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辺境伯邸

子供達を見送った後、私はレイモンド様と一緒に邸の中に入ると10人ほどの執事・メイド達が出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ。お嬢様、若旦那様」


うちの執事・メイド達は精鋭揃いだから、整った歓迎の声は圧巻ではあるのだが…ちょっと待って。


レイモンド様の目が点になって体が硬直している…。


「ただいま。あの…『若旦那様』て、レイモンド様のこと?」


執事頭のフェルことフェランドに聞いてみる。父と母の最初の使用人、と言うことで我が家の中では圧倒的に信頼できる人…なのだけど…


「左様でございます、お嬢様。旦那様より、お嬢様の夫として敬意を払うよう、仰せつかっております。旦那様と奥様を大旦那様と大奥様とお呼びするには、まだまだお二人とも現役ですので」


…生真面目すぎて、時々あらぬ方向に敬意が飛んでいってしまうことがたまにキズだ。


「あ、そう…レイモンド様…レイモンド様?」


レイモンド様は、圧巻な執事達の挨拶により、未だ放心しているようだ。私が袖を少し強めに引っ張ると、彼の意識は戻ってきた。


「あ、ごめん。少し、びっくりしちゃって…」


申し訳無さそうに笑う彼は、放っておけなかった。少し、と言う感じには見えなかったですよ?


「うちの執事・メイド達は、執事学校を卒業して戻ってきた精鋭揃いだからね。仕事振りは保証出来るけど…若旦那様呼び訂正して貰わなくて大丈夫?たぶん、今直さないとずっと直らないから」


「そうなのですね…。あの、歓迎していただいてるのに申し訳ないのですが、出来れば、その…私の事は『レイモンド』とお呼びください。今はまだ婚約してるだけの状態ですので」


レイモンド様は、フェルに申し訳無さそうに頼むと、フェルは困った笑顔で「こちらの旦那様が現役の間は」と条件付きで了承してくれた。


レイモンド様は、冷ややかな外見とは裏腹に、実直で穏和な方だからか、使用人達には好印象なようだった。


(まあ、自分が言うのも変だけど、父や私の性格と比べたら、手が掛からないものね)


その後フェルの下で、エドモンド邸について、簡単な説明が入る。


1階が食堂、客間、応接間と客を含めて全員が出入りできる場所となっている。


2階がそれぞれの寝室と浴室、執務室…屋敷の主達が使う部屋、そして隠し通路から行ける3階が使用人の部屋…と言う感じだ。


「隠し通路があるって凄いね」


レイモンド様は、感心しているご様子。


「父がお屋敷を再設計したときに、取り入れたの。見映えの為と言いながらも、実際行ってみると、皆が快適に過ごせる空間になってたのよ」


「辺境伯様の気遣いが行き届いているね。それに…簡素なのに温もりを感じる」


レイモンド様の表情が柔らかくなった。


「無頓着な部分を母が補ってくれているからですかね。私と父は領地運営や政治には感心あるのですが、それ故に機能性ばかり重視しちゃって、『丈夫だけど簡素』に行き着いてしまうのです…」


「好きなものがあるのは良いと思いますよ?」


「レイモンド様、あまりお嬢様を甘やかさないでくださいね?お嬢様は私達や奥様が強行手段に出ないと、社交から遠ざかりがちなのですから」


フェルの指摘に言葉を濁す。確かに社交よりも勉強と先延ばしにした結果、社交デビューが15歳と、やや遅めなのは自覚しているが…


お婿さんが決まるまでは、父は私を跡継ぎにする気満々だったからしょうがないじゃない…。


「その社交の報告の為に、これからお父様の執務室に行くんでしょ?報告の内容次第で、今後行くべき社交はちゃんと参加するわよ。フェル、執務室への案内は私がするから、疲労回復のハーブティーを3人分用意しておいて」


「承知致しました」


フェルは、頭を下げて調理室の方に向かった。


「レイモンド様、それでは行きましょうか」


「はい」


私はレイモンド様の手を引いて執務室に足を進める。


女性自らが腕を引くと言う、貴族の令嬢らしからぬ行動したことにまだ気付いていなかった。

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