死者の蘇生
もうじき終盤に突入します。
あの道化に知識を与えられたユスフはカタカタとPCにデータを入力していく、その後ろでは研究員がバタバタと作業を進めていた。
その場所は活気にあふれていた。はじめの方は本当にできるのか疑問的であったものが、実現する可能性が高くなったからだ。
あれから十日ほど過ぎた。その間ほとんど休憩などなかった。いや誰もしようなどとは思わなかった。ユスフはニコを生き返らせるという大きな目標があるからだが、ほかのものも言ってしまえば科学者、世紀の発明かもしれないものが実現するとなればテンションも上がるものだ。
「おい!そこはそうじゃない!貸せ!俺がやる」
「魔力補給の装置はまだなのか!早くしてくれ!」
「あと少し時間をください。調整がまだなんです」
ざわざわと声が飛び交う、しかし誰も手を止めない。
(もうすぐだ!)
ユスフ自身テンションが上がっている。これほどの胸の高揚は久々だ。これほど嬉しいことがるのかと思った。
「よし完了した。皆はどうだ?いけそうか?」
ユスフは全員に問いかける。
「ええ後50分ほど…、いえ30分ほど時間をいただけたら大丈夫です」
その問いかけに一人答えると、ユスフは満足してか「よし」と答えて了承した。
それからはさらに加速したかのように皆が動いた。そしてその準備は5分ほど早い25分で完了した。
その隠れ家で最も広い場所の中央にニコの亡骸は置かれていた。その周りには見たことのない機材が多く置かれている。
「それでは始めよう」
ユスフがそう言うと一人の研究員がレバーを引く、するとニコにつけられた人工の心臓に大量の粒子のようなものが流れていく。これは魔力だ。魔力にも生命に近いものがある。その生命力といっていいかわからないが、それを心臓に流し込み再び血液を巡らせる。そして同時に脳にも魔力を注ぐ、こちらの方が重要かもしれない、いくら血液が巡回しようと脳が死んでいてはそれは脳死状態である。だから脳を生き返らせるこれが最大の問題であった。しかし脳というのは冷凍されることで記憶は保持できることはわかっている。ならばあとはその動く燃料をどうするかだが、そこは技術と魔法の融合だ。人工的な疑似脳細胞に無理やり魔力注入することで限りなく自然の脳細胞に近ずけてそれを移植したのだ。無論それを行うことが難しかったのだが、道化に与えられた知識によってそれがクリアできたのだ。
「成功してくれ」
誰もがそう願っている、ユスフは恋人と再び生きるために、ほかの研究者は自身の知的好奇心のためにだ。
皆がその新たな歴史の目撃者になることを望みながらじっと見つめている中、ニコは静かに目を開けたのだ。
ドッと歓喜の声が湧き上がる。「やったぞ!」や「成功だ」、「俺たちは今最高の瞬間に立ち会ったのだ」などという声が聞こえる。それは無理もないことであった。なんせ死者の復活というのはそれほど難しいものであったのだから。
「おお……ニコ……」
目に涙を浮かべながらユスフは彼女に近づく。
「俺が君に誤って魔法を打ち込んだせいで、このようなことになってしまった。本当にすまなかった……、生き返ってくれてありがとう……」
彼女を抱きしめながらそう懺悔と感謝の言葉を送る。
「ユスフ……」
彼女もはじめはなぜ自分に魔法を放ったのわからなかったが、少なくとも意図的にしたということではないのはわかっていた、だからこれ以上彼を責める気などなかった。だから彼女は優しく抱きしめてこう言うのだ。
「気にしないで、ただもう一度こうしてユスフと抱きしめることができるだけでも私は幸せなのだから……」
……ここまでで終わっていたら感動的なシーンだったであろう。
何人もの足音が聞こえる。そこには三人ほどの竜人がいた。
「ユスフ研究所長、アーノルド事務次官がお呼びだ」
「……」
その言葉で現実に戻されるユスフ、思わず手に力が入る。このまま行けばきっとよろしくないことが起こる。そんなもの考えればわかるものであった。
「わかった。今行こう」
ユスフはそう答えざるを得なかった。
「待って私も……」
そう言うニコの前に残り二人の竜人が立ちふさがる。
「あなたは少し休んだ方がよろしいと思います。我々が案内しますのでどうかごゆっくりと」
「……ユスフが何処かに連れられていきそうな時に呑気にゆっくりできるとでも?」
ブワッとあたりに一瞬衝撃が走る。魔力によるものだろう。しかし……
「なんという魔力!これほどのものを身につけられるとは!」
その秘めた魔力は通常では考えられないほどのものであった。普通魔力を放出しても衝撃波なんというものは発生しない。それが発生するという事実に前にいた二人、いやユスフを連れて行く竜人含めて身構えた。
「放しなさい。……殺しますよ?」
竜人たちは背筋が凍った。正直なところ戦って勝てる自信もなかった。
「そうもいきません」
しかし彼らもここで引き下がるわけにはいかない。
「こちらにはユスフがいる。彼女も迂闊に手は出せない」
小声で二人にそう言う。二人も確かにその通りだと納得する。
「そう思いますか?」
ドンッ!!
まさに一瞬であった。ニコは右手を三人の竜人にかざしただけであった。それだけで三人は頭以外の全てが凍りつくこととなった。
「なんということだ!いつ魔法を行使したのだ」
魔法を使用するには唱える必要がある。それにより魔力を集中するからだ。唱えることなく魔法を使用するとなると相当鍛錬が必要だ。それでも下位魔法ぐらいしか無理だ。しかし今使った魔法は明らかに上位。とてもそれをやってのける者なんていなかった。そのことに彼ら、いやこの場の全員が恐怖した。
「本当はこのまま完全に凍らせても良かったけど、後味悪いからしなかったの。もしこれ以上邪魔したら……わかっているわね?」
頷くこともできなかった。しかし目はしっかりと返事をしていた。だからにこもそれ以上何も言わずユスフに近寄った。
「さあ、逃げましょう」
そういいニコは手を差し伸べた。
「ああ、そうだな。行こうか」
ユスフは先ほどの光景を見ても別になんとも思わなかったのか迷うことなく手を取った。別に結末をわかっていたとかではない。ニコの凄まじい力には驚いたが、別にユスフに危害が及ぶわけではないし、それに被害にあった連中らは正直どうでも良かった。ユスフは自身の彼女が壮大な力を持ったからといって恐怖するほどの人間ではないと、自分ながら思っていたのだ。
そしてユスフはニコの手をとった。
「それは困るな」
ただ一言そう呟くのが聞こえた。それは入口方面から聞こえた。ニコとユスフはその声の主の方に目をやる。すると奥から、カツカツと足音を立てながらゆっくりと近づいてきて、そのシルエットが浮かび上がってきた。
「あんたは……」
そうユスフは言う。彼はこの男のことを何処かで知っている。それがどこだったのかすぐには出てこなかった、しかしその解にたどり着いた。
「アーノルド事務次官……」
そうこの男こそ今回ユスフたちがこのような目にあった、道化と並ぶ元凶であった。
「あなたが!」
ユスフがアーノルドのことを認識したことによりニコも認識することができた。そして今までの怒りをぶつけることとなる。
「あなたはここで死になさい!」
そうニコは叫びながら右手をかざす。先ほどの竜人とは違う。本気で殺しにかかる。彼は生きていていい人間ではない、そうニコは本気で思っていたのだ。
「はいはいダメだよ〜、ニコちゃん」
ゴンッ!!
ニコは地面にへばりつくこととなる。
「ダブルグラビテーション?」
ニコに使用されたであろう魔法を思わず述べるユスフ。しかしすぐに我に帰り、視線を戻す。そこには道化がいた。
「どうやら成功したみたいだね。ニコちゃんすごい力を持ったじゃないか」
まるで自分のことであるかのように満足そうな顔をする道化。
「……ふ、ざけるな!」
ニコは魔法を行使しようとする。
「おっと!」
しかし道化は魔法をさらに強め、その行動を阻止する。
「あああー!!」
「全く人から与えられた力で粋がるのは良くないよ?それじゃあ痛い目を見るものだ。今みたいにね」
ダブルグラビテーションこれに限らず魔法は行使する側と行使される側によって影響がことなる。例えば、行使される側が魔法の行使がうまかったり、そもそもの魔力量が多い場合、立ったり、抜け出すなど魔法を破ることも可能なのだ。そのため同じ実力同士であれば行使する側は全力で取り組まないと抜け出される可能性もあるわけだ。しかし今回は道化はかなり余裕が見受けられる、とても全力を出しているとは思えない。対しニコは全力で抜け出そうとするもそれが叶わない。二人の差は少なくとも魔法という点において歴然であった。ニコが一瞬で竜人三人を氷漬けにできたとしてもこの差なのだ。
「ありがとう、道化。やはり君がいると心強い」
ちらりとニコを見ながらそう言うアーノルド。
「お礼は大丈夫さ。それより本題に早く入るといい」
「そうだな」
アーノルドは道化の提案を受け入れ、ユスフの方を見る。
「それではユスフ君、君は私についてきてくれたまえ。大丈夫別にニコ君を殺したりはしないから安心してくれ」
「……わかりました」
そう答えるしかなかった。もう脱出は不可能と悟ったユスフはおとなしくついていくことにした。
「……ユ、ユスフ」
そう絞るように声をかけるニコ。ユスフは彼女の方に少しばかり目をやるが、なんと声をかけるべきかもわからなかったため、それ以上は何もせずアーノルドへ着いて行った。
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