隠れ家
ストックが無いためかなり辛い…
ガント人民共和国 その領地にある大きな山。ガント・メンルンツェ 標高は7181mと高く、登山家の間では人気の場所でもある。毎年何百人といった人間がその頂上を目指すのだから。
その山のおよそ3500m程の地点、そしてさらに登山ルートから離れた所にユスフの隠れ家があった。それは言うなれば基地と表現した方が適切なのかもしれない。周りに気付かれないように家を建てるのではなく。その山の内部に居住及び研究所を作っているのだから。
ユスフはそこで研究に没頭していた。一人でというわけではない。やはり研究をするには人手が重要だ。そのためにそこではエンジェルの中でも優秀な人間を集め、ユスフを主体に研究を進めていた。
ここでわかる通り、ユスフが主体となっているという点から彼は非常に優秀な者なのだ。本来このような組織に入っていなければ輝かしい将来があったかもしれない。
しかしそのような仮の話をしてもしょうがない。ユスフにはもはやそのような道はないのだから。そんなことよりも今の取り組みに集中する方がユスフにとって大切なのだ。
「ダメだ……ダメだダメだダメだダメだダメだ!!」
しかしどうやら今取り組んでいるものもうまくいっていたいようだ。ここにきて1週間とちょっと、まだそれだけしか経っていないのだから当然かもしれない。すぐに結果だ出るほど研究は甘くない。何十年と費やす人間んもいる。だが、ユスフはあまり時間がない。それはニコだ。いま進めているものこそ死者を蘇らせることだ。もちろん全く前例のないものだ。中には死者を生き返らせるのは倫理的にいかなものかという議論もある。しかしユスフにとってはどうでもいい。ただもう一度にことともにいたいだけなのだから。
チラリとユスフは自身の研究室の隅に、しかし大事に手入れをしている一つ白い箱のようなものを見つめてた。それはにこの亡骸を保管するためのものであった。これにより体内にある血液など新鮮な状態で保てるこの世界の進んだ技術によるものだ。しかしどんなに丁寧に保管しても限度というものがある。言うなれば冷蔵庫に生肉を丁寧に保管することによって消費期限を伸ばしているものだ。そうただ伸ばしている。それは永遠ではない。それがニコの亡骸も同じことが言えるのだ。だからユスフは焦っているのだ。
「一体何がダメなのだ……」
ユスフは一人机で頭をかかえる。もうすでに深夜だ、ほかの従業員は一部を除き就寝している。この頃睡眠もあまり取れていない。睡眠が大切なのはこの世界ではもうすでに常識な話だ。いま自分がやっていることは全くもって愚かなことだとユスフ自身分かっているが、眠れない。全くもって負のサイクルだ。
ツカツカと足音が聞こえる。それはユスフの耳にも届いていた。
(誰だ?)
まだ起きている従業員の線が一番濃厚だ。しかしこの時間に報告をすることはない。当然何か重大な発見があればありえるかもしれないが、それならそれでこの部屋まで飛んでくる。しかしいま聞こえるのはとても落ち着いたものだ。だからこそユスフは疑問に感じたのだ。
「随分と困っているのかい?ユスフ君?」
ーーーそこにいたのは自分とニコをこのような状況に追い込めた道化であった。
「……」
ユスフは無言で道化を睨みつけた。それしかできなかったのである。本当はすぐにでも殺してやりたいが、それが不可能だということはとっくに理解していた。
「なんだい、数週間ぶりの挨拶ははしかい?…まぁいいさ」
ユスフがただ道化を睨むだけであったのが、気に食わなかったのだろう。少し不機嫌な顔をしてさらにユスフに近づいた。
「貴様がいったい何の用だ。第一ココが何故わかった?」
ようやくユスフは口を開けた。
「別にこの場所を探し当てることぐらいすぐできるさ。本当にすぐにね」
いうまでもないがこの場所は極秘事項だ。なんせ現在テロリストの主犯として名が上がっているユスフの他にもエンジェルの研究員が何人もいる。そのような場所を他の人間が簡単位わかるようにするわけがない。国会議員ですら知らないものが多数なのだ。それを知っているということは少なくとも軍事省または魔法省の上位にいる官僚とつながっていると考えるべきだ。
(しかしよくよく考えてみればこいつはアーノルドやオイゲネと繋がっていたな……)
考えてみればとても容易に出てきた回答だった。それなのに、それすら思い浮かべる余裕がなかった自分が情けなく、自虐的に笑った。
「君は本来死ぬはずであった。しかし君は生き残った。オイゲネが君はまだ利用できると判断してね。実際君は素晴らしい優秀な人間だということはわかっていたが、よかったじゃないか上の連中らにもそれを示せたようだ」
心から祝福するように(実際はそんな気は一切ないのだろうが)ユスフに対してお祝いを送った。
「ありがとう。それで用件を早く言ってくれないか?」
ユスフは正直言ってイラつきを覚える言葉を聞き流し話を進めるよう促した。それはどうせ他に目的があることはわかっているからだ。その前にこの道化が何かと人の気に触ることを言うこともユスフはとっくに理解している。
「何、用件は君のお祝いだよ。これは本当だ。そしてこれがプレゼントだ!」
そう言いながら、道化はユスフの頭に右手を置いた。
「ウッ!!」
頭に激痛が走る。脳が小さいが鋭利な槍で刺され押し込まれているような感覚だ。それゆえ悲鳴をあげるのは仕方のないことであった。
その痛みは数秒で終わった。痛みは驚くほど早くひいた。それと同時にユスフは再び道化を睨みつけた。
「そのまま今回の死体蘇生について考えてごらん?」
何をするんだ!と言う文句を言ったやろうとした矢先奇妙なことを言われ、思わずキョトンとしてしまったが、無意識というのか、考えてみろなど相手によってそのものについて意識を向けられると人間というのはどうしてもそれに注意を向けてしまう。それはユスフもだ。ゆえにユスフは先ほどから頭を抱えさせられていた問題を考えることとなる。
(なんだ?何なのだこれは!先ほどまで全くわからないものだとても鮮明に解が出てくるじゃないか!頭の中で答えが出ているようだ)
全く不思議な感覚であったために戸惑いを隠せなかった。
「一体何をしたのだ?」
ユスフは聞かずにはいられなかった。
「君に知識を与えた、僕の知識を。全部とはいかないが、今回の死体の蘇生についての知識ぐらいならあげてもいいかなと考えてね。本当はするつもりじゃないけど、君には色々してもらったしお礼も兼ねてね」
ユスフ自身道化に何かしてあげたというよりは一方的にやらされたといいう方が正しいのだが、今はそんなことはどうでもよかった。これでニコは生き返る。ただその事実に酔いしれていた。
「これで、これで!ニコは!」
数週間後、いやそんなに時間は要らない。10日ほどだ。それで完成できる今から寝ているやつらを叩き起こして作業に取り掛かろう。もはや答えはあるのだ。だから今までのような思考力なんて必要ない。気力と既存の知識さえあれば、完成できる。時間はないさあ早く取りかかろう。
「……ありゃ、これは聞こえていないか」
ユスフは大慌てで部屋を出て他の研究者を起こしに行った。
「まあいいさ、そのまま喜んでたらいいさ。どうせ後々大変なのだから」
ユスフはとっくに部屋を出ているだからこれは道化の独り言であった。別に道化とて誰かに聞かせようとしたものではないため一向に構わなかった。
「さて僕は帰るとするか。用事も終わったし、こんな部屋にいると後々気が狂うかもしれないしね」
などと冗談じみたことを言いながらそのまま姿を消したのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます
この章はもう少し続きます。思ったより長引いてしまった…
感想等お待ちしてます。




