勇者、朝倉颯太
———浅倉颯太視点
私の立つステージを取り囲むスタジアムの観客席のような席に、元の自分を見つけてニヤついた顔を見せてあげると、わかりやすいくらい不機嫌な顔になって睨み返してきた。
(わー、こわー! 私ってあんな顔できるんだ。てか服が運動着だけど、アイツ私の体で着替えたのかしら。あんなところやそんなところまで見られたのかなー)
ま、もうあのボロ服に未練はない。今はこの世界でもっとも注目される高級服を着ているのだから。シルクだって目じゃないほどの素材よ!
この講堂の真ん中に立つことだって不可能だったのに!今では護衛に守られながら簡単に入れて、学園長からは頭を下げられている。
(うきき~! さいッこうッねッ!)
「どうされましたか、颯太殿。何かご気分でもすぐれないのでしょうか」
「チッ! 別に~」
けど横にいるこのナパは厄介ね。ずっと私を監視して来てる。
世間からは偉大と言われ、学園の卒業生とは言え選ばれなかった魔法使いのくせに。最初の入れ替わりが発覚するのだって予想してなかった。本当ならあのまま……元の私を……———
「ねえ」
「なんですかー?」
先輩勇者の紅屋桜姫に話しかけられて、適当に返事を返す。今日ここに来る機会をくれたのは彼女。彼女が学園に行きたいと提案したのを聞きつけて、私もついて行く事にした。
「颯太君、どうして急についてくるなんて言ったの?」
「ちょっとちょっと~、ここまで来ていまさら何を聞いてるんですかー、恥ずかしいですよ学園長の前なのに」
「ワシは一向に構いませんので。ええ、ええ。勇者様方の会話に介入する気はさらさらございませんので。ええ」
学園長がペコペコして私と紅屋に謝っている。あはは~、気分最高~♡
「それで~? せんぱいは何でそんな事急に聞いてくるんです?」
「……やっぱりその話し方、怖気するわね」
「あー! いーけないんだいけないんだー! 他人の風習や文化を認めないと! この話し方だって私の自由でしょ! 先生に言い付けてやる!」
「……話を戻すけど、どうしていきなりついてくるなんて言ったの?」
「いやー、私の選ぶ生徒たちの顔も見ておきたいと思ってですね~」
「ほう? なるほど、そんな殊勝な心掛けだとは思いませんでしたが」
「わ! 失敬!」
そうなんだよね。今まで中学時代に選ばれるかどうか不安になってて、落ちこぼれになった時に絶望したけど、今では選ばれる側から選ぶ側になったんだよねー♡
やっほー!
これで私を見下してきた奴らに復讐してやれる!Aクラスの奴らも選んでやらないもんねー!
ニーナだって私のこと都合のいいヤツとしか思ってなかったはずだし、そんな舐め腐った態度は粛正してやらない……と………ん?
(あれ?)
ニーナの事を思い出して、ふと、再び元自分の方を見た。するとすぐ隣にはニーナがいた。しかもなんとなくだが距離が近い気がする。
(え? あれ? なんで? 私にはそんな感じじゃなかったよね、ニーナ?)
そう考え始めると、胸の内からドス黒いものが生まれたのを感じる。これはずっとずっと抱えて来たもの。体が変わって、人生が変わって、もう味わう必要ないと思ってたのに。
そして矛先を元自分に向ける。私になかったものを私になって手に入れた、腐れ外道。
(あの野郎……私への当てつけか。どうせ私の体でエロいことしてるくせに。クソ男が!)
決めた。あの野郎には復讐してやる。そう、復讐だ、復讐!
「颯太くん? どうしたの? 様子が変だけど……」
「待ってください、紅屋様。今の彼に触れるのは危険です」
「ナパさん……どういうことですか?」
後ろで余計な2人が話しているがどうでもいい。
そうだ、どうせなら“五芒星”とか名付けられて有頂天な奴らにも何かしてやらないと気が済まない。今の私は勇者だから、お高く止まってるアイツらにも何でもできてしまう。中学の時から“優秀”で目障りだったのよね。
(全校生徒集めてるなら五芒星も揃ってるわよね)
生徒席に座るモブ集団の中から、目当ての人物たちを探し当てる。
そして五芒星と呼ばれている最強の5人のうち、4人の少女を見つけられた。
(おお、いるいる。【筆頭】に、【金色の魔女】に、【恵みの雨】に、【極楽鳥】……)
やはり揃い踏み。どいつもこいつもガン首揃えて、モブの中に埋まってた。ザッと見渡して動かす視線の中で僅かに顔を捉えただけだから、もうどこにいるのかもわからないわ~、ザマァないわね~!ぷきき~!
けど、後1人足りないみたい。あの怖ーいのはいないみたいだけど……ま、まあアイツにケンカ売るのはこっちが危ないか。や、やめとこ。
(さーて、まず手始めに元私ね。うふふふふ)
「やっぱこうするしかねえええええ!!!!」
「!?」
どう料理してやろうか企んでいるところに、突然大声が聞こえて、思考がかき消された。
そしてモブ集団の中から一人、ステージ上に飛び降りてきた。
私が何かを言う前に、すぐ隣にいる紅屋桜姫が反応した。
「ぎ、ギブソン⁉︎」
———浅倉颯太視点、終了