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友人からの元に戻るための提案

「起きて! ソニア、起きて!」



 かすかに聞こえる、友人の声で目が覚める。

 あれ?俺はどうしたんだっけ……。

 目を開けるとそこには汗をかいて、焦った顔のニーナの顔があった。



「ニー、ナ……あれ?」



 俺は確か、アイツに呼ばれてVIPルームにいたはず。それで襲われて……そこから先は思い出せない。頭が痛い。



「ニーナ? なんで、ここに?」


「心配になって学園長に朝倉颯太がどこに行ったのか聞いたの。多分アイツのいるところに、アナタもいると思ったから」


「女の勘ってヤツか……痛っ!」



 自分は寝ていたらしく、起きあがろうとしたが頭から感じる痛みで悶えてまた寝てしまう。



「うぐ、なんだこの痛み……」


「学園長に聞いたらVIPルームにヤツがいるって聞いて、それで来てみればアイツは居なかったけど、アナタが倒れてた。ベッドの下敷きなって」


「ベッドの下敷き? な、なんで? ていうかアイツは⁉︎」


「私にもわからない。朝倉颯太がどこに行ったのかも……」



 ニーナの言う通り、部屋には俺とニーナ以外居なかった。そしてベッドがすぐそばに、向きを変えて置いてあった。



「下敷きって、本当なのか。どうやって助けてくれたんだ?」


「……なんとか、コアを使って、力を込めて持ち上げた」


「ニーナ……サンキュー」


「ううん。それより何があったの?」


「……俺にも何が何だか」


「でも朝倉颯太が一緒にいたのは確かなんだよね。なら、この部屋に連れ込まれて何をされたたのかはわかる。ここはそう言う部屋だから……」


「いや多分未然だったとは思う」


「そう? それなら良かったけど、大丈夫? 怪我はある程度私のコアで治そうとしたけど、ベッドを持ち上げるためにだいぶ使っちゃって、完璧には治せなかった……ごめん」


「謝るなよ。ニーナは俺を助けてくれたんだし」


「助けてないよ」


「いいや、助けてもらった。心もな」


「心? どう言う意味?」


「……あーと? あれ? なんでそんな事言ったんだ俺」


「アナタにわからなかったら私にもわからないわよ」



 何かニーナに助けられた気がしたんだが、なんだろう。

 もう一度部屋を見てみると、やはりヤツはいなかった。ただ壁の方に血痕があるのを見つける。



「ん? なんだあの血?」


「え? わ、血だ。気づかなかった」



 ニーナに支えられながら、血が床の絨毯に染み込んでいる場所に近づく。



「この血って……」


「少なくとも治療した時にアナタに血が出るような外傷はなかった。ベッドに下敷きになってても、多分コアで体をガードしてたんでしょう、頭への打ち傷以外は目立った外傷はなかった」


「つまり、ここにいたのは俺の記憶の限りアイツと俺だけだから、この血はヤツのか」


「もしかして反撃したんじゃない? 覚えてないみたいだけど、多分、今日見た朝倉颯太の暴走というか癇癪と同じ原理で覚えてないうちに反撃していた」


「癇癪……反撃したのかな、俺」


「確証はできないけど、この血痕の理由はそれしかないはずよ」


「………」



 俺は開きっぱなしの扉を見る。



「ニーナ、ここに入る前に誰かが出て行ったのを見たか?」


「いいえ。けど私が来たのはアナタと別れてから一時間ほど後。学園長から話を聞くのに手こずったから。だからいくらでもここから出ていける時間はあった」


「うーん」


「どうしたの?」


「いや、アイツがどこを怪我したのかわからないけど、でも入り口を見て明らかに変なところがある」


「それは?」


「ここに血痕が残っているのに、入り口の方にはちっとも血の跡がない。血を出すほどの外傷があるなら当然、歩けば血が床について跡を残すはずだ」


「ううん、おかしい話じゃ無いよ」


「え?」


「自分のコアで傷を治したなら普通のことよ。コアは自分の傷を治すこともできるんだから」


「あ、そっか」


「でもベッドの下敷きになってるアナタが見逃されたのは幸運だったかもね。いいやアナタがここで起きたことを誰かに証言したとしても」


「信じてもらえない?」


「いいえ、信じられた上でもみ消される。勇者に害をなすことをこの学園の人は決してしない。言うだけ無駄だとわかっているから、アナタをそのままにして出て行ったのね」


「そうか。そうだよな……」



 そこで、俺もニーナも黙ってしまって沈黙の時間が訪れる。何かしよう、するべきだと思っているが、なんか脱力感がすごかった。

 そこでニーナが沈黙を破る。



「私から提案があるんだけど、いい?」


「提案?」


「アナタが元に戻るために協力したいの」


「え……」


「別に無策ってわけでもない。ちゃんと戻すための方法を探す手がかりは見つけて———」


「ま、待て! そこじゃなくて……」


「ん?」



 キョトンとするニーナに、俺は焦って聴く。



「俺が戻っていいのか? お前的に!」


「え? ああ……あはは。いいわよ別に。戻ってもこの関係を終わらせるつもりがアナタに無いなら」


「無い。でもお前の気持ちを考えると……」


「大丈夫。ありがとう」



 ニーナは笑っている。その笑顔の中に、何かを我慢しているようなものは見えなかったし、本当に平気ということだろう。よかったのかは分からないが。



「それで聞いてくれる? アナタを元に戻す方法」


「ああ。けどそんなのあるのか?」


「あるとは言い切れないわ。でもあるかも知れない、入れ替わりを元に戻す方法が“童話”に」


「童話……?」



 童話とは、朝にニーナから聞いたヤツだ。入れ替わった2人がどうのこうの。最終的に元に戻る方法も書かれておらず、2人は元に戻らないまま終わったが。



「あれは入れ替わる方法すら書かれてないんだろ?」


「童話というのはね、作り替えられてるものなの。地域、文化、時代による人々の精神や考え方で童話の内容と言うのは変えられて、今ある内容が本当に話が出来た当初の物なのかはわからない」


「オリジナルなら、入れ替わる方法や戻る方法が書かれてたかも知れないってことか」


「そう。切り口としては解決策になるかどうか難しいところだけど、手がかりにはなりそうかなって」


「それをどうするんだ?」


「この童話の歴史を紐解くわ。私が」


「ニーナが?」


「子供の頃にこの童話を聞いていたのは私。なら私の地元ならその話の元となった出来事が歴史書とか文献に書き記されているかも知れない。故郷のみんなに協力してもらって探してみるわ」



 ニーナの地元っていうと……確か名前は“ボルカノン”って国だったか。今日の昼に食堂で話した時に色々と彼女の身の上話も聞いた。国の名前も、ボルカノンが火山に囲まれた土地だっていうのも聞いた。



「……でもそれ、お前にだけ負担かけることにならないか? 俺もやるから……」


「大丈夫、お兄ちゃんにも話を聞けるし」


「お兄ちゃん?」


「いとこよ。私が王の姪っ子っていうのは話したよね。その王の息子。今は117代目勇者の仲間をしてる」


「勇者の仲間なのか。聞くって言うけど、聞いて答えてくれるのか?」


「私には甘いから。まあでも今は勇者様にお熱のようだけど。今……って言っても結構前のことだけど」


「そう……ん、あ、いや待て」


「なに?」


「やっぱり危ないかもしれん。あんまり大々的に調べるのはこの入れ替わりを引き起こした犯人に見つかった時、ニーナも、ニーナの地元の人たちも危険だ」


「……薄々勘づいてたけど、やっぱりアナタって今日来た」



 勇者、と言われる前にニーナの口を塞いだ。



「それ以上は言わない方がいい」


「わかった……でも、私も何か」


「いやタイミングを見計らおう。急ぐ必要はない。そのタイミングが2年後か、3年後か、もっと先になるかはわからないが王都には協力してくれる理解者がいる。その人と一緒にアイツを取り押さえるとか、動けなくした時に始めよう」


「遅く無い? もし証拠や、戻る方法の書かれた書物が向こうに見つかって処分されたら……」


「そう悲観する必要は無いと思う。ただ、ニーナの提案は良いものだった。サンキュー」


「……ねぇ」


「ん?」


「もしかして戻る気持ち、薄れてない?」


「そんなわけないだろ」

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