case0: 明日ありと思う心の仇桜
あの子は私の唯一無二で、大切で大事で死んで欲しくなくてあなたの未来を見守ることが私の生き甲斐だったのよ。
あの方は私にとっては英雄だった。
ーー貴方に罪の華を
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「な!な!クロ!この片端市内で殺人事件が起きたんだって!!しかもその現場に、犯人の形跡は無かったものの花が添えられてたらしいぜ!!」
・平井 藍太郎(15)
片端中学校3年の受験生で、警視総監の息子。
事件好きの変わり者で謎を解くことが生き甲斐らしい。
「へーどんな花が添えられてたんだ?」
・八雲 黒丸(15)
片端中学校3年の受験生。成績はオール4
藍太郎は後ろの席の黒丸の机に身を乗り出しコソコソ話をするように小さな声で話し始めた。
「それがさ、スノードロップって呼ばれる花なんだけど、、、ただその花は、ホルマリン漬けにされていて、ガイシャの切り裂かれた胃の中にあったんだってよ。部屋からは犯人の痕跡は発見されなかった、ど?気にならない?」
「それって添えられてるって言わなくないか?」
「テヘッ!」
下を出したニコちゃんマークみたいな顔をする藍太郎。全然可愛くない。いや本当に
僕と藍太郎は中学校入学時に仲良くなった。
彼は謎(事件)が大好きな少し変わり者の少年、警視総監の息子だからと煽てたり、お近づきになろうとする子供達を一切無視して一匹狼気取りしてたところ
僕、八雲黒丸から話しかけた
藍太郎は最初こそ僕のことも無視していたけど、ある時中学校内で殺人事件が起きた。
入学して数日同い年の男の子がナイフで滅多刺しにされ体育館のど真ん中で遺体として発見された。
藍太郎が、遺体に近づき観察し一人でに話し始めた。
多分これが僕たちの初めての会話。
刺されていた箇所は数十ヶ所合ったがどれも急所を的確に避け、苦痛を感じ、尚且つゆっくり死ぬように刺されていてる。
第一発見者は、僕と藍太郎。
ちょうどお昼休みで、体育館へ行く用事があって二人だけで行ったんだ。
鍵は掛かっておらずドアも窓も全開で、誰でも入れそうな状態だった。
凶器は少年の体に刺さって残っていたが、犯人の指紋は検出されず、代わりに死んだ少年の指紋が残っていたらしい。
両手両足の爪は剥がされており床に散らばっていた。剥がされた爪には少量の肉片がこびりついており赤黒く変色していた。
血は衣服や遺体にしかほとんど付着しておらず体育館の床には乾き切っていない少量の血が垂れていただけだった。
滅多刺しに刺されていたにもかかわらず少量の血しか垂れていないことが妙なのだとか、、、、
彼、藍太郎は、、足りない一つ足りない。
と言っていたが何が足りないのか僕には分からなかった。
その遺体には藍太郎が今話していた事件とよく似ているところがある。
少年の顔面は、くり抜かれその顔面に円柱形状のホルマリン漬けにされた花、蕗の薹と呼ばれる花が発見された。
顔の識別が出来ない状態だった。上顎から脳幹までごっそりと雑に切り取られており骨も砕かれ、その肉塊にホルマリン漬けにされたものが突き立てられていた。
少年の服は体操着で、苗字は残されたまま。
すぐに身元は確認されたが、その日彼は欠席だったそうで、家に確認するとちゃんと息子は学校に登校したとのこと。
少年の家族は取り乱すこともなくただただ死んだ事に安堵が感じられるような口調で落ち着いた様子だったそうだ。
その日学校は一時休校になった。
殺害された少年の名前は
秋南 楽
物静かで大人しく、本をよく読んでいる子。殺されるような子ではなかった。朝早くに学校に来ては清掃をするくらい掃除が好きな子。
というのが校内調査の結果。
しかし、少年宅に訪れ藍太郎が勝手に捜査をし始めるとその調査結果とは真逆で、部屋は荒れており、幾つもの動物の標本が押入れから出てきた。
僕は藍太郎に引きずられ一緒に秋南の友達として少年宅に上がらせてもらっていたが何というか嘔吐せずにはいられなかった。
僕が秋南家のトイレで嘔吐中、藍太郎は押し入れをアサリにあさっていたらしい。新聞の紙切れと一房にまとめられた黒い髪の毛を僕に意気揚々と見せつけてきた。
「お前、死体には驚きもしてなかったくせに動物の標本みて吐くのかよ変わってんな」
「いやほらあの死体は人間の原型を留めてなかったから例えるならほら、非現実的なゾンビと頭だけしかない動物の違いで、目を見開いた標本と比べるなら目が合った標本の方が僕は怖いね。いつか動くかもしれないじゃないか、、、」
動物の標本にはホルマリンが使われており今回の秋南楽の遺体にはホルマリン漬けにされた花が合った。
「確か、花の名前は蕗の薹。なんで花なんだ?花に何か意味があるのかな?」
藍太郎は僕の言葉を聞いて何か考え始めた。
「、、、、花言葉は待望・愛嬌・仲間だったよな?結構ポジティブな言葉だったはずだ。」
「よく花言葉とか知ってるね。僕なんて花に興味がないから全然知らないよ!てゆうか何処でそんなの覚えてくるの?」
「うちの母さんが花好きでよく父さんに花を渡してたんだ、「貴方ならこの意味分かるわよね?」ってお決まりのセリフつけてな。その渡される花を見て父さん一喜一憂、、するん、、だ。」
「ん?どうしたの藍太郎??」
「、、なんで父さん一喜一憂してたんだろう。花言葉ぐらいで、だってほとんど良い言葉じゃないか、?」
「考え込むのはいいけどさ、とりあえず母親に話聞かなくていいの?」
「あーうん。すぐ聞きに行こう!」
秋南 楽の母親は淡々と話してくれた。
幼い頃から彼は大人しく、読んだ本や勉強した事ものなどすぐに覚え記憶力が良かったという。
ある夏の日豹変したのは6歳の頃。
車に轢かれた亀を見て何かに取り憑かれたように動物を捕まえ、実験し、標本などにして遊ぶようになった。
だが彼が11歳小学六年生になりたての頃にそれがパタリと止んだらしい。息子の部屋には長年寄り付かなくなっていた母親は彼が学校の時なぜ、そのお遊びが止まったのか気になって部屋に入ってしまった。
部屋は幼女の写真まみれで押入れから異臭が漂っていたとのこと。そっと開けてみると幼女の遺体があり、下顎から脳幹を超え抉られていたという。
その壮絶な光景を見てすぐに部屋を出ようとすると息子が背後に立っていた
学校に行くふりをして母親の行動を見ていたらしい
息子がある計画を母親に話し始め共犯者として部屋に引き入れた。
母親はいつか自分がこの子に殺されるんじゃないかと怖くて怖くて堪らなかったと涙ぐみながら懺悔するように話した。
多分秋南 楽はストックホルム症候群を利用して母親を利用したんだとおもう。共犯者として自分に縛る為に
ストックホルム症候群とは精神医学用語のひとつで、誘拐や監禁などによって拘束下にある被害者が、加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感、信頼や結束の感情まで抱くようになる現象のこと
秋南 楽は幼女の遺体を冷凍便で幼女の家族にその遺体を送ったという。残酷な事をしていた。
女児冷凍殺人事件の犯人は今だに捕まっていない。
事件は話題を呼び、テレビや新聞などは被害者、被害者の家族の名前、顔などを公表した。
加藤 凪
加藤 正志
殺害された女児の名前は加藤 雪春
僕たちはなんとも言えない顔で見合った。なぜならその被害者の母親、加藤凪は片端中学校の保健室の先生だったからだ。
僕らは学校で聞き込みを始めたが収穫はなく、目撃情報すら上がらなかった。では犯人はどうやって、体育館に遺体を運んだのか、、、、
四限には別のクラスが体育館を使用していた。僕たちが体育館に訪れたのはお昼休み。という事は給食の時間帯に遺体が置かれた可能性が高い。
殺害場所は体育館ではない場所、学校の登校時間は8時15分締めで、被害者が家を出た時間帯が7時30。
ーーー欠席の連絡は誰がしたんだ?
母親は学校に登校したと言っていたが、実際は欠席。もし母親が嘘をついている可能性は低いと思う
あの安堵の仕方、懺悔するような様子、あれが演技だとすると相当な女優だ
僕らは欠席の連絡を受けた秋南 楽の担任の先生に話を聞きに行った。
「嶋田先生欠席の連絡って誰から聞いたんですか?」
「それね警察の人にも聞かれたんだけどね保健室の先生だよほらあの美人の藤山 凪先生!」
「その時なんか気が付かなかった?様子がおかしいなとか、、、」
「なんかってそうだな〜いつも無表情だったのにその時初めて笑った顔を見たんだ。見惚れてしまってねその後生徒に冷やかされてしまったよ。」
「あでも白衣の右腕の部分に少し血がついてたから怪我したんですかって聞いたら勝利の勲章ですよって言ってたから猫とでも戦ったのかなって少し気になったよ」
「もし猫好きなら猫カフェにお誘いしようかなって!」
次に向かったのは給食時間帯に熱を出して看病されていた生徒の家で話を聞きにいった、
「え?先生におかしなところ?うーん無かった気がするけど、、そもそも私意識が朦朧とするくらい眩暈と吐き気がして何かを気にするほどの余裕無かったし、、、、」
「、、、本当はね先生にねお菓子貰ったの。最初は私だけ特別に貰っちゃったとか思ってたんだけどね先生料理下手だったみたいですごく不味かったの!!多分それでお腹壊したんじゃないかなって〜
これ内緒だからね!!!」
「電話で?おかしなところ?いえなかったと思いますよ?、、、、、あっ!!ただここだけの話先生から直接電話来た時は少し戸惑ったわ。1回目は学校からかかって来たのだけど2回目は先生の携帯から。え?警察に聞かれなかったかって?ええ聞かれましたけど先生と何時に電話をしていたかどうかしか聞かれなかったし、関係ないと思ったのよね〜」
彼を殺すに至る動機は彼女にはあるが、その証拠も証言もないまま悪魔の証明をするには無理がある。
藍太郎と僕は保健室の先生、藤山 凪さんを揺さぶるため話を聞きに行った。
先生は落ち着いた様子で外を眺めている。
「藤山先生、藤山先生は秋南 楽の事知ってますか?」
藍太郎がそう言うと窓から外を眺めていた先生が此方に顔を向けそしてまた窓の方に向き直した。
「、、、誰かしら??知らないわね?どんな人なの?」
「知らないはずないよね先生。これ警察の人にも聞かれたんじゃない?」
藍太郎が藤山先生に新聞を見せるが顔色ひとつ変えなかった。
「それがどうかしたの?私にはちゃんとアリバイがあるわ。それにもうその事件は終わった話。あまり掘り返さないでくれる?」
先ほどの優しい先生の顔から般若のような顔に変わりこちらを睨んでくる。
確かに先生には給食の時間中アリバイがあった。
その日熱を出していた生徒の看病をしていたし、その看病していた生徒の母親に電話を保健室から掛けていたのだ。
話をしてくれた母親の履歴を見せて貰ったが1回目の学校からの履歴しか残っていなかった。
「先生さ、雪春ちゃんの名前。あの花からとったんじゃない?ホルマリン漬けにされたあの花から。先生の中ではまだ終わってないんでしょ」
「蕗の薹の花言葉は待望、愛嬌、仲間、、、、真実は一つ、そして、、、処罰は行わなければならない。」
「、、、藤山先生足りないんだ。爪が一つ。あの現場には19枚の爪しかなかった雑に剥がされた中指の爪が。」
「藤山先生見せてくれないかな白衣の下の右腕を、、、」
「どどうゆう事なんだ?藍太郎??」
「その傷って誘拐した時についた傷、なんでしょ?秋南楽が抵抗した」
「すぐるちゃんは髪の毛を奪われ、頭を抉られ冷凍便で送られてきたでも、爪は剥がされていなかったはずだ。」
「なんでそんなことがわかるんだよ???」
「もし爪も剥がされていたら、あの部屋に残っていたはずだ。髪の毛と一緒にでもそれが見当たらなかった。」
「でも剥がしたけどやっぱ要らなくて捨てた可能性だってある」
「考えてもみろよ上顎から脳幹めがけて抉り取り、尚且つその遺体を冷凍便にして送りつけ、綺麗な状態のまま髪の毛も保管していた異常野郎だぞ?捨てるなんてまず有りえねぇよ」
「不測の事態が起きたんだろうよ例えば爪に犯人の皮膚の一部が残っていたとかな。
クロあの死体みてどう思ったよ、グロイ、猟奇的とか思ったべ特に死体に目がいっただろう。
それ以前に凶器やら服やらホルマリン漬けの花からさえも犯人の指紋や痕跡、形跡すら出てこなかったら完全犯罪未解決の迷宮入りになる。
誰も想像しねぇだろあの雑に剥がされた被害者の爪からまさか犯人の皮膚が出てくるかもしれねぇってな。」
「そこまで言うのなら証拠があるのよね?私が秋南楽を殺したという証拠が。」
「、、、、秋南 楽の中指の爪今頃あの母親の家に届いてるんじゃない?抉られた部分と一緒に。その爪から先生のその腕の皮膚が付着していたら先生があの異常者と一緒にいた証拠になるが、殺した証拠にはならない」
「なんでそんな事が分かるんだ?秋南の家にわざわざ証拠を送るなん、、、て、、、まさか」
「そう。そのまさかなんだよクロこれはあの異常者を罰せられなかった仕返しだ。秋南 楽の母親に同じ恐怖とトラウマ、絶望を与えるためのもの」
「でもね先生、あの母親は開けた恐怖、絶望より閉じた解放、歓喜と懺悔の方が強いんじゃない?」
藍太郎と藤山先生が静かに顔を見合わせた。
そして藤山先生は静かに笑いだし最後は歓喜と言ったように高笑いし始めた。
藍太郎はそんな藤山先生を見て顔を顰めた。
「この殺人にはどうしても協力者が二人以上は必要だ、誘拐に加担したやつ、電話機をハッキングしたやつ給食中に廊下に出る生徒がいるかもしれない中誰にもみられずに犯行を行えるとは当然思えない。」
「先生あんたは確かに秋南楽を殺したでも一人でやったんじゃない。この犯行を計画したやつがいるはずだ。」
「ふふふふふ。平井君、君には教えられないよ。これは私の罪だから」
そう言って藤山先生は憑き物が取れたようなこちらが見惚れるような顔で花が咲いたように笑った。
犯人は保健室の先生、藤山 凪さんだった。
まだ幼稚園児だった自分の娘を小学6年だった秋南 楽に殺された事が動機で、娘をどうやって殺したかは殺す前に楽から聞き出したが今ではもう立証不可能で、証拠も無いのだとか。
「何度も何度も何度も何度も警察に彼の話しをしたわ。でもね、証拠も証言もないまま祭り上げ逮捕することは難しいって。」
「だからね直接私から下してやろうと思ったのよ裁判では裁けない罪を。」
藤山 凪さんはその後自ら出頭したが、協力者のことは何一つ話さなかった。
そして、藤山先生は刑務所の中で自殺した。
「で!聞いてるか?クロ!!スノードロップの花言葉は、希望、慰め!裏の花言葉はあなたの死を望みますって意味なんだってよ」
「なーんかあの事件に似てないか?」
ーーあなたの死を望みます。
この世からあの異常者が居なくなったら私も少しは報われる。この生地獄終わらせるが我が宿命。