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五章開幕

 夜も近い時間帯。126代目勇者パーティ候補【最強】ジュピター・スノーホークは、学園長室に呼ばれていた。

 部屋に入ると中には奥のデスクに座る学園長の他に、2人先客がいた。ジュピターの見知った人物だった。

 切先にカバー付けた槍を両腕に包み込むようにして抱えている黒髪の少女、【極楽鳥】リキュア・グレープハープ。

 目深くフードを被り目が隠れている白髪の少女、【筆頭】にして勇者の娘シルビア・ドーベルマーク。

 126代目勇者パーティ候補Aクラスの中でも特に強い5人を五芒星と称する。その五芒星のうちの3人が学園長室に集まっていた。



「共通点は、ガンマンズか」



 何も言われなくてもすぐにわかった。

 ガンマンズの王都襲撃、および学園襲撃。

 王都ではダイス・グリッドハウスとジュピターが、そして学園ではガンマンズの幹部5人をシルビアとリキュアの2人が倒した。



「なんか言われるとは予想してたがな」



 学園長の方を見れば、疲れでやつれているように見えた。

 優しいリキュアがずっと心配そうな目を向けている。



「学園長、アンタの用件の前に一ついいか」


「……なんだ?」


(なんか老けたな)



 学園長の返事は覇気がなかった。

 顔つきも一層老け込んだように見える。

 ジュピターはそんな彼に、今一番聞きたい事を率直に聞く。



「……“あの人”が処刑されたと言う話は聞いた。ただあの場にいた身として言わせてもらうが、どう考えても処刑されるような雰囲気には見えなかった。何より刑の執行があまりにも早すぎる」


「………」


「そのダンマリが答えだ。やっぱアンタが噛んでんだな、どこかに“あの人”を匿ってんのか」


「………」


「はあ、もういい。それで、用件ってのは? この2人を俺と揃えてこれから何しようってんだ」



 ジュピターはシルビアの方を見た。

 シルビアは相変わらずフードで顔を隠しているが、ここに呼ばれた理由はわかっていない様子だ。それはリキュアも同じ。

 学園長は疲れた顔で黙ってジュピターの話を聞いていたが、不意にゆっくりと話し始めた。



「中央基地ガイアにて全軍部を総括する総帥オーメン・シルベスタ」


「あん?」



 なぜ急にそんな人物の名前を出したのか。

 そのジュピター達の疑問は学園長の続く言葉に遮られた。



「王都の軍に所属する“一階級(ギャラクシー)”ショケーキ・チョコポンジ。王都騎士団団長アリーシャ・サリーネイビス。王都勇者グループのリーダー獅子王英雄、No.2仁科幸太郎、No.3小原灯旗、並びに勇者の篝火団二代目団長巻島悠太」


「……なんだ? とんでもない名前が次々に出てくるが」



 王国ノーヴィスプラネスにおいて、今挙げられた名前の人物達はこの国の中枢を担う重要人物達。なにより勇者の名前が羅列されていることが重大だ。



「最後に、勇者学園学園長グラン・スラダイク。この八名の名義により、三日後に実践訓練を行う事になった。場所は南の危険区域だ」


「どっ……どういう、こと、なんで、すか?」



 リキュアはあまりの話のスケールについて行けていない。

 だがどう足掻いた所でこんなにもビッグネームが並んでいるともう後戻りはできない。今から取りやめなんて出来るわけがない。恐らくもうすでに王国の中枢では決定事項なのだろう。



(推し進めたのは知恵が働いて権力のある、勇者の仁科か小原だろーな)



 ジュピターはそう推察する。

 ガンマンズが動いてから二日、あまりにも早すぎる。こんな荒技ができるのは勇者くらいしかいない。そして同時に。



「そこまでして、何がしたいんだ?」



 南側の危険区域で実践訓練。十中八九、魔物や魔族達と戦わされる。そこにある重要な意味とは。

 ジュピターの疑問に学園長が答える。



「時代を確かめたい、とのことだ」


「時代、ね……」



 それは126代目勇者が来た今の時代のことを指しているのは間違いなかった。

 確かにここのところニュース続きだ。勇者蹴りに、勇者学園の一生徒が勇者解体を宣い、あげくにガンマンズとの交戦の結果だ。無視できないのはわかる。



「で? 俺らに何をしろと?」


「……今回、軍部の上層部と王都騎士団の上層部が参加し、魔法側の人間達も関わってきている。そのため彼らは軍学校、騎士学校、そして魔法学校を合同で訓練に参加させるつもりだ。明後日の実行日前日には参加者全員が学園に集まる」


「はあ」



 確かにその3校は戦闘に関する学校だ。

 しかしジュピターは思う。軍学校で“天才”と言われて飛び級で卒業したライトニングやフライヤーでも、勇者学園のBクラス最強には勝てなかった。つまり軍学校にはBクラス以下の実力者しかいない。

 そして騎士学校も魔法学校もどんぐりの背比べだろう。



「戦いの実力において他校の細かい部分は確かめられてないが、おおよそ予想できる。足引っ張られなきゃいいがな」


「今回のガンマンズの一件で活躍したスノーホーク君、グレープハープ君、そしてドーベルマーク君には実践訓練の中心になって取り組んでもらいたい」


「どー思うよシルビア」



 ジュピターはシルビアに聞いてみた。

 シルビアは心のうちを決して明かさないまま、ポツリと呟いた。



「私は別に構わないわ。学園長、私はやります」


「……リキュア、お前はどうだ?」


「私はまだ未熟者、ジュピター殿やシルビア殿と比べられるのはいささか身が縮こまる思いですが、しかし学園長先生の疲れた様子を見ると助けになれるならなんだってやりたい所存です」


「ありがとう、本当にありがとう。具体的に言うと今日中か明日の朝までに何人か同行者を学年の中から選んでもらいたい。君たちの裁量に任せる」



 構わないかなスノーホーク君、と聞かれて頭を掻く。



「他の学校の連中を見とくいい機会だろうし、わかった。やるよ」


「これで貸し2だな」


「ん? ああ、それでいい」



 ジュピターは背を向けると早々に部屋の扉を開けて出て行く。別に学園長と貸し借りしたつもりはなかったが、学園長の中ではそう言う事になっていたらしい。



「さて、推薦と来たか。どうするか……ん?」



 学園長室を出て廊下を歩いていると、向こうから誰かが歩いてくるのが見えた。あの茶髪は。



「ガーリックか」


「……」



 向こうから歩いてきていたのはCクラスの秀才、ガーリック・アクアパッツァ。



「こんな夜にどうした。学園長に用か?」



 ガーリックはジュピターの存在を視認したがシカトしてそのまま横を通り過ぎようとしていた。その素振りと……ここが学園長室へと続く廊下だと考えてジュピターはすぐにガーリックがここへ何しに来たのかを理解した。



「ずいぶん気が早いな、お前らしくもない」



 すれ違いざまにそう呟くと、ガーリックの足がピタリと止まった。

 背中合わせのまま話しかける。



「何を焦っている? お前の実家でなんかあったのか?」


「……いいや何も。つーかそうだとしても関係ないだろ」


「お前の才能は失くすには惜しいからな。つーか本当に急すぎる、今から()()退()()なんてよ」



 学園長室に向かうガーリックの目的はそれだ。元々そう言う気配があった男だ、この学園と勇者に興味がない奴だから。

 自分の事情が他を上回ると、周りを戸惑わせながらマイペースに自分のやりたいことを飄々と貫く。それがガーリックという男だ。



「サンタンクやオトロゴンには言ったのか? つい最近アイツらに殴られたって聞いたが」


「……ふん」



 不機嫌に鼻を鳴らして立ち去ろうとする。その不機嫌の理由は殴られた事ではなく、サンタンクとオトロゴンとの友人関係に口を挟むなと言いたいからだ。

 それに対しジュピターは、イジワルを思いついた。



「決めた」


「?」


「お前、三日後南側で行われる実践訓練に出ろ」


「———はあ?」



 いつもクールなガーリックには珍しく、素っ頓狂な声と呆れた顔をしていた。



「ラクショーだろ? お前とギブソンはいうなりゃジョーカーだ。アイツにはゼットロックがある、そしてお前は……まだ見たことはないが隠し玉を持っている。だろ?」


「待て。テメェ。俺に何させようってんだ」


「いやいや学園長から直々の指示なんでな。勇者達も絡んでる、後戻りはできねーぜ」


「か、く、この………!」



 拳を握ったが、しかしその拳がジュピターに届くことはなかった。握り拳を作った瞬間、床から生えてきた植物の棘がガーリックの腿に突き刺さったからだ。



「テメェ、植物を」


「ザクロの茎だ。そのくらいの傷なら自分のコアで治せるだろ。それじゃあ頑張れよ~」


「テメェ! 俺は行かねーからな! めんどくせーんだよ!」



 ぐああ!と怒りをあらわに鋭い目つきで睨まれたが、ジュピターは鼻歌しながら背を向けて立ち去った。その背中にいくつものガーリックからの悪態をかけられた。



「さて他にも選んどくか。ガーリックが行くなら、そうだな……オトロゴンとサンタンク、それと」



 適当に足を運んだ屋上から夜のグラウンドの方を見ると、2人の男子生徒が言い争っているのが見えた。ツンツン頭とおかっぱ頭の2人だった。



「あの2人にしとくか」

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