道化
しばらく戦闘シーンはありません。ご了承ください。
マルティンと謙也が訓練室にて訓練をしている間、エルクは自身の職務室にて今日の分の仕事を処理していた。
「…随分ご多忙なことだね〜、いや〜自分には到底できないよ、そんな職務は。」
ふざけた口調で、そしてエルクの机に座りながら。どこか友達に話すかのように接する男がいた。
「…何の用だ、道化?」
うんざりしたかのようにため息をつき視線を上げると、そこには謙也をこの世界に連れてきた張本人である道化がいた。しかし、別にエルクは驚かない。もう何回もこうしてここに侵入してきているからだ。
「いや、ちょっと様子を見にね。新しい子も来たことだしどうなっているかなぁ〜、と興味本位できたんだ。」
悪びれることもなくあっけらかんんとそう話す道化に、エルクは何度目かわからないイラつきを覚えたが、一息ついて落ち着くようにした。
(この道化がくると、毎回こんな気分を味わうことになるな。)
なんども経験したこととはいえ、この道化は謙也以外にもエルク自身も連れてきた男だ。間違いなく何か情報を持っているだろうし、できれば捉えてその情報を得たいところなのだ。それ故に、気が荒立ってしまうのは仕方のないことであった。
「さて、僕はそろそろ行くとしよう。以外と忙しいしね。」
「あぁ、さっさと行くがいい。」
吐き捨てるかのようにエルクは言う。
「そういえば、最近キメラ種がこの国の近辺に大量にうろついているけど、そろそろ根本原因をなくした方がいいんじゃない?」
挑発するかのような口調で道化は言う。
「お前に言われなくてもわかっているよ。もう出所もわかっている。これからすぐに対応する。」
「へぇ〜、そしてそれが彼の初めての仕事となるわけだね?」
「…あぁ、そうだろうな。」
何もかも分かった風な言い方に再びイラつきを覚えたエルクだが。そうなん度も言われうるたびに顔に出す程感情的ではないので、自然に返事をするように出来た。
「じゃあ今度こそ本当に帰るよ。…ゲート。」
道化がそう呟くと、近くに大人一人が入れるほどの黒い渦が現れた。空間移動魔法ゲートだ。これにより行ったことのある場所へ行けるが、魔力の強さによって行ける距離が変わるのだ。基本的に熟練した人でも数十キロが限界だ。さらに場所によっては高度にジャミングする機能も備わっているため。そこまで自由自在に行けるわけではない。しかし…
(こいつはおそらくそのようなジャミングをものともしない、さらに移動可能な範囲もおそらく常軌を逸しているだろうな。)
エルクがそう考えるには根拠があった。そもそもこの部屋は他のジャミング機能よりも数段上のものだ。にも関わらずあの道化はやすやすと入ってきた。さらに何度か移動先で捉えようともしたが全て不発に終わっている。熟練した人間がいける範囲より少し拡大して全てに監視をつけたにも関わらずだ。そこから道化の魔力の強さがすさまじいものだということは容易に想像できた。この空間移動魔法一つとってそれを証明したのだ。
(奴は我々の敵だが、まだ正面きって敵対しているわけではない。だが、いつかそのように正面きって敵対することになると、どうなることやら。)
まだまだエルク自身ここにきて長い時間を過ごしたというわけではない。精々数年なのだ。多少はこの世界に来た時知識を与えられていたが、知らないことも多々あった。その度に勉強をした。それなりの食についてなんとか生きて来た。しかし…
(やれやれ、まだまだやらなければならないことは多いようだ。我々は)
どうやらまだまだ気苦労が多いようだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回からヒロイン登場!