えないので、滑りやすいタイルを気をつけて進む。

 そう、俺は今、灰色の鉢巻で目隠ししている。



「ブラしてないと重いな、やっぱ」



 揺れるとバランスを崩してすぐに転けてしまいそうだ。と言うか今まで風呂に入る時に何回か転けている。



「シャンプーとかは……まあ、いいか。面倒くさいし」



 シャワーで浴びるだけにしよう。

 上からシャワーの水をかけると髪にあたり、長い髪を伝って流れ落ち、そして胸にかかる。

 お湯が胸にかかり、丸い胸の形に沿って水が伝い、胸の下の方から感じる男の時にはなかった感覚。乳房の下半分、丸く湾曲したそこに水滴が集まって雫となり胸から離れて下に落ちていく。

 そして乳に隠れた部分には中々お湯が流れていかず、それも初めての感覚。



「谷間にも、水が」



 ブラや服を着てなければ乳房は左右に垂れて、ハッキリと谷間ができるわけではない。しかしソニアの胸は大きく、それでも水が溜まるほどの谷間を形成している。

 股の方も色々と違和感があった。何度も味わう喪失感。その度にお湯を体にかけているのに体が震える。



「体さわって洗うのも……いっか。めんどいしな」



 逃げるようにサッと浴びてから風呂を出た。

 脱衣所と洗面所は一緒になっていて、すぐ横に上半身が映ってしまう鏡がある。それも見ないようにする。見れば乳房の全てを見てしまうだろう。

 ロザリアからはしない方がいいよと言われたが、しないで寝ると胸元の違和感がすごく落ち着かないのでブラをする。前留めのブラをして、それからパジャマを着ていく。適当に選んだが今日は黄色いパジャマだった。

 胸元がパッツパッツになって、運動着と同じように服が押し上げられて腹が出てしまい……あれ?なんでこんなに合わないんだ?それに香りもなんか違うような……。



「ソニア! それ、私の服だよ!」


「えっ!」



 間違えてロザリアのパジャマを持ってきていたらしい。

 脱衣所に飛び込んできたロザリアからソニアの服を渡してもらい、また着替え直すハメに。



「ご、ごめん。ロザリアの服、濡らしちまった」


「別にいいよ。でもなんか、髪ちゃんと洗った? 泡で」


「洗った洗った」


「ほんとにー?」



 面倒くさいので適当に返して、また着替えていく。もう一度ブラ姿になる必要がある。

 それと俺今、他人の、それも女子のパジャマを着てたんだよな。罪悪感と一緒に変な気持ちも生まれる。さっき香った匂いはロザリアの……か、顔が熱い。



「ところでさー」


「な、なに?」



 今、ロザリアに話しかけられるとドキッとする。



「ソニアってフロントしか持ってないよね?」


「フロント……? あー、ブラの」



 確かにソニアは前開きのブラしか持っていない。理由は簡単で。



「う、ぐぐ……く……ほら、ここまでしか腕回せないんだよ」


「うわー、体かった……」



 腕が背中まで回せないからだ。あまりにも硬い体。あちこち柔らかいくせに、関節はガッチガチ。運動不足が否めない体だ。



「じゃあ今からマッサージしてあげよっか!」


「え? ま、マッサージ?」


「明日ギブソン君と勝負するんでしょ? BクラスからCクラスに挑むなんて前代未聞だけど、これに勝てばソニアもBクラス昇級だよね!」


「あ……」



 明日の決闘、確かに勝てばBクラスに昇級できて、目的へ一歩近づける。俺の目的は最高成績を叩き出して勇者に仲間として選んでもらい、勇者に近づき、いつか元に戻ること。

 だが大きな問題が横たわっている。アイツが、朝倉颯太が俺を選ぶのかどうかと言う問題。



(意地でも選びそうにないよな、アイツ)



 だが意地というのは不可能だからこそ張るものだ。可能だと分かりきっているのに張る意地に力はない。歯を食いしばることがないから。

 てことはアイツの意地は後者だろう。勇者の選ぶと言う特権があるのだから油断している、力のない意地だ。だったらこっちは前者の意地を張ればいい。

 誰にも文句言われず、誰からも勧められて、アイツでも選ばざるを得ないほどの優秀成績を収めればいい。

 簡単じゃないが簡単じゃないからこそ誰にも負けない強い意地を張れる。



「強くならなきゃな」


「ね! そのためにもホラ、マッサージしよ!」


「え! ちょ、それは話が違うと言うか! と言うかそこまでやってもらう義理がロザリアにはないって言うか!」


「義理人情だけで人は動かないよ! 他にもいっぱい理由はある! 私の理由は今まで触らせてもらえなかったけど、今のソニアなら押せば揉めそう! ソニアのおっぱいを揉みたいから誘ってるの!」


「それ言われてワカリマシタって答えるやついるか⁉︎ マッサージの話は⁉︎」


「いいから! ずっと隣に気になる巨乳があってモンモンしてたんだから!」


「や、やめてくれ~!」

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