赤く染った翼
この世界には、数多の天使がいた。
地上にいる者に幸せを運び続ける天使達が。
天使達は青く自由に広がり続ける空を自由に飛び回っていた。
その姿は、まるで初めて広い世界を見た赤子のように純粋で、ただ前を見て飛び続けていた。
その中でたった一人、数多の天使の中でたった1人だけ、赤く淡い光の翼を持った天使がいた。
彼は、血塗られたように色濃い赤に染っていて、天使のような輝きも見られなかった。
それはとても醜く、禍々しく、天使の形をした悪魔のような姿であった。
赤い天使は、存在が確立されてから永久に、終わることのない世の中を見てきて、ずっと考えていたことがある。
僕ら天使は、地上にいる者に幸せを運ぶ。
しかし、彼らから本当の幸を感じたことがない。
彼らは、いつでも辛さを抱えて生きている。
長いようで短い年月のほとんどを、辛さを抱えながら生きている。
時として幸せを感じる者もいるが、彼らは自分が幸せだと思っていることしか幸せと捉えられない。
他者の幸せを幸せと捉えていないのだ。
これを本当の幸せと呼べるのだろうか、と。
この世は自分の欲なしで生きることなどありえない。
多かれ少なかれ絶対に生命が持っているものである。
その欲のために、幸せのために不幸に足を踏み入れる。
こんなことがあっていいのか、と永遠の時間を永久的に考えていた。
そう考えている中、ありふれた天使は、体から血が溢れ、徐々に赤く染っていった。
輝きを失い、心を閉ざし、やがて今の赤い天使となった。
自ら負を作り出し、心の隅から隅まで自傷する。
まるで、心臓を鎖で締め付けて、その圧で血が溢れ出すようなものである。
迷い、思考を巡らせた結果、普通の天使に対しての嫉妬の想いに溢れていた。
彼らと共に自由に飛び続けていたい。
その気持ちが胸を渦巻いていた。
その姿を見た天使達は、
「君、どうしてそんなに赤いの?」
と問うてきた。
それに、赤い天使は答えなかった。
彼は羨ましかった。
自由に、純粋に、羽ばたき続けている彼らに。
そこに、神様が来て、
「彼は、地上の者と接触しすぎてしまったのです」
と、落ち着きのある声で言った。
「あなたは、いっその事、人間になってはどうですか?」
「僕が…人間に?」
「あなたの考えは知性のある人間らしいです。あなたを一日だけ人間に変えてあげましょう。そこで何が見えるか、改めて地上を見てきなさい」
という言葉に赤い天使は了承した。
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地上に送られた赤い天使は、日本の首都へ向かった。
そこで、もっと多くの人間を見てみたいと思ったからだ。
人間になった赤い天使は人混みの中を歩き回った。
そこで見たものは、天使のような純粋さ、ではなく人間の人間らしいものだけであった。
あの世界と比べてしまうと、ここはとてもつまらなく感じる。
一つの集団は他人を罵り、また一つの集団は仲睦まじく、見ていて微笑ましいものだった。
しかし、中には一人で行動している者もいる。
これは僕が見てきた天使達とは違うところだ。
天使は、常に他の天使と交流をとる。
そうすることで、彼らは愛を育んでいるのだ。
しかし、人間はどうだ。
皆、私利私欲によって動いている。
もっといえば、生物など皆そうだ。
誰かのために生きてなどいない。
誰かのために生きる、という自分の欲を満たそうとしているだけだ。
野生の動物などにある母が子を守る本能と変わりはしない。
にもかかわらず、知性を持って生まれてしまうだけで、それを我欲を肯定するのだ。
実に滑稽で恐ろしい。
そのように、赤い天使は日本の首都を回りながら考えていた。
それと同時に、赤い天使はこのように考えていた。
「天使と人間の違いは自由か、不自由かなのではないか」と。




