ユスフ
更新遅れて申し訳ありません。
ユスフの放った電気の槍によってマクドナルドは心臓を貫かれて、死んでいるはずだった――
「…ユ、ユスフなんで…」
しかし心臓を貫かれたのはニコであった。
「あ、あ。」
なぜだとかそんなことを考える冷静さを一気に失わせるほどの出来事。考えられる限りユスフにとって最悪の出来事だった。
「ああああああああああああああああーー!!!」
ユスフは膝をつきながら叫ぶ、叫ばずにはいられなかった。
(なぜ俺は!俺は!ニコを!)
最も護りたいもの、最愛の人を彼は自らの手で壊してしまったのだ。
ツーッと頰に涙が溢れる。
「ユスフ貴様!貴様が裏切り者だったか!」
マクドネルは頭に血が上っているのだろう。声を荒げてユスフを怒鳴る。しかしユスフはそんなマクドネルに気づかない。
「この恥知らずめ、死ね!」
そう言いながら拳銃を構えるマクドネル。しかしーーー
ドサッとその場で倒れこんでしまった。
「ダメダメダメダメ。ダメだよマクドネル彼を殺しちゃ。君も彼もまだ死なれては困る。そこの彼女はいいけど……」
そこには帰ったはずの道化がいた。
「何をした?俺に何をした!」
道化に掴みかかるほどの勢いで道化に詰めかかる。
「ああ、ちょいと魔法を使ったのだ。“コーディネート・エクスチェンジ”という魔法だ。二つの座標を交換する魔法だ。それでニコちゃんとマクドネルくんの位置を交換したのだ」
悪びれもなくそういう道化。
「!!」
ドンッ!!!
ユスフはサンダーオブスピアを放つ。
しかしーー
「効かない、効かない」
魔法は道化に到達する前にかき消えてしまった。
「……なぜこんなことをした?」
うなだれながらユスフは問いかける。
「君がマクドネルを殺そうとしたからだよ。彼には死んでもらっては困る。知っているかい?彼はガント人民共和国軍事省アーノルドの子供なんだ。とても役に立つ」
道化は不気味に笑いながら、そう言う。
「なら俺はもういらないと言うことか?ならさっさと殺せよ……、もうこの世にニコはいないのだからな」
自暴自棄になったのかユスフはそう言う。
「ああ、死ねばいい。リーベ王国でな。……今回のリーダーとして」
「は?」
わけがわからなかった、今回のリーダーはマクドネルなのだ。決してユスフではなかったから。
「わからないのかい?つまりーー」
道化は目の前の問題に必死に悩んでいる生徒に教える教師のごとく優しく言う。
「マクドネルがリーダーとして捕まると殺される可能性があるから。君が身代わりになって死ねと言っているのだよ」
「ふざけるな!なぜ僕が!それにマクドネルがリーダーであったことなど調べればすぐだ。僕ではないとすぐにわかる。俺はただ無理矢理付き合わせられただけだからな!」
「彼が操られていたとしたら?」
「何?」
困惑するユスフをよそに得意げな顔で話し始める。
「僕はガント人民共和国でも顔が広いのさ。だからマクドネルと接触する機会もあった。だからその時ちょいと彼の精神をコントロールするように仕掛けたのさ」
何事もないかのように道化が言うが、それは立派な国際的にもアウトなものだ。いまこの世の中は人権を配慮しなければならない。その観点から行くと人およびその他の種族何にもその人の意思を操ると言うのは容認できるものではないからだ。
「マクドネル、彼は先ほども言ったけどアーノルドという男の息子だ。そして大の戦争好きな男だ。更に加えれば彼はリーベ王国を嫌っている。そんな奴の息子がリーベ王国に捕らえられたらどうするだろうね?」
しかしそのことを機にすることもなく、おしゃべりが楽しいのかだんだんと口調が軽くなる道化。その調子でさらに話を続ける。
「奴はリーベ王国とやりあってもいいと考えているのだ。そこで僕はそれをやりやすくなるようにしてやったのさ。それは彼の息子マクドネルを操ること」
「それがどうつながって戦争となるってか?できるわけないだろ。なんせそれではガント側が悪者だ。国際的にも非難されるにきまっているだろ」
「だから君に罪をかぶってもらうのだろう?」
何を言っているのかわからないような顔をして、道化は残酷なことをいう。
「リーベ王国側の君が、マクドネルを魔法を行使することで精神的に支配した。それはガント人民共和国側だけでなく国際的にも知れ渡る。非難されるのはリーベ王国側だよ。いつの時代でも、その国籍を有するものが問題を起こすと国ぐるみの話になることもあるのだよ。もともとそのつもりで君達を助けたのだ」
「そんなことのためにか?」
「じゃなきゃわざわざ君達一般人を助けないだろ?君みたいなそこそこ優秀でかつ有名人でない方がこういうのにはいいんだよ。なんせ有名人じゃ、周りが勘付くからね。その点君達はいい。とてもやりやすい」
それはまるで買った物がどれほど良いものか紹介しているようだった。ユスフ達は道化にとってその程度のものだったのだ。
「それに向こうも君が今回の首謀者だと考えているよ。なにせそのように情報を流したわけだし。マクドネルが操られているのがわかっても、誰によって操られたのかは、間接的な証拠によってしかわからない。その中で最も首謀者である確率が高いのは君だしね」
実に愉快なことなのか道化はくるくる回りながら喋る。
「それでも戦争ということにはならないだろうが!」
ユスフは当然の反論を提起する。今の世の中、戦争だと一言言えば始まるようなものではない。それをすれば国際的に非難は免れない。それは周りの国を敵に回すと言う自殺行為に等しいものだ。だから戦争するには大義名分がいる。また他の国を味方にする必要がある。今回のでは戦争するにはあまりに理由が弱すぎる。
「そりゃそうだ。というかいきなり戦争させようとするならもっと大規模なことをやるに決まっているじゃないか。今回は戦争の小さな火種を作る目的にしか過ぎないんだよ」
やれやれといった表情をして、わざとらしい仕草をする道化。
「そんなくだらない事の為に俺にこのまま黙ってつかまれということか?ふざけるな!なんだって俺がこんな目に合わなくちゃならないだ!俺はただ普通にニコと過ごそしたかっただけなのに!尤もお前にこんな気持ちはわからないだろうがな!」
どんどんと拳を地面に叩きつけながら、ユスフは道化に怒りをぶつける。目は涙を流しながらも鋭く睨みつけている。
「……何か誤解しているようだけど」
そう前置きを行った上で道化は、遠くを見るような目で続ける。
「僕も裏切られたりして心が憎悪に支配される辛さは知っている。裏切られた時裏切られたものが信頼をおいていればいるほど絶望することもよく知っている。自分の都合で残酷なことをされる辛さもよく知っている」
突如として道化は先ほどの不気味さがなくなり、嘆いているように捉えることもできる。
「でもねーー」
道化は再びニヤリとした顔で不気味な雰囲気を纏い、
「わかっているからこそ僕は、それで苦しんでいる人を見るのが楽しくて楽しくてたまらないんだよ」
「……」
(こいつに何を言っても通じない)
もはや道化に人としての道義などといても無意味だと悟らされるほどのことであった。
「だが、俺はあんたの言う通りに捕まるのはごめんだね!何が何でも逃げてやる!」
ユスフはありったけの勇気を振り絞りニコを抱え、部屋の脇にある小さなドアに向かった。
「ご自由にどうぞ。捕まってくれるの方がありがたいけど、逃げ切れたら逃げ切れたで面白そうだから全然構わないよ。それにどっちみ同じ気もするしね。でも早くしないとそろそろここにリーベ王国の人間がくるよ。まぁ頑張りな」
言いたいことを言えたのか道化は満足そうな顔をして“ゲート”を使い姿を消したが、ユスフはそれを確認などしている余裕もなかった。
「絶対に逃げ切ってやる!その為には…」
あまり逃げるための猶予はほとんどない。その短い時間で逃げる方法を考えた上で、行動する。かなり難易度の高い話だ。しかし諦めるという選択肢はなかった。
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