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オレが幼女で異世界にオンライフ  作者: (慎)マゴコロ
第二章:イエージサキリス聖皇国
8/15

本当の第一歩

幼女は出荷よー(´・ω・`)

 青々と茂る草原に2つの大きなくぼみができる。

 それはオレ達<空の花園>が本当の意味で、この世界に踏み入れた第一歩の証だった。


「頭領、どうやら近くに驚異となりうるモンはありゃせんようじゃのう」

「こっちのレーダーでも驚異対象がいないのを確認した。それじゃ火影、<ラグナロク>から離れてコイツの<ステルスハイド>を解除してくれるか?」

「御意」


 オレの合図と共に<影忍者>達が離れると、静かな平原に不似合いの圧倒的な存在感を持った<ラグナロク>の巨体が姿を現す。

 その腹部が開いて密閉空間だった内部に新鮮な空気が流れ、それに誘われるようにオレは外に身をさらけ出して思わず深呼吸をした。


「……気持ちがいいな」

「はいっ!」

「お天気もよろしいことですし、洗濯物がよく乾きそうですね」

「綺麗な青空だナー」

「雲もほとんどないネー」

「こんなに広いと大声で歌いたくなるのだーっ!」

「お昼寝…日和……やなぁ…………」

「ふぇ…フェイルさん、まだ何があるのかわからないのに、こんなところで寝たら危ないと思います……」


 オレのちょっとした一言を皮切りに、<メイドインセヴン>達がそれぞれの感想が口から漏れでる。

 リューナはこの天気に負けないような元気な声で返事をし、マリアは淡々と天気について述べ、ニコラスとフラメルは綺麗な青空に心を踊らせ、ディーヴァは広がる草原に興奮し、フェイルは心地よい暖かさに眠気を誘われ、エムエスはそんなフェイルを心配していた。


「それにしても、ここまで全く脅威になりえそうな存在を発見できないとは思わなかったな」

「ですねー。ドラゴンどころかワイバーンすら飛んでませんでしたし」

「見受けられたのは無害そうな小鳥ばかりでした」

「そうそう、つまんなかったよナー」

「うんうん、退屈だったよネー」

「こんなことだったらダイナミックに降下ライブでもすればよかったのだ~」

「で…でもそんなことして、もし本当に危ないのがやってきたら……」

「そうなったら…うちが……本気だ………す…………すーっ……すーっ……」

「「「寝るなフェイルぅーっ!」」」


 そう、オレ達は未知の地上に警戒して、手持ちのギガントゴーレムで最強の攻撃力と防御力を兼ね揃えた<ラグナロク>を使い、もし予想外な総攻撃を受けてもできるだけ被害を減らそうと可能な限り少数のメンバーで来たのだ。

 しかし、運が良かったのかオレ達が警戒しすぎただけなのか、これといった驚異になりえそうな存在と一切(いっさい)会うことなく地上まであっさり到着できてしまったので、オレを含めてほとんどのメンバーが拍子抜けしてしまっている。


(聞こえますかな頭領?)

「うおっ!?」

「……っ! みんな、戦闘態勢やッ!!」

「あっ、いや…火影からの<テレパシー>だ。悪いフェイル……」

「……ふて寝させてもらうわ」


 とつぜん火影からオレへ<テレパシー>が届いたことに驚いて思わず声をあげてしまい、フェイルに余計な気遣いをさせてしまったせいで、彼女は機嫌を損ねてフワフワな草原のベッドの上で本格的に寝る態勢になってしまう。

 この<テレパシー>とかいうスキル、1対1だと他のメンバーとの意思疎通が面倒だし、着信音みたいなのがほとんどなくて言葉がいきなり届くから驚きやすいし、どうにかならないもんかとオレが思っていると、マリアから例の口調で優しくオレに<テレパシー>が届いた。


(アリスちゃん、みんなのMP(マナ)の周波数を合わせたらどうかしら? あっ、ちなみにギルド用の周波数もあるから気をつけて決めてね)

(そんなのあるんだ! ありがとママっ!!)

(どういたしまして)


 ……身体は元気いっぱいなのに、心は筋肉痛になったようにボロボロだ。

 だって年下に母親を求めてるんだぞ。中身のオレは40代のオッサンなんだぞ。アリスホイップ自身の年齢を考えてもマリアは年下なんだぞ。後ろめたさで心が押しつぶされるわっ!


「みんな、今更だけど周波数を合わせるぞ。もちろん<影忍者>達もな」

「「「はっ!」」」

「「「御意!」」」


 さっそくマリアに教えてもらったMP(マナ)の周波数をみんなで合わせてみると、オレはこれが<ファンタジーテールオンライン>のパーティを組んでパーティチャットを使ってる感覚そのものだということに気付く。

 プレイヤーとしてのオレの感覚と、ゲームキャラとしてのアリスホイップの感覚が、歯車のようにガッチリと噛み合ったというか、歌声と楽器のハーモニーが生まれたような、言葉では言い表しきれない感覚の一致を確かに感じ取ったのだ。

 ひょっとするとこれは、現時点でオレの最大の弱点である「身体に意識を持って行かないとスキルが使えない問題」を解決するための糸口になるかもしれない。

 そうこう考えていると、周波数を合わせてくれた火影から先ほど言いそびれたであろう提案がオレに伝えられる。


(それでは頭領、我らは御身の周囲に散らばり身を潜めながら移動するので、移動はできればゆっくりな徒歩にしてくださらんかの?)


 そうか、<スニーキング>系の隠密移動に関するスキルってたしか動物や騎乗用ゴーレムに乗っても移動速度が遅くなるんだったな。


(わかった、頼りにしてるぞ火影)

(ありがたき言葉に感謝を……)

(ははっ、火影はオーバーだなぁ。今の言葉のどこにありがたみがあるんだか)

(我らを作りたもうた主が姿を見せなくなって久しい。そんな我らに、主の長たる頭領から頼りにしてくださるそのお言葉は、何物にも代えがたい素晴らしき物なのでございますじゃ)

(……そっか)

(左様でございますじゃ)


 火影達のような引退プレイヤーのNPCにとっては、主人からの言葉さえもご褒美になってしまうのか。

 引退プレイヤー側には現実という決して切ることが出来ない事情があるとはいえ、彼らからしてみればある日突然捨てられてしまったのも同然なんだから、こうなってしまうのも無理ない話……か。


 ……マズイな、またNPC達に犬耳と尻尾が生えてるような幻覚が見えてきた。

 今はとりあえず、気を紛らわすためにも足を動かした方がいいな。


「よし、それじゃあ出発だっ!」

「ところで、このギガントゴーレムはいかがなさいますか?」


 いざ動かした足を、マリアのまじめな低い声に止められてしまう。

 このあと、カンナに<エゴス:転移(ワープ)>で来てもらい、そのまま彼にラグナロクのパイロットとしてジェネラル将軍の<黒鋼軍>と共に遠距離攻撃部隊に加わってもらうよう指示したのだった。



 * * * *



「モンスター出てこないナー」

「動物すらいないネー」


 出発したときは地平線の彼方にあった太陽が、今では俺たちの真上を照らしていた。

 結構歩いたはずなのに人どころかモンスターや動物すら姿を現さず、退屈すぎてニコラス達が不満を漏らし始める始末だ。


「い…いくらトラブルを避けるために、いくつかあった巨大な街から可能な限り離れて降りたとはいえ、ここまで静かだと逆に不気味ですね……」

「だから降下ライブをするべきだったのだ~!」

「もう、ディーヴァは極端すぎますよ」


 リューナの言う通り極端なディーヴァの意見はともかく、エムエスの意見はもっともだ。

 確かにこの静けさ、怪しすぎて罠があるように思えてしまう。


(こちら側でも動物やモンスターの影は確認できません)


 火影の方も同様だという報告が<テレパシー>を通して伝わり、オレ達は余計に悩みこんでしまった。

 そんなオレ達に、ディーヴァに背負われて寝ていたフェイルの口から小さな声が漏れる。


「…………戦闘力……スキルランクのせいやあらへん?」

「それかっ!」


 <ファンタジーテールオンライン>には<戦闘力>という隠しパラメーターが存在する。

 <戦闘力>はキャラクターのステータスから算出され、そのステータスは各スキルのランクアップによって上げられるシステムだ。

 これの詳細な数値はプレイヤーには不明だが、使用キャラと比較して下から<ウィーク級>、<フェア級>、<ストロング級>、<アメイジング級>、<アーフル級>、<フィールス級>、<トゥメンドス級>、<アルティメット級>等々といった具合に相手のある程度の強さを認識できる機能が用意されていて、戦闘系スキルのランクアップの条件のほとんどに自分より一定以上の戦闘力を持った敵を倒すことが含まれている。

 そのため、戦闘力を下げるためにスキルのランクの大半を0である<未取得>まで下げて、限られたスキルと強さでランクアップ条件を埋めながらの戦闘が良くあった。

 もしこの世界の動物やモンスターにも戦闘力を測る機能やスキルを持っていたとしたら、スキルランクを最大まで上げているオレ達から警戒して姿を現さないのは当然だ。


「それじゃあ試しに、オレから戦闘力を下げてみるわ」


 ――何も考えず、身体に意識を持っていく。


 肉体から力が失われていく感覚がどんどん強くなるのに連れて、五感の全てが敏感になっていく。

 日の眩しさ、風の音、草花の香り、服の重さ、そしてリューナ達<メイドインセヴン>が持つ驚異的な力……周りの環境がオレの身体に次々と刺激を与えてきた。

 しかし、肝心なオレ自身の戦闘力が本当に下がったのかよくわからなかったので、マリアに確認を取ることにした。


「……どうだ?」

「ええ、問題なく戦闘力が下がっております」

「じゃあディーヴァさん達もやるのだーっ!」


 ディーヴァを皮切りに<メイドインセヴン>から放たれていた強力な力が徐々に引いてゆき、なんとなくではあるがオレと同程度の力を持っているように感じ取れたことで、その<感覚>が戦闘力を測る機能と同等の感覚だったという、先ほどのMP(マナ)の周波数合わせの時と同じ歯車的な確信も得られた。

 無事にみんなの戦闘力が下がったことに一安心したオレの元へ、エムエスが不安そうに近寄って話しかけてくる。


「え…えっと、どうでしょうかお嬢様……?」

「なにが?」

「えと…その……せ、戦闘力…………」


 ああ、自分の戦闘力がわからないのは<ファンタジーテールオンライン>と同じでみんなわからないのか。

 オレはエムエスに「大丈夫だ、良くできてるぞ」と言って彼女を安心させ、再び足を動かし始めたのだった。


「お嬢様、見てみるのナー!」

「お嬢様、動物だネー!」

「おおっ、本当に動物がいるじゃないか!」


 しばらく進むと、動物たちの姿がチラホラ見え始め、先ほどの殺風景だった平原に活気を感じ取れるようになってきた。

 ということは、さっきまで動物たちがいなかったのは本当に戦闘力のせいだったという事か。

 これは動物たちに悪いことをしたな……。


「お嬢様、あの森の木陰で少し休憩いたしませんか?」

「ですねー、お昼もまだですし」

「……お腹…すいた」

「「「フェイルはずっと寝てたでしょうがーっ!!」」」


 マリアとリューナの提案で、オレ達は見えてきた森林に入って昼食を取ることにした。

 手のひらから料理が入っているであろうカードを3枚ほど取り出したマリアは、それを重ねて<フードバイキング>のスキルを発動し、<ファンタジーテールオンライン>の物とほとんど同じ見た目のオブジェクトが目の前に現れる。


「お待たせいたしました。本日のメニューは前菜にバジルソースとレタスのカナッペ、メインディッシュはアマトリチャーナ、スープはヴィシソワーズとなります」

「うん、名前だけだと全然わからんっ!」

「……薄いパンにレタス乗せた前菜、豚肉を乗せたトマトソースパスタ、ジャガイモのポタージュって言えばええやん」

「フェイルいいこと言うナー」

「マリアの呼び方だとわかんないよネー」

「おや、お嬢様方4人はいらないようですね……?」

「「「「いっ…いるいるーっ!!」」」」


 <空の花園>では1人で食べることがほとんどだったけど、こうしてみんなで同じ料理を食べるのってすごく楽しくていいな。

 今度からはみんなで食事ができるように、あとでマリア達に頼んでおこうかな。


「「「ごちそうさまでしたーっ!」」」

「お粗末さまでした」


 ――ガサガサッ


「……! 今度こそは敵襲やなっ!?」


 とつぜん料理を食べ終わったオレ達のすぐ後ろの茂みが揺れ、フェイルが颯爽と弓を取り出して戦闘態勢に入る。


「……ほほぅ」


 茂みから現れたのは、ご立派な白い鎧を着た人間(ヒューマン)族の兵士たちだった。

 フェイルはガッカリして弓をしまい、すぐそばにあった木に背中を預けて寝る態勢に入ってしまう。

 オレとしても、ようやく出会えたこの世界の第一住民だったので、何も警戒せずに「あっ、こんちゃ」と軽く挨拶すると、兵士たちの隊長らしき男が剣を抜いてこちらに向けてきた。


「ふははっ、やはりまだ異端者共の残りがいたか! お前ら、この女共も捕まえろッ!!」

「はっ!!」


「「「……はい?」」」



 * * * *



 ――ガタゴトンッ ガタゴトンッ


 オレは先ほど突然現れた兵士たちに大人しく捕まって馬車に揺られいた。

 なぜオレが火影に援護されず、何も抵抗せずに捕まっているのかというと、これはジェネラル将軍からのとっさの作戦をオレが受け入れたからだ。


(申し訳ありません総統閣下、そして私の提案に賛同してくださり、まことに感謝します……)

(大丈夫だ、コイツらから感じ取れるあの程度の力だったら、このまま縄に縛られていても簡単に逃げ出せる自信あるわ)

(ははっ、さすが閣下ですな。まことに頼もしい限りです)

(いやいや、お前らほどじゃねーよ……)


 ジェネラル将軍が言う「提案」というのは、あえてこの世界の公的機関に捕まり、この世界の情勢についての情報を抜き取るということだった。

 いきなりの事だったので、オレより先にこの提案を聞いた火影は予想通りこれまで以上の憤慨と反対の意思を示し、カンナとガングニールが必死に説得したことで渋々ながら承知してくれたらしい。

 けど、情報収集なんてどうやったらいいんだ?


「悪いなお嬢ちゃん達、こんなことに巻き込んでしまって……」


 馬車に同席していたオレの正面にいる囚人の男が、困惑してるオレ達にわざわざ話しかけてきてくれた。

 その男の隣にいた別の囚人が彼に向って唾を飛ばすように愚痴をこぼす。


「ふん、<レジスタンス>め……。お前らさえいなければ、俺はあの国境を抜けられていたってのによォ」

「ほう…レジスタンスでもないのに国境破りなんてしてるってことは、さてはお前さんこの国で相当やらかしたな?」

「……ふんっ」

「レジスタンスって……?」

「ああ、<イエージサキリス聖皇国>の亜人達への異常な迫害行為に対して、俺達はレジスタンスとして抵抗運動を行っているんだ」

「亜…人……?」

「はぁ……人間(ヒューマン)以外の種族の事だよ。こいつらみたいな異端者のおかげで同じ人間(ヒューマン)である俺やお前までこの始末だ。まぁこんなガキじゃ言ってもわかんねーか」

「おいおい、このお嬢ちゃん達はお前さんとは違うだろう」

「ケッ、どうだかな? だいたいこんな豪華なヒラヒラした服を着たヤツらがこんなところを――」


 2人の囚人達が勝手に話を続けつつ、オレの些細な問いかけにもちゃんと答えてくれるので、情報を集めたいオレとしては正直助かった。

 ただ、オレ達のことはともかく、先行して砦に情報を集めに行った<影忍者>達の方は大丈夫だろうか?

 オレ達みたいに見つかって簡単に捕まるようなヤツらじゃないってくらいには信頼してるけど、やっぱり心配だな。


「けどリューナ、人間(ヒューマン)以外を迫害っていうのは、かなりマズイ話だよなぁ……」

「あはは…そうですね……」


 <ファンタジーテールオンライン>でプレイヤーをサポートするNPCだけでなく、実はプレイヤーすら正確には人間(ヒューマン)族ではない。

 メインストーリークエストに登場する神々がプレイヤーに時折「別の星から来た者」や「この星とは異なる存在」といった伏線をかなり序盤から言っていて、その正体が宇宙を探査するAIを積んだ超大型宇宙船<ソレスタルビーイング>より生み出された対異星生命体対話用生体端末<スターゲイザー>だったという設定がかなり終盤で判明する。

 そしてプレイヤーをサポートする動物やモンスターといったテイムされたNPCは、プレイヤーの体内にある特殊なナノマシンを注入されて、<プローブ>という存在になっている設定らしい。

 つまり、オレ達<ファンタジーテールオンライン>の存在(キャラクター)は、イエージサキリス聖皇国とやらの迫害対象そのものに当たるワケだ。

 そういえば、まだ<ソレスタルビーイング>に関する機能を確認していなかったな。後で調べておかなくちゃな。


「……見ろよ、もう砦が見えてきやがった」

「あの砦は?」

「聖皇国の兵士がこの近辺を防衛するための砦だな。恐らく、俺の仲間もあそこに捕らえられているだろう」

「ふ~ん……」


 亜人を迫害する国と、それに捕まった抵抗組織か……。

 とりあえず、馬車が砦の門をくぐる前に<テレパシー>を使ってみんなに相談してみるかな。


(カンナ、火影、ジェネラル将軍、ガングニール、相談したいことがある。イエージサキリス聖皇国っていう人間(ヒューマン)族以外は全員敵だと認識してるヤバイ国があって、今オレ達はその国の抵抗組織と一緒につかまって砦の中にいるんだが、どう動けばいいと思う?)


 オレの相談に対して、先に意見を出してくれたのはガングニールだった。


(何も迷う必要はないでしょう陛下。その抵抗組織と手を組んで、迫害されている者達を守ろうではありませんか!)


 ガングニールの騎士道らしい感情的な意見に、ジェネラル将軍がそこから理性的なメリットを挙げてくる。


(私としても彼の意見に賛同します。組織ということは、彼らが拠点とする集落やアジトがあるはず。であれば彼らを救出して恩を売れば、補給基地を建設する土地だけでなく、現地に詳しい諜報員も確保でき、一石二鳥に事が運ぶものと予想できます)

(なるほど。じゃあその線で動いてみるか)


 ガングニールとジェネラル将軍の提案を受け入れたオレに、先行して砦の捜索に向かっていた火影から報告が入る。


(頭領、ワシらは既に砦内部への潜入に無事成功し、あらかた構造は把握できたぞい。(くだん)の者共らしき囚人も確認したが、少々雲行きが怪しくなっとるわい……)

(火影、何が起きてるか詳しく報告してくれないか?)

(砦の兵が囚人共を外に連れ出しておる。そして行き先はどうやら……処刑台のようじゃわい)

「処刑台っ!?」

「お嬢ちゃんいきなりどうしたんだ?」

「あっ、いや…処刑台を見たのが初めてだったもんで…つい……」

「ははっ、お嬢ちゃんだったらきっと無罪放免で釈放されるから大丈夫さ」


 しまった、うっかり口からも声が出てしまった。

 運良く既に砦の門を通り過ぎて、すぐそこに本物の処刑台があったからうまく誤魔化せたけど、また同じことしないように気をつけなきゃな……。

 とりあえず今は、火影との会話に戻ろう。


(なぁ、ひょっとしてこの流れって……)

(このまま頭領方と合流し、まとめて処刑を始める算段じゃろうな)

(それってヤバいんじゃねーのかっ!?)


 ひょっとしてこのまま自分達も処刑されるのではないかとあせるオレに、ジェネラル将軍が冷静な声で提案を出してきてくれた。


(これは全員を救出するのは難しくなりましたな。確実に閣下を守る作戦が4つほど、可能な限り抵抗組織も守る作戦が2つほど思いつきますが閣下、いかがなさいましょう?)

(可能な限りの方限定で!)

(1つ目は<影忍者>が他の者に気付かれぬように兵士を暗殺して無力化する作戦ですが、これは時間がかかってしまうのでその間に処刑されてしまう者が確実に出てしまいます。2つ目はこちらが主導でパニックを起こし、その間に全員バラバラに逃げるという作戦ですが、多少荒事になるので巻き込まれる者が出てしまいます。しかし、全員を救出できる可能性は後者が高めです)

(じゃあ後者だ! 少しでも全員が助かる可能性があるなら後者にしてくれっ!!)

了解(イエス・マム)! さっそく作戦準備に取りかかります。カンナくん、頼みたいことがある。手伝ってくれるかね?)

(もちろんです将軍。お嬢様のためなのであればこのカンナ、よろこんでご協力いたしましょう。)

 

 ジェネラル将軍がトントン拍子に事を運んでくれて、学のないオレには大助かりだけど、みんな優秀すぎて、このままじゃいつか裏切ってきそうで怖いぞ……。


「さぁ異端者共、馬車から降りるんだ!」


 馬車が処刑台の近くで止まり、他の囚人たちが次々と降りて行ったので、オレ達も合わせて馬車から降りる。


「まずはそこの小娘、お前からだっ!」

「えっ? うええっ……?」


 さっきの隊長らしき兵士がオレの目の前にやってくると、いきなりオレの髪の毛を掴んで処刑台へと引っ張り始めた。

 多少なりとも防御力が高いせいか髪を引っ張られる痛みがなかったので、オレは何が起きてるのかわからずにただ呆然としてしまっていた。


 ――あれ、ひょっとして最初に処刑されるの……オレなのか!?

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