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テウルギア  作者: 星河 昂
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第一話 赤目のネピリム(2)

◆◆◆ 


 この世界、ガイアには人間・エルフ・ネピリムの三種の人類が存在している。中でもネピリムは特別な存在だ。彼らは古の時代、突如として人間やエルフ達の前に姿を現し、いつの時代もその豊富な知識と不可思議な力をもって人々の未来を導いたという。透き通るような白い肌に、水色の髪と青い瞳を持った、美しい少年少女の姿であり、何故か皆容貌が非常に似通っている。そして不思議な事に、彼らは全く年をとらない。まるで神から遣わされた天使ネピリムのようだと、人々はいつしかネピリムを人類の主導者として崇めるようになった。

 ネピリムの中でもノアは特には有名な存在だ。遥か昔、ノアはこの自然豊かなヴェストリアの大地に、どのネピリムよりも早くに目を付け、当時遊牧生活を行っていた人々を外敵――伝承によると『邪悪なるもの』から守る為に城壁都市マーテルを建築指導したのだという。そしてマーテルには自身が腰を据える為の大聖堂と、共に例の外敵と戦う為の蒼衛騎士団を創設した。他のネピリムも後に同様の動きを見せたとの事だが、それはノアに影響を受けての事だったとか。


「異形の怪物ってのがどういったものなのかは分からんが、ノア様が仰るには昔から言い伝えられている『邪悪なるもの』ってのがそれの事らしい。聖典に記されている『大いなる厄災』とはすなわち、世界がその怪物達によって滅ぼされる事を示している」


 訓練場に集っていた蒼衛騎士団三番隊の連中の前でこう告げると、皆互いに顔を見合わせ、一様に怪訝な顔をして見せた。まるで「頭でも打ったのか?」と言いたげな表情の奴らばかりだ。


「隊長……大丈夫ですか?」


 部下の兵士の中の一人がこちらの様子を伺いながら声をあげた。

 俺は、教会の人間であるにも拘わらず無神論者だ。故に聖典や伝承などについて語る事は滅多に無い。騎士団の連中も、そしてノアも、この事はよく知っている。神を信じない俺をノアが教会に置く許可を出したのにはそれなりの理由があるのだが、それはまた別の話だ。

 だからだろう、こんな事を冷静に皆に報告するなど、俺に限ってあり得ないと判断されたようだ。


「頭は打っていないぞ。正気だ」


「信じるんですか?ご自身でその怪物を見た訳では無いというのに……」


 少しの間、俺は口をつぐんだ。確かに、俺は神を信じてはいない。だが、ネピリムは違う。


「……ここに入団するずっと前、十年程前の話だ。たった一度だけだが、見た事がある。ネピリムが起こした奇跡というやつを」


 騎士団に入団して約十年が経つ。だが、この話を口に出したのはこれが初めてだった。

 ネピリムには不可思議な力がある。それは伝承として知られているだけで、実際に目の当たりにした者は俺の知りうる限り存在しない。ノアに幼少の頃から仕えている高齢のアトラスや、人間よりも倍は生きるとされているエルフでさえも、だ。何故力を人に対して使わないのか、過去にノアに何度か質問をした事もあったが、彼女は奇跡はそう簡単に人の目に晒すものではないと、それ以上答える事は無かった。


「ネピリム様の……奇跡を……!?」


「ど、どこで!?どんな御業を見たんですか!?」


 矢継ぎ早に質問され、俺は話は最後まで聞け、と部下達を制した。


「俺の例の恩人、覚えている奴も多いだろう?彼女が俺の目の前で奇跡を起こした事がある。だが詳細は言えない。人には言うなと本人から口止めされているからだ。だがそれを見た上でノア様が怪物の存在を肯定されたとなると……俺は、怪物の件も信じざるを得ない」


 はぁ、と溜め息を漏らしつつそう答えた。世界の崩壊など笑えない冗談だ。けれども、ノアのあの曇った表情を見るに……恐らくただ事では無いのだろう。

 隊長の例の恩人とは?と、まだ新米の兵士数名が古参の者達に問うている。


「隊長の恩人と言えば、当時イグニスにおられたイストという名のネピリム様の事でしょう?」


「ああ、そうだ。彼女のお陰で俺は今ここに居る。まだ新米の奴らは知らないだろうが――」


 そう言いかけた時だった。今までに聞いた事の無いような、何か大きなものが爆発したような轟音が辺りに響き渡った。刹那、訓練場の地面が激しく揺れ、皆立っていられずに地面に膝をついた。


「皆無事か!?」


 地面に両手をついたまま、周りの様子を伺い声をかける。――と、また先ほどと同様の轟音が鳴り響いた。地面もまだ揺れ続けている。


「一体何だってんだ!?」


「爆発音……ま、まさか、戦争!?」


「馬鹿な事言ってんじゃねぇ!マーテルでそんなもん起こるかよ!」 


 落ち着け!と叫び、俺は態勢を整えながら左腰に下げた剣の存在を確かめた。普段、滅多に抜く事はない剣だ。

 ヴェストリアという国は比較的安全であり、特にマーテルなんかはノアが居る事もあって争い事など殆ど起こらない。だがこれは……この耳をつんざく音と揺れはなんだ?何が起こっている!?

 

「おめぇら大丈夫か!?」


 効き慣れた声が聞こえて背後を振り向くと、訓練場の出入り口の傍で壁に寄りかかるようにしながら、こちらに向かってボイジャーが叫んでいた。


「問題無い!そっちは!?」


「阿呆が三人程階段から転がり落ちやがったけどよ、軽傷だ!問題ねぇ!」 


 ちゃんと確かめたのか……?と疑問に思いつつ、俺は奴に向かって叫んだ。


「お前はノア様の所へ行け!!彼女の護衛を頼む!俺はこいつらとお前の二番隊の連中を連れて今から外へ向かい様子を見に行く!」


 目配せで部下達に合図を送ると、皆一斉に頷いてみせた。

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