プロローグ
魔術という概念が、神秘的だった時代は今や昔。
魔術というものは、ごく当たり前の文化となっていた。
花を咲かせたかったら、土魔術。
飲み物を飲みたかったら水魔術というように、この世には魔術があふれていた。
だがしかし、なんの神のいたずらか、ある時を境にこの世は火、水、雷、氷、土、風、生、体の八種類の魔術のみで構成された。
その時、世の中は大いに乱れた。
平和というものは忘れ去られ、世は戦乱の時を迎えた。
それはそれはおぞましく、国同士がぶつかり合い、死者であふれかえっていた。
そんな戦争が10年続いた。
10年というものは短いようで長い。
すべての国が、優秀な魔術師を多く失い、疲弊していった。
各国は、協定を結び、このようなことはないようにという願いを込めて
アウレリウス1345年 不可侵永和条約が結ばれた。
そして魔術というものは各国で共有すべきものであるということが共通認識となり、全7か国の資金を使い、アウレリウス魔術師養成学校が建設された。
7か国の資金で建設された学校は、まさしく平和の象徴ともいえる存在となったのだった。
それから100年が経った。
魔術師養成学校もたくさんができ、数多の優秀な魔術師が
排出された。
そして、優秀な魔術師の中でも特別に強い一握りの魔術師は「神から選ばれた魔術師」と呼ばれ、絶大なる人気と地位を確立していた。
そして今、「神から選ばれた魔術師 (ナンバーズ)」になるための一歩が開かれようとしていた。
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「あ~これは、どうすればいいんだ。」
俺、春風未来は、髪の毛をかきあげ、現状に困っていた。
何故か。
目の前には、
「ああ、私はこれからどんな辱めを、みんな…すまない...」
と泣いている金髪の少女が。
後ろには
「格好良かった。やっぱりあなたは私の運命の人。」
と銀髪の少女が俺の背中に抱きついている。
そして周りの人たちは、茫然としている。
こんな状況の中心に俺がいたからだ。
「どうしてこうなったんだ?」
俺は、一度自分になにが起こったのか整理しようと思った。
― 三時間前 ―
「お~ついたー!遠かったな、学園都市アウレリウス。」
俺は船に揺られ、アウレリウスまできた。
活気のある街だ。船からみてもそうであると断言できる。
「ここで俺は人生の勝負が始まるのか...」
俺がボソッと呟くと、腰につけた刀も肯定したかのようにゆれた。
俺は、今日アウレリウス魔術師養成学校の入学試験を受けるためにサクラミナミ国から来た。
理由はもちろん「神から選ばれた魔術師 (ナンバーズ)」と言いたいところだが、実のところ違う。
そういうすごい人たちがいるらしいって知ってるくらいだ。
憧れてなんていない。
俺はいい仕事が欲しいんだ。ただそれだけさ。
だから、魔術なんて習ったことがないのにここに来た。
このアウレリウス魔術師養成学校を卒業すれば就職先なんて引く手あまた、しかも給料がいいという。またこの学校は、入学料、学費無料というお金がかからない。
しかも入学成績優秀者、学業成績優秀者には、助成金まで出るらしいんだ。
このお金で、妹の奈々を好きな学校に入れさせる。
それが俺のこの学校を受けた理由だ。
両親は何とかすると言っていたが、そんなお金がないことを俺は知っている。だからこそ周囲の反対を押し切ってまでここに来た。最後には応援してくれたが。
「よし!」
俺は頬を叩いて気合を入れる。
そしてアウレリウス魔術養成学校に向け、歩き出した。
「受付よし、あとはまた一時間後に来るだけだな。」
俺は、到着すると、入学試験の受付を済ませ、それまでの時間をつぶすために、少し散歩に出ることにした。
「うーん。何しようかなあ。」
そうやって伸びをしながら歩いていると、ふと俺のポケットの中にお金が入った袋があるのを思い出した。
ポケットからは、薄汚れた袋が出てきた。
「いつ見てもきたねぇ袋だな。父さんめ。入学試験受けるからって言ってお金もらったけど、こんなお金使えないっての。いらないって言ってんのに無理やり渡してきやがって。金ないくせによ。」
そう言いながらも、俺は口角が自然と上がっていた。
「受かんなきゃな。」
俺はぼそっと言うと周りを見渡した。
「やっぱり何回見ても圧巻だなあ。学園都市アウレリウスは。」
優秀な魔術師がここから出るというだけあって、周りは非常に栄えている。
船から思った印象は当たってたって訳だ。
そこらじゅうからいい匂いがただよう。
店を見ながら少し歩いているとなんだか路地裏から物音がした気がした。
「なんだ?」
俺はその音がした方に向かってみると、銀髪の少女が男三人に絡まれていた。
「ヘイヘイヘイ嬢ちゃんどうしてくれんだ。俺の腕に傷が付いちゃったじゃねーか。あーあこれは結構な額が必要だなおい。」
男の一人が少女ににやにやしながら言っている。
なんだ強請か?
「やめてください。」
少女が言った。
よく言えるなあ。自信があるのか?少し様子を見ようか。
「おいおい証拠はあんのかよ?ないなら無理だなあ。こっちは周りの二人も見たって言ってんだけどなあ」
「「へへッへへへヘッ。」」
周りのやつも気持ち悪い笑みを浮かべながら少女に近づけていく。
「私は意見を変えません。うそをついてでも悪い人から助かるつもりはありません!」
少女は強くはっきり言った。よく見ると膝が震えている
「ああ?それは俺様達に身体で払いますって言ってんだよな?おいおめえらやっちまうぞ!」
少女に男たちは襲い掛かる。
「おいっ!待て!やめろ!」
俺は、とっさに前に出て男たちを切った。男たちは、地面に這いつくばった。もちろん殺すつもりなんかないから峰打ちだ。
「ぐっ!なんだお前は!?」
身体を押さえながらボスらしきやつが、俺の方を睨む。
「女の子をよってたかっていじめてんじゃねーよ。男としてダサすぎる。どっか行け。」
俺は冷たい視線をそいつにぶつける。
ボスらしきやつは
「くそっ。」
そういいながら腹を抑えながら逃げていった。
はあ、諦めずにこっちに向かってくるくらいは骨があってくれよ。
そのくらいの覚悟を持って悪党やってくれ。
俺が男たちの後ろ姿を見てそう思っていると、
「ありがとう...助けて...くれて。」
少女がたどたどしく、そして小さな声で俺に感謝を伝えてきた。
「いいや、ただ見過ごせなかっただけだよ。別に感謝されるほどでもない。」
俺は笑顔で答える。
そう。感謝されるほどでもないことだ。
「でも...ありがとう。」
銀髪の少女は軽く頭を下げると、なにやら考えた顔をして固まった。
どうしたのだろうか?そんな疑問を頭に浮かべる。
「どうした?」
なにか困り事でもあったらいってほしい。そう思って声をかけた。
しかし、その少女から発せられた言葉は俺の想像していた受け答えとは全く違うものであった。
「これって運命?」
軽く首をかしげながら少女は言った。
これが俺とティナとの出会いだった。
初めまして。
みたらしいちごといいます。
大体40話を超えたあたりで一章が終わる予定です。
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