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僕たちはこの非情な世界で抗う  作者: MASANBO
望まずテロリストとなった者たち
39/80

結末

大変長くなりました。

森の深く奥、あたりはすでに暗くなり、虫の鳴き声と静かな風の音が聞こえる。そこにただ一人ユスフは立っていた。彼は一応に解放されこの場所へ置かれたのだ。しかしそこはつい最近まで、研究していた隠れ家だ。野宿する羽目にはならならなかった。しかし彼はその隠れ家の中に入ることはなかった。そのままもう数時間が経つ。静かに鳴く虫、風によって葉はお互いにこすられ、心地よい音がなる。しかし彼はそのような環境とは異なり、心配という感情一つに支配されていた。彼は自身の恋人ニコの帰りをただひたすらに待っていたのだ。


「ニコ……」


ただ一言何度目かわからない独り言だ。彼女が向かったのはあのアジトで襲撃にあった際に対峙した者たちのところだ。ただでは済まないのは容易に想像できた。だからこその心配なのだ。彼女は強力な力を手にした。別にユスフ自身彼女にそのような力を持って欲しいと願ったわけではないが、結果的にそうなってしまった。その力を使えば彼らを倒すことができるかもしれない。現に三人の竜人を一瞬にして氷漬けにした実績がある。しかしだからと言って彼女が無事でいる保証はない。向こうもそんな甘くはない。もしかしたら彼女は殺されるかもしれないのだ。


ユスフはただただニコの帰りを待つだけであった。それしか彼にはできなかった。


(なんと無力なのだ……)


そういい苦虫を噛むような顔をする。彼はニコを蘇生させたのと同時にアーノルドによって連れ去られ、今まで監禁された状態であった。そのせいで、ニコ彼女に辛い思いをさせてしまったのだ。そのことが何より許せなかった。彼女とただ幸せに暮らしたいだけであったのに、それが何より困難であった。


(思えばこのような状況を作ったのも俺のせいだったな……)


ユスフは道化に出会い、人生が狂い始めたことを今思い出しながら、自己嫌悪に陥る。


(ニコを巻き込んでばかりだな俺は……、本来このようなことに巻き込まれることもなかったろうに)


だんだん自分が嫌になってくる。最初からユスフはニコを幸せにできていなかった。そのことを改めて自覚して、自分は本当な彼女といるべきではなかったのではないか?道化と出会った時にすでに彼女と縁を切っておくべきだったのでは?という後悔に襲われているのだ。


「随分と暗い顔をしているじゃないかユスフ君?いい顔だ、僕の気分が実に良くなる顔じゃないか!」


そう愉快に話しながらユスフの後ろに立っているのは道化であった。


「……」


道化の発言は実に腹立たしく、不愉快なものだが、彼にはそのことを気にかけるほどの余裕などとうにない。


「……無視かい?それはなかなかにつまらないねぇ。まぁそれで何かしでかすのも大人気ないか……」


ふてくされるような表情を作りながらそう独り言をつぶやく道化。そしてユスフが効いているのかも関係なく話し始めた。


「喜ぶといい、間も無くニコは帰ってくるよ君のもとにね」


そういうとユスフはわずかに反応してみせた。顔が見れないために表情はわからないが、喜びの感情が浮かんでいるのは想像に難くない。さらに道化は続ける。


「ただ彼女は怪我を負っている。それもかなり重症だ。尤も命に別状はないだろう。なにせ君が彼女に驚異的な生命力を与えたのだからね。」


ケタケタと笑いながらそう言う道化。


「……そうだな。お前に言われる筋合いはないと個人的に考えているが。確かにその通りだ。それで君はいつまでそこにいるのだ?」


ユスフは道化は邪魔だと言う意図を込めてそのように言う。その言葉に応えるかのように道化は、


「そうだね、せっかくの恋人の再開だ。水を差しては馬に蹴られるな。ここで去る事にしよう。せいぜい暖かい包容で迎えてあげる事だね」


そう言って道化は姿を消した。


「……」


ユスフは道化の方を一度たりとも向けずにただ空を見上げていた。そこに小さな影が一つ見えた。それがなんなのかは彼には一眼でわかった。


「ニコ!」


そう言いてを大きく広げて彼女を迎える準備を整える。彼女はよろよろと空を飛びながらもユスフの方向へまっすぐ進む。負傷によって体はもうボロボロであった。目の焦点もあっているのかも疑わしかった。


(構うものか!)


今のニコは人間とは言えない。しかしユスフにとっては些細な事だ。そもそもそれは自分んが原因でもあるのだ。それを怯えたりすることはない。


「ニコ!こっちだ!」


(あぁ、ただただ純粋に喜びしかない……無事に生きて帰ってくれるだけで十分だ。これほど嬉しいことはない)


ユスフは喜びの表情を浮かべながら今か今かと彼女が自分のところに来るのを待つ。そしてその時はすぐにやってきた。ニコはユスフを視線に捉えると、高度を下げ、彼のところへと静かにそしてゆっくりと降りていく。ニコはユスフのほんの数メートル前に降り立つ。ユスフは彼女に近づきゆっくりと抱きしめる。


「おかえり」


涙を流しながらその言葉が出てきた。ニコ、最愛の彼女が帰ってきてくれたことの喜びに浸りながらただそう一言言ったのだ。




ーーーグチャ


生々しい音が聞こえた。この感動のひとときにはふさわしくないとても鳥肌が立つような音だった。その音はユスフの右肩から聞こえてきたものだ。


「………」


恐る恐るユスフは自分の右肩に目をやる。そこには自分の方にかぶりつくニコがいた。泣いているのだろう、彼女の目には涙が浮かんでいた。しかし彼女はユスフをくらいつくのをやめない。いや彼女はやめたがっているのかもしれない。しかし彼女を突き動かす何かがそれを許さないのだ。


「ニコ……」


絞るような声を出すユスフ。そこには驚きと諦めの感情が混じっていた。


(なんとなくこのような末路をただることは予想していた……なんとなくだが)


そう思いながら静かに倒れ空を見上げる。


(しかし、悲惨な末路を辿ることは予想していたが、まさかニコに食われるとはな……しかしそれもまた自分の行いの結果だろう。そう考えると受け入れざるを得ないか…)


自分の行いがやはり間違っていたのだと確信に至るユスフ、そしてその横でユスフを食らうニコ。もはや人の道から外れてしまったように思えた。そのような状況に追い込んだのは紛れもなくユスフ自身であった。


「ごめん……、ごめんな……、ニコ、もう俺の声は聞こえないかもしれないが謝らせてくれ……、俺さえいなければこんな姿になることもなかっただろうに……、ごめんな。ただ…俺はニコ、キミと居たかっただけなんだ。だけど俺のこのわがままのせいで……ごめんよ…」


薄れていく意識の中ただひたすらにニコに対して懺悔するユスフ。別に許されようとは思ってもいない。ただ言わずにはいられなかったただそれだけのことであった。


ーーーーーーー


「あれは何をしているのだ?」


望遠鏡を使いニコとユスフを観察していた男、アーノルドは横にいる男、道化にたずねた。


「ああ、あれは魔力の枯渇が激しいニコがそれなりに魔力を保持している餌を見つけたから補給しているのだよ。……彼女の意思とは関係なくね」


「なるほど、ああやって補給しなければならないのか」


「まぁそうだね、そしてさらにいうと、彼女の意識はなくなってはいないだよ」


道化はさらに補足する。


「というと?」


アーノルドは問いかける。すると道化は実に楽しそうに


「ニコは最愛の彼氏(笑)を食べていることを自覚しているのだよ。だから見て見なよ、泣いているだろう?あれは自分の行動を抑えられず、ユスフを食べていることにたまらず流しているのだよ。それぐらいはできるからね〜」


ケタケタと耐えられずに笑い出す道化


「……しかし、それを実戦の時には邪魔だな……、あまり数を量産するとまずいしな」


道化の行動に不愉快な思いを見せることもなく淡々と、これをどう活かそうか考えているアーノルド。どうやらこの中にまともな人間はいないようだ。


「だがそれは後で考えるとしようか。まずはニコをたらニコを捉えることが優先だ」


そう判断するとアーノルドはすぐさま行動に出る。


「ああ、ちょっと待ってくれないか?」


しかしその行動を道化が止める。


「何かまずいことでもあるのか?」


滅多にアーノルドの邪魔をしない道化が止めに来たため、何かあるのだろうと踏んで少し警戒しながら問いかける。


「ああ、それは僕がやるよ。だからもう少しだけ待ってくれ、あんなおもしろ楽しい場面を見られるのは久しぶりなんだ。僕の幸せのために時間をくれ、なぁに後でちゃんとらえてあげるからさ☆」


流石のアーノルドもこの言葉には苦笑いするしかなかった。しかし彼自身人道から外れている部分があるので、


「ならばここは君に任せる。後でちゃんと俺のところにまで届けろよ」


ただ一言そう述べて立ち去って行った。


「はいは〜い」


道化は調子の良さそうな返事をして彼を見送った。


「う〜ん、やはり人の不幸というのは実に甘美なものだ。いやはややっぱりやめられないな〜」


そう言いながら道化はスキップをしながらニコに近づいて行く。それははたから見たら幸せなスキップに見えるが、ニコとユスフにとってはただ死神が踊っているようにしか見えなかっただろう。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

これにてこの章は終了です。次から新章に入ります^_^

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