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勇者からの招待

 朝倉颯太とギブソンの対決が終わった後、俺は明日ギブソンと戦うことを学園長主導のもと取り決まった。ここで俺がギブソンに勝てばBクラス昇級だとも言われた。しかしその実感はないし、勝てる見込みもまだない。ギブソンは途中でコアを吸い取られた事で全力を出し切っている感じではなかった。今の俺では勝てる訳がない。しかしやると言った以上男に二言はない。

 そして……決戦は明日だが、俺にはもう一つ誰にも言えない決戦がある。



「ここがVIPルームか」



 着替えもせずに俺は真っ直ぐ、ヤツから言われた通りの場所に来た。シャワーくらい浴びようかとも思ったが、そんな気分にもなれなかったので、真っ直ぐ来た。

 足の方はボディアに治してもらったし、問題なく来ることができた。連れはいない。



「ニーナはついて来ようとしてたけど、どこに行くかも誰と会うのかも言わなかったし……言えないし」



 ソニアの中身が勇者である事は公にできない。例えそれが友達のニーナ相手だろうと……いいや友達だからこそ言えない。言わない方がニーナのためでも、引いては俺のためになる。

 だから誰も協力者はいない。誰にも知らせていない。たったひとりでここに来た。学生寮3階の奥の部屋、VIPルームに。



「VIPルーム……調べたところ、勇者が学園に来た時に特別に使える部屋……勇者が仲間と決めた生徒と親睦を深める場所らしいが……」



 フロアの奥ばった場所にVIPと金字で刻まれた扉がある。異様な雰囲気を感じるが、それは俺が緊張しているからだろう。



「ケンカも考えられるが……やっぱこの体だと分が悪い……」



 一応、学園の武器倉庫から先生に許可をもらいメリケンサックを持ってきている。片手にはめる武器だ。いざとなればこれを使う。

 しかし難儀なのはこの運動着にはポケットがなく、手に持つしか運べない事だ。別にドラマとかで見るトゲトゲはついてないが……耳があると小さな手のひらで持つには大きい。

 ちなみにメリケンサックの耳とは、メリケンの穴に指を通した時に、指と手の腹の間に挟まる輪っかのこと。これがあるとないとでは威力が段違いだ。あとメリケンはアメリカが語源であり『アメリカン粉』の聴き間違えがメリケン、別名は『ナックルダスター』や『ブラスナックル』だ。『拳鍔(けんつば)』とも呼ぶ。



(……こんな事考えてる場合じゃなかったな。でも暴走族の親を持つとこういう知識も持ってしまうんだよ)



 『神風』という蹴り技の名前もそれが理由。昔からカッコいい名前とか、戦国武将とか調べたりしていた。

 親のことを考えると、いつも自然とジンと染みるような心の痛みを手の指に持ったものだが、今ではそんなものない。手に記憶した親をぶん殴った感触がこの手には残ってもいない。そもそもそんな感触はこの手にないだろう。



「取り返さないとな、俺の体」



 いざ、とドアノブに手をかけて、回し、ゆっくりと開く。中は薄暗く、目が慣れてくるとだんだんと部屋の様子が見えてくる。



「ん?」



 部屋を見回すと、想像していたのとは違った。VIPルームだと言うからバーテンみたいなカウンターとソファがあるような場所かと思えば……なんと入ってすぐ目の前には大きなベッドが横たわっていた。



「ベッド……?」



 中には誰もいない。ヤツはまだ来てないのか。

 しかしなぜベッド?



「ここは勇者と仲間が親睦を深める場所のはずじゃ……」


「あら、こう言うのは初めてかしら」


「ッ!」



 後ろから聞き覚えのありすぎる声で、女口調で声をかけられた。メリケンを指にはめる時間はない、メリケンを掴んで持って、鉄の部分で振り返りながら殴りかかる。

 振り返った時、確かに元自分の姿があった。コイツいつのまに!

 メリケンを持った手はあえなく掴まれて止められてしまう。手からメリケンがはたき落とされる。



「ぐっ! テメェ……!」


「ちょっとー、元の自分の体でしょ? なのにメリケンまで持ってきて、声を聞いた途端問答無用で殴りかかるなんて」


「お前相手には警戒するべきだと、今回の戦いで分かった! 多分他の生徒もそうだろうよ!」


「ま、私が言えた事じゃなかったか」


「は?」



 なんのことだ?

 ヤツの背後で扉が閉まるのを見ていると、急に体から力が抜けた。ガクン、と膝から崩れてその場に倒れてしまう。



「ッ⁉︎ な、何を……いや、これはまさか!」



 振り返った際に、俺の背中側にあるヤツの片側の手が見えなかった。倒れてからそちらを見ればそこにはあのワニの剣を持っていた。ギブソンのコアを吸収した剣だ。

 そしてギブソンのコアを食べた時と同じように、その剣は顎に変形していた。つまりこの急な脱力感は……!



「俺の、コアも……」


「知ってる? コアの本質」


「本質……それって」


「あ、知ってるんだ。コアの本質はね、“体”なのよ」



 なに?

 レッサーベアーに聞いた話では、コアは心だと……。



「だからこのワニの剣、【ボレアロスクス】はアンタがコアから変換して作られるはずだった剣ってこと。私も予想外。でも私にくれてありがとうね」


「くれてやった覚えはないけどな……ぐっ」



 立ち上がろうとするが起き上がれない。コアが吸い取られるとはここまで力が出なくなるものなのか。

 そんな俺を見下ろして、元俺はニヤニヤと楽しそうに笑っている。



「さーて、お楽しみといきましょうか。裏切り者」


「裏切り……なんの事だ」



 というか裏切りはお前の方だろう、そう言いたかったが、そう言える前にヤツは剣を床に放り投げると、そのまま俺の体を抱き上げた。

 簡単に持ち上げられて、宙に浮く感覚。



「ちょっ、何を!」


「わ! 私の体ってこんな軽かったんだ。胸のほうは重さ感じるけど、それでも簡単にお姫様抱っこできちゃった」


「は、離せ……!」


「照れてるの? こんな風に抱っこされるのは初めて? と言うか汗くさー、ここに呼ばれたならシャワーくらい浴びてから来なさいよ」


「離せ! く、くそぉ! やめろ! 何する気だ!」


「まあ元の体とのお別れ会としては汗汚いけど、最後の余興と考えれば汗まみれなのも、運動着ってエッチな格好もそそるものがあるわね」



 抱き上げられたまま、俺はベッドに運ばれてしまう。コアが吸い取られてまともに力が出ない俺は、なすすべなくベッドに放り投げられる。

 ふかふかで弾力のあるベッドに投げられ、体が跳ねる。



「ぐっ!」


「そろそろ私がなんのつもりでここにアンタを呼んだか分かりかけてきたかしら?」


「入れ替わりの事を話すって———ひっ!」



 顔を上げてヤツの方を向いた瞬間、ヤツが服を脱ぎ捨てていくのを見て、本能的な恐怖を覚えた。

 まさか、まさかと思っていたが……まさか、俺。



「や、やめろ! やめろぉ!」



 最悪の結果を想像して暴れるが、力が出ない。上半身を脱いだ奴に振り回す腕が簡単に捕まえられて、そして押し倒され、上にヤツがのしかかってくる。



「や、やめ……」



 運動着の上が捲り上げられて、腹と、下乳が出てしまう。さらにブルマも下げられてその下のパンツが露出する。



「安心しなさーい。王都の城の方で、メイドや奴隷と初体験も済ませてあるし、練習も何度もしてあるから♡」


「や、やだ……たのむ、やめてくれ」


「私の好みは四なんだけど、まあアンタもじっくり、女の気持ちよさを味わいなさい」


「やめてェ……イヤだ……イヤだ……イヤァ……」


「可愛い声で泣くじゃない♡ コーフンしちゃうわ♡」



 手が俺の胸と、股間の方に添えられている。



「あと、今日の私を見て考えを変えるヤツなんてこの学園にいないわよ? 勇者は絶対。ギブなんたらが異常なだけで、普通は勇者なら疑問なんて持たない。持つ訳がない。それだけの信頼がこの世界の人間にはあって、私はその信頼の対象……♡ うふふ、あらためてありがとうね、こんな素敵な体をくれて」


「む、ムネ……も、揉むなぁ……」


「ふふふ……どうせアンタはそう言いながら私の体でエッチな事してたんでしょ? ニーナも、ロザリアも、ボディアもどう言う訳かアンタと距離が近づいてる感じがあった……もしかしてソウイウ関係を持って近づかさせたのかしら。変態。裏切りよ、これは。私の心への裏切り。だからアンタは……」


「…………ニー、ナ?」


「アンタはこうなって然るべきなのよ! どうせなら勇者権限で娼婦にでもしてやろうかぁ! なあ! 雌豚ぁ!」


「ニーナ…………」


「いい加減うるさいわね。そのニーナも後で始末してやるけど、まずは黙らせてあげるわ、その口」



 近づいてくるヤツの顔面。ニヤけた唇。

 その時俺の頭にはどう言う訳か、ニーナの赤い瞳が浮かんでいた。俺の中身を見透かしたような赤い目。

 その赤い瞳が俺の中の何かを燃え上がらせた、そんな感覚を覚えた。


 ———プツン、と何かが切れた。



「やめろっつってんだろぉおガアアアアアアアアアッッッ!!!」



 体に力が戻る感覚がした。いいや、いつも以上の力を感じた。

 近づいてきたヤツの口を片手でかっぴらいて、手を突っ込んで、上の前歯4本か6本くらい一気にへし折った。



「えギャアアアアアアっっッ!!!??」

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