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紅屋桜姫は後悔する

 ———紅屋桜姫視点



 勇者がどういうものなのか、二年前にこの世界に来てから自分でもわかっている。創作物での異世界転生や異世界転移の勇者とは少し違う、この世界の希望として勇者は存在している。

 今までの勇者はこれまで世界に色んな救いを与えている。ある者は本当に魔王を倒してしまったり、ある者は科学の発展を手助けしたり、ある者は魔法の開発を手助けしたり……この世界の住民の勇者に対するものは絶対的な信頼。信仰。

 だから勇者に対して文句やバッシングをすることはタブーとされている。もし勇者の機嫌を損ねて世界に矛先が向けられたら、誰も責任は取れない。



(私のせいだ!)



 そんなタブーをギブソンに犯させたのは自分のせいだ。自分が創作物で見てきた勇者像をこの世界の勇者に当てはめて、主人公が自分以外が目立つのを好まない傾向にあることから、『色のついた仲間』は選ばないと話した。

 それは本当に忠告だったはずだが、ほんのちょっぴり、ギブソンが選ばれてもギブソンが勇者に抵抗して、あわよくば……、



()()()()()()()()()()()



 なんて考えていたのは確かだ。

 けど実際は勇者が仲間の個性を嫌うなんて根拠も薄く、決めつけであるし、なによりもしギブソンが自分の代の勇者に反抗すればそれこそ戦果の種だ。どちらにせよギブソンが遅かれ早かれ勇者に対してこうするのは分かったはずだ。自分が余計なことを言わなければ……!



「ギブ———」



 解体なんて言わせたのは自分だ!

 ギブソンに私が声をかける直前、それより先に学園長がギブソンに語りかけた。

 学園長はギブソンの肩に手を置き、



「戻ろう、ギブソン君」


「え?」


「大言壮語もいいが、やり方は慎重にしようよ」


「けど俺は納得できねーっす」


「そりゃそうだろう、勇者がなんなのかと言う問いかけに答えられる者はいないだろうし、颯太君が言った答えも一つではない。だからもっと会話をするべきだ、色んな勇者と話してから……解体という手段をとってみないか」



 学園長は恐ろしいと思えるほど落ち着いている。その言葉の中にギブソンの意志を否定するものはなかった。



「納得より先に端から理解をしよう。算数や数学のテストだって中途半端に覚えた公式で挑んでは必ず赤点だ。ほら、君の友達の紅屋君だっているんだし、僕だって勇者のパーティ仲間だったからいくらか話せるよ。問える相手は他にもいるでしょ?」


「ベニちゃんにも聞こうと思ったんすけど、さっきっから見ててそこの俺たちの代の勇者の様子に疑問があって……」


「衝動に身を任せては命を落とすよ」


「……そうですね。すみません」



 学園長に諭され、そして偉大な魔術師ナパさんにも背中を押されて、ギブソンは元の席に戻ろうとした。ステージから見て上にある席に上がるには、一度ステージの出入り口から出て、講堂の入り口にある階段から上がる。なのでギブソンがステージから出ようとした、そんな背中に浅倉颯太君が声をかけた。



「待ちなさい、ゴブリンドットコム」


「ギブソン・ゼットロック。ああ、勇者様も悪かった」


「ふぅん。謝罪はいいけど、その前にやる事があるでしょ?」


「え?」



 得意げに鼻を鳴らして、後輩勇者の浅倉颯太君は両手を合わせて念じ始めた。あれはまさか、剣を出すつもり⁉︎

 ど、どういうつもりなの颯太君!

 颯太君の両手から出てきたのは、黒く光る剣だった。



「な、なんで剣を出して……」



 コアを変換して剣を出した。黒の大きな剣。私が持てば持て余すだろうけど、颯太君は背も高いし、彼にぴったりな武器と言える。

 彼の転移後すぐにコアの訓練に付き合って、その時に彼があっさり出した剣。

 ゴツゴツしてて、トゲトゲしてて、初めに見て一番に感じたのが、ワニみたいだなという感想。



「ふふふ、名前つけるのに図鑑とか読み漁って苦労したけど、この剣の名前はボレアロスクス(古代のワニ)。初めこれをコアから変換して出した時は、意図してないものが出てきてびっくりしたけど、今ではこの威力に惚れてるわ」


「……なんのつもりだ?」


「大言壮語には責任が伴う、違う? 言わねば無罪、言ったなら有罪」



 ぶん!と剣を振って、その切っ先をギブソンに向けた。

 慌てて私も剣を出して止めようとした。しかし剣を出す前にその肩をナパさんに掴まれて、そしてステージの脇に連れていかれそうになった。



「な、ナパさん⁉︎ なんで……!」


「すみません紅屋様。ですがあなたが入ると危険です!」



 抵抗するもあえなく脇に退けられる。

 学園長も他の人達を脇によけた。



「ぎ、ギブソンが!」


「あなたの気持ちもわかります。けど危険なんです、颯太様……あの人の内には、獣が巣食っている。大丈夫です、ギブソンは我々に任せてください」


「ギブソン……」



 中央に立つ2人を見れば、ギブソンもやる気のようだ。



「よお、俺らの勇者様。名前は……根暗ソードだっけか」


「別に良いわよ、名前なんて」


「ふん。じゃあアバズレショット」


「……イラッ。なによその名前……」


「俺と戦うってんなら……」



 足を広げて腰を落とし、膝に手を当て、片足で床を踏み鳴らす。大きな音が鳴り響き、ギブソンの体に流れるコアが色をつけてオーラとして彼の体を覆う。

 力強い真紅のオーラを身に纏い、ギブソンは笑う。



「泣いても知らねーぞ!」



 意気込むギブソンの背中に、私は手を伸ばすことしかできない。

 浅倉颯太のコアの特訓の面倒を見てきたのは私だ。だからわかる。



(ギブソンは、勝てない……)


———紅屋桜姫視点、終了

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