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勇者は女の子になった

 学生寮。窓側のベッドで寝ていた俺は、窓から差し込む朝日に当てられて目を覚ます。そういえばカーテン閉めるの忘れてたな。

 目を覚まして隣を見れば、明るい金髪の女の子が気持ちよさそうに眠っている。同室仲間の彼女の名前はロザリア。



「ロザリア、起きて。朝だよ」


「ん~、おはようソニア。最近は私より起きるの早いね……」



 眠気まなこを擦りながらロザリアはそう言う。

 彼女は俺が変わったと言った、それは当然だった。

 俺の名前はソニア……しかし本当の俺の名前はソニアではない。なぜなら俺は今のこの体の女の子と入れ替わっている状態だからだ。



(………)



 窓ガラスに目をやれば映るのはピンク色のパジャマを着た女の子。銀髪に青い瞳、そして胸からぶら下がる見慣れない大きな乳房。身体を動かせばゆさっと揺れるソレの感覚と重さにまだ慣れない。

 可愛らしい見た目の彼女が今の俺だ。

 俺の本当の名前は浅倉颯太(あさくらそうた)。男子高校生だったはずが、今や銀髪碧眼で巨乳の女の子になってしまった。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


「あ! そういや見た? 昨日のテレビ!」


「え? いや……」



 ここは異世界と言う場所らしいが、別に文明水準は現実世界とさほど変わらなかった。なのでテレビなんかもあるし、こうしてロザリアと洗面台の前に並びイチゴ味の歯磨き粉で歯磨きしている。

 朝から元気なロザリアの話を、少し目線を上に向けて隣を見る。横に並ぶとロザリアの方が少し背が高い。



「どんなのしてたの? 多分ロザリアが観てた間は俺———私は外にいたから」


「また特訓? 熱心だよね、前まではそんな事ちっともなかったのに。私も頑張らなきゃなーって思うよ」


「それで、テレビの話は?」


「そうそう! 勇者様のニュースしてたんだよ!」


「ッ! ゆ、勇者……」


「昨日のニュース、朝もしてるかなー?」



 歯磨きを終えて、ロザリアはテレビのある寝室の方へ行ってしまった。気が乗らないが俺も向かう。

 寝室に行くとロザリアがチャンネルを変えていて、そして目的の話題を見つけたようでキャッキャとはしゃぐ。



「あったよー! ほら! 勇者様だよ!」


「あ、ああ……」



 テレビに映っているのは晴れやかなパレードの真ん中で、オープンカーに乗って周りの人達に挨拶している角刈りの少年。



(…………)



 あの角刈りの少年こそが、元の俺だ。

 俺は本来異世界に勇者として召喚されるはずだった。しかし召喚された時に、この銀髪少女のソニアと入れ替わった。

 俺たちが入れ替わっている事情を知る数少ない人物である魔術師ナパという偉大な魔術師によると、原因は勇者召喚を良く思わない魔王側が何かしらの魔法で俺とソニアの精神を入れ替えたのだと言う。なぜソニアと入れ替えられたのか、どうやって魔王は入れ替えたのか、わからない事だらけだが、ひとつだけ分かることがある。



「勇者様のパレードだよー! 昨日王都であったんだって! 私たちも行きたかったなー」


「勇者、とっても楽しそうだね」


「そりゃそうだよ! 大勢の人から喜ばれてるんだから! というかソニアだってこんな風にみんなから認められたいって言ってたじゃない! あ、もしかして勇者様が羨ましいの?」


「違うよ……ただ」



 ただ、俺の体となったソニアは元に戻る気がないように見えるのだ。ニュースに映る映像の中の“自分の顔”は嬉しそうで、気分もよさそうだ。

 いつも重く感じる胸の重さが、今だけさらに重く感じる。



「……凄いなって」


「それが羨ましいってことじゃない? でも無理だよー、勇者様は召喚されてくる特別な人で、そして私たちはその勇者様をサポートするために学園に通っているんだから」



 その事実を聞いて、さらに胸が重くなった。

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