ギブソンの考え
———ギブソン・ゼットロック視点
それはほんの数時間前までは存在さえ気づいていなかった女子だった。胸がでかいからと言う理由で見つけて、その後にライドウから名前を聞いただけ。素性なんて一切知らない銀髪の女子。
(ケツ出てる……)
目の前に現れた女子を最初に思ったのがそれだった。ずっと座っていたのだろう、運動着のブルマがずれて、パンツもずれて、真ん中に食い込んで布がズレた両側から尻が出て見えてしまっていた。後ろから見るとそれがハッキリわかる。
白くて丸い女の尻を見て、食い込んで尻の形もハッキリわかるその光景を見続けて、その後に勇者が蹴り飛ばされたことに気づいた。
その背中を見て、しかし名前が出てこなかった。
(コイツ、確かライドウの言ってた……ブラ、パンツだったか……)
名前を思い出そうとして、しかし完全に出てくる前にハッと気づく。なんでコイツは今、俺の前に現れて、そして勇者を蹴り飛ばしたんだ?
そもそもどうやってあの勇者を蹴り飛ばしたんだ?アイツは俺のコアも吸収して、かなりの防御力を手に入れていたはずだ。
と、足を見れば中頃からへし折れていて、肉が千切れ、血が噴き出していた。よく見ると重心がふらついていた。けれど彼女は立っていた。
(俺に背中を向けて……まるで、俺を庇ってるような……ッ!)
と、そこで庇われていると気づくと一気に頭の中に探し求めていた“答え”が見つかったと確信めいた湧き上がる感情が生まれた。
(これが勇者の姿なんじゃないか……?)
そう思うと居ても経っても居られず、戦いを申し込んでしまった。相手は多分Cクラスだろう。BクラスがCクラスに勝負を挑むなんて有り得ない。だが俺はそうしないといけないと感じた。
今代の俺らの勇者と戦っていると悍ましさを感じた。なら今、勇者だと確信した銀髪の女子と戦うとどうなるのだろう。多分そんな疑問を持っていたと思う。
そして銀髪の女子———ソニア・ブラックパンツァーは軽ーく返した。
「おう、いいよ」
その返事が何よりも頭に残った。
しかしすぐさま開始というわけにもいかず、学園長は学生達の拘束時間が長引いていることを理由に、この場はお開きにした。
傷はベニちゃんが完璧に治してくれて、今代の勇者も学園長とナパさんに連れられて行った。
連れられる直前、奴はソニアに何かを小声で言っていたが……。
そして学生達は俺に白い目を向けながら出ていった。けれどそんな目にはなんの感情も湧かなかった。
「よお、バカ野郎」
ゲシッ、と友人に頭を蹴られても特に痛くもなかった。
「ライドウ……」
「何がしたいんだお前は。多分お前今日のこの数十分間だけで周りからの信頼は地に落ちたぞ」
「なあ」
「あん?」
「なんでアイツ、勇者を蹴っ飛ばしたんだ?」
「知らねえ。けどあんなに動けたのかって驚いたけどな」
遠くの方でソニアはフードを被った女子や、同じBクラスのロザリアとボディア、レッサーベアーに声をかけられていたが……そのどれもに言葉を返すことはせず、ただ俯いて何かを考えている様子だった。
今代の勇者から何か言われていたようだが、何を言われたのか?
「あ、でも一個すげー気になるとこ見つけた」
「ん?」
と、ライドウは何でもないように呟いた。
「アイツが勇者を蹴った時、お前は見えてなかったと思うが……」
「なんだ?」
「アイツの蹴り、スッゲー綺麗だった」