3話
魔法学入門の冒頭にはこう書かれていた。
"この世界は2つの概念で成り立っている。それは科学と魔法だ。魔法は戦争に使われてきた歴史もある一方で古来から多くの人々に奇跡的な恵みをもたらしてきた。だか、多くの科学者は、この世界は数式によって全て表せると言っている。さらにその多くは魔法も科学によって証明されると豪語しているがそれは間違いだ。科学は数式によって表せるもののみしか扱うことが出来ないのだ。魔法はこの科学の扱えない分野を補完する。だから魔法の素質とは遺伝に依らない。遺伝とは科学によって抽象化された定義でしかない。質的遺伝学や量的遺伝学でこれを説明するのは不可能なのだ。同様に統計学でも無理だ。魔法の素質は魔法のルールにより与えられる。これは魔法陣などよって定義されるルールであるのであるがこの本の読者には高度で難解だろう。その為ランダムであると考えてもらって構わない。この本ではこれから魔法を学ぶ人間のために作られた。まず1章は魔法の素質の測定法を学ぶ。2章以降は..."
「よし次のページ行くぞ」
「さすがは私のお兄ちゃんね。気が合うじゃない」
私達兄妹は難しい話は嫌いなのだ。真面目なレオンは「え〜まだ読み終わってないよぉ」とか言っているがここはみんしゅしゅぎだ。3人中2人が次に行くと言っていれのだから次に行くのです。
"1.魔法の素質の確認法"
そうそうこれこれ!
"まず透明な固体を見つけよう。ガラス、水晶、氷、何でもいい。しかしこの操作を行う間、固体を保てる物質、または環境でならなければならない。"
「とりあえずそこの窓ガラス使えばいいんじゃないの?」
家のやつだし問題無いでしょう。
「そうだな」
「うん...」
全会一致だ。
"そうしたら紙とペンを用意し、下記の魔法陣を書こう。魔法陣を囲むルーン文字のスペルミスには注意しよう"
下記の魔法陣...。写すのにのには1時間は掛かりそうね。
「...」
「...」
「...僕、こういうの得意だよ」
単純な作業だが私達は目を点にして黙々と写した。結論から言うと1時間じゃ終わらなかった。お兄ちゃんが失敗ばかりして折角完成しかけていた魔法陣は1からやり直しにされたから。
大人しいレオンに対してお兄ちゃんはやんちゃな性格だ。もうなんどお兄ちゃんのせいで家具やら家の一部やらが壊れたものか。それでいて細かい作業は嫌いなのか不器用なのか。多分不良と喧嘩した時のこと考えると前者なんでしょうけど。
「もうお兄ちゃんは何もしないで!」
「はぁ!?サボれっていうのか?父さんが怠惰が何よりも罪っていってたぞ!」
「怠惰とかじゃないから!今すぐ辞書で"足で纏い"って言葉調べてきて!」
作業が進んだのはお兄ちゃんがママ、バベット・フィシャーに呼ばれて一緒に買い物に出てから。
しっかし、レオンったらなんて器用な子なの!彼の手にかかってみるみる魔法陣が出来ていくじゃない!
「おけーレオン!私は何を手伝えばいいかしら?」
「黙って座ってて...」
おかげで私も戦力外通告だわ。
「出来た...!」
大人しげな台詞だけどレオンの顔は達成感に溢れている。
私にとって幼馴染のレオンの家庭は不幸なものに見える。
去年の統暦1929年、世界が同時に不況に陥った。私の国、ゲルマニア共和国も例外ではなく、今もだいぶ減ったとは言え街は失業者で溢れかえってる。
そしてレオンの父もその失業者になってしまったと聞いた。この国では学費は無料だからレオンは学校に通うことは出来ている。しかし、父も母も明日の食事のために仕事探しに翻弄されているのだ。レオンは家に居ても遊び相手はいない。
だからその時からレオンと私達兄妹はよく一緒に遊ぶようになった。彼は家庭に居場所はない。外に居場所を求めているみたい。
レオンは真面目で控えめな性格。まあ家庭も家庭ですから心を殺して生きていかなければならないのだろう。でも私達と居るときは楽しんで欲しい。そう思う。
「次は何しろって書いてある...?」
考えに浸っていた私はレオンの質問でハッと我に返った。
「え!?あぁ!えーっとね...」
本には用意した透明なものに貼れと書いてある。貼るものはテープでも接着剤でも何でもいいとのこと。
「さっきから何でもいいってのが多いけど大丈夫かしら。」
私は不安に思いながらガムテープで魔法陣を書いた紙をガラスに貼り付けた。