表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テウルギア  作者: 星河 昂
9/9

第二話 疑念(4)

◆◆◆


 あれからまた暫く歩き進め、俺達は大きな石造りの橋のたもとまで辿り着いた。幸いな事にリーパーを相手にする事なく無傷で到着する事が出来た。気が付けば日は完全に沈み切っており、辺りは暗闇に包まれ、小雨が降っていた。

 橋のたもとには美しい模様の施された鉄製の扉が存在していた。この中に、自分の事をよく知る者達がいるかもしれない。と、自分も仲間の事を思い出そうと努力してみるが、未だ頭の中は真っ白だ。何も思い出せそうにない。


「グラン開いたよ、ほら!」


「あ?ああ……」


 こちらが記憶を取り戻そうと思索に耽っている間にイストは扉を開けてしまっていたようだ。こうもすんなり開いてしまうとは。

 中を覗き込むと暗闇が広がっていたが、奥の方から微かにぼんやりと灯の光が漏れている。


「誰かいるのかも。でもここで大声は出せないな……」


 そう言うとイストはリュックを地面に下ろして中からランタンを取り出し、火打石も使わずに静かに素早くランタンに火を灯した。一体どうやって火を起こしたのかは一瞬でよく分からなかったが、先ほど見せてもらった謎の武器と同様に、自分が見た事のない道具で火を起こしていた。一体何を使ったのか……今度も気にはなったが、これ以上頭を混乱させたくない。そう思い、俺はイストの行為を黙認した。

 ランタンを自身の胸のあたりに掲げ、イストはこちらに視線を向けた。俺はイストの目を見て軽く頷く。イストを先頭に扉の中へ入ると直ぐにもう一枚鉄格子の扉が現れたが、イストはこちらの扉も難なく手持ちの鍵で解錠した。出入り口の通路は人が横に二人並べる程の幅しかなかったが、内部は想像以上に開けていた。外の橋と同様に四方八方石造りで、天井はアーチ型をしている。

 先へ進もうとした瞬間、通路の奥――光の漏れている脇道からガシャン!と甲冑の擦れる音が鳴り響いた。と、同時に声も響く。


「何者だ!?」


 目の前に現れたのは、全身を甲冑で覆っている若い男の兵士だった。よく見ると、構えている盾に自分が脱ぎ捨ててきたサーコートに描かれていたものと同じ百合の花の紋章が描かれている。


「ぐ、グランディス隊長……!?」


 ガシャン、ガシャン、と音を立てて男の背後からまた二人、甲冑を纏った兵士が現れた。彼らもまた同じ紋章の描かれたサーコートを着用している。

 

「ウルス、どうした!?」


「避難者か?鍵閉めてたろ。どうやって入って――」


 兵士三人は俺の姿を見て言葉を失った。こちらを見て唖然としている。記憶を無くす前、俺は何かしでかしたのだろうか?何も思いつかず、俺は思わず声を漏らした。


「ええっと……」

 

「隊長!生きて……生きていらっしゃったんですね!!俺……もう駄目かと……!」


 ウルスと呼ばれたその若い兵士は、構えていた盾を下ろしこちらに駆け寄ってきた。俺の手を取り、何度も良かった、良かったと声に出し頷くウルスの声は震えている。彼の様子を見て思い出したが、そういえば自分は瀕死の状態だったのだった。もしや仲間には自分は死んだものと思われているのだろうか?


「グランディス隊長!!?やはり!ほら、俺は大丈夫だって言ったじゃないか!皆に報告だ!まだやれるぞ、俺達は!」


 ウルスの後ろにいる片方の兵士がそう言った。やけに声がデカい。石造りとはいえ敵から身を潜めているのだ、声量は抑えた方が良い。


「早まるなよルノー。隊長、その……お怪我は?」


 もう片方の冷静な素振りの兵士がこちらの身を案じた。が、俺が気になったのは怪我の事ではなく――


「俺……隊長だったのか?」


 俺は隣にいるイストをちらりと見て呟いた。


「そういえば言ってなかったっけ。グランは彼ら蒼衛騎士団の六人の隊長の中の一人なんだよ」


 イストがそう言い終えると、冷静な兵士が口を開いた。


「一体どうなされたんです?我々の事をお忘れで……?」


「ああ、いや、その……。グランは怪物に襲われた時にどこかで頭をぶつけたみたいで……記憶が混乱しているみたいなんだ」


 三人の兵士が一斉にイストの方を見た。今度はルノーが口を挟む。


「君は……マーテルの子かい?」


 そう言われて、イストは被っていたフードを下した。そして水色の髪が露わになると、三人は驚愕した様子で身をのけぞらせた。


「ね、ネピリム様……!!」


「おいアミ、マズいぞこりゃ……!」


 ウルスとルノーはまるで恐怖したかのような引きつった声を上げた。イストを見れば、三人は膝をついて頭を垂れるものと想像していた俺は、真逆の反応にしばし驚いて三人の様子を見ていた。


「落ち着けよ。ここに残った連中は一応支持派だぞ。皆受け入れてくれる筈だ」


 アミと呼ばれた冷静な兵士が二人をなだめる。


「何の事だ……?何故ネピリムを見てそんなに怯えてるんだよ」


 俺は一番話が通じそうなアミに向かって聞き返した。


「……隊長。今、マーテルがどういう状況かご存じですか?」


「知らん。俺は昨日一昨日と二日間、化け物に襲われて意識を失って倒れていたらしい。気が付いた時にはこのイストという名のネピリムが介抱してくれていたんだ」


「イスト様……ですか」


 アミはイストの名を確認するかのように、イストの目をしっかり見つめて呟いた。イストはこくりと小さく頷いて見せた。アミは俺とイストを交互に見た後、しばし沈黙し、こう続けた。


「今、マーテルは突然現れた化け物と、赤目のネピリムの騒動で混乱状態なんですよ」


「赤目のネピリム……?何だそれは」


「バカでかい化け物の背に赤い目のネピリムが乗ってたって目撃談が複数あったんですよ。俺は見ていないので本当なのかどうか知りませんがね」


 ルノーが二人の会話に割って入った。


「特に、貴方を慕っているラティオの奴が目の前でハッキリと見たって言ってやがるんです。でも……」


「でも?」


「あいつ、貴方が目の前で亡くなったとも言ってたんですよ。でも貴方は無事だった。……どこまで信じて良いか分かったもんじゃないですね」


「あ、あり得ない……!」


 突然、イストが声を上げた。


「ネピリムがリーパーと一緒に行動してるだって!?それだけは絶対……あり得ない」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ