4話:オレ達は今どこにいる?
今回登場する新キャラクターの声のイメージは田○ゆ○りさんですヾ(゜ω゜)ノ゛<全力☆全開なの!
いやいや待てオレ、まだこの世界が<ファンタジーテールオンライン>とは全く関係ない世界と決めるのは早すぎる。
そうだ、ひょっとしたらあの雲の壁の向こう側に何かヒントがあるかもしれない。
とりあえず、オレ達を案内してくれた騎士に聞いてみるか。
「あの雲の向こうは、もう確認したのか?」
「いえ、まず上からのご指示を仰ぐべきかと思い、まだ誰も……」
「ああ~、なるほど……」
NPCの立場から考えれば当然、プレイヤーからの命令なしで行動するのはご法度なのだろう。
<ファンタジーテールオンライン>でもNPCの行動は、ゲームで既に設定されていること、もしくはプレイヤーが設定したこと以外はしない。
いや、この場合は「命令されたこと以外できない」と言った方がいいのか?
本来であれば、NPCと比較的に生存率が高いオレが偵察に行きたいところだけど、空を飛ぶ移動スキルである<飛翔>の使い方がわからない。
そして何より、今まで通りスキルが使えないオレのことを知ったときのNPCが怖い。
特にリューナにバレたときが一番怖く思う。
だって、自分が作ったキャラクターに自分を拒絶されるかもしれないんだぞ。
仮にNPC達を自分の子供だとすると、真心込めて育てた娘に「あんたなんて親じゃない!」と言われるようなものだ。
もし言われたら、正直言ってショックで二度と立ち直れないかもしれん……。
後で秘密を打ち明けても大丈夫そうなNPCに相談したいが、今は怪しまれないためにも調査の方を優先するべきか。
「今はせめてギルド基地の周辺だけでもどうなってるのかくらいは、上空から確認しておきたいところだが……」
しかし今のオレは空を飛べないどころかほぼ全てのスキルの使い方がまったくわかってない。
ここは主人としてNPCに指示するべきか?
いや待て、もしその送り出したNPCが行った先で事故にあいにでもしたら、直接指示を出したオレに周囲のNPCから批難を浴びせられるのは確実で、今後NPC達が言うことを聞かないどころか最悪の場合クーデター起こして敵対される恐れもしれない……。
オレがそうこう迷っていると、カンナから軽いスマイルで助言をもらう。
「それでしたら、我がギルドの<エンシェントドラゴン>に乗られるのがよろしいかと」
「<フリージア>のことか?」
「左様です」
そうか、プレイヤーかNPCのどちらかが行くのではなくて、ペアで行けば良かったのか。
こんな簡単にオレが求めていた答えを出すなんて、カンナの執事姿は伊達じゃないんだなぁ。
<エンシェントドラゴン>というのは、<メインストーリークエスト>の<Episode8:Dragon Birth>のクリア報酬として、ギルドに1匹だけ保有が可能なNPCだ。
これも<精霊超兵器>と同じでギルドメンバー全員で育成するというコンテンツだが、素材を与えて成長する精霊超兵器とは違って、エンシェントドラゴンは共に戦闘をすることで成長する。
その性質からか、戦闘に参加しているギルドメンバーが多いほど成長効率が良くなる仕様になっていて、これがまたギルドメンバーを集める良いきっかけにもなっていた。
ちなみに<フリージア>という名前を付けたのは<俺が嫁>さんで、エンシェントドラゴンの配色である白銀の鱗・真っ赤な瞳・黄金の角がそれぞれちょうどフリージアという花の色にあるからというのが由来らしく、それぞれ白はあどけなさ、赤は純潔、黄色は無邪気という花言葉があるとか。
「あれが持つ<防御>系統のスキルを事前に使えば、大抵の不意打ちは防げるかと」
「ああそうか、どこかにモンスターが待ち伏せして攻撃される可能性もあるのか」
「左様です」
ここが<ファンタジーテールオンライン>じゃないことを仮定すると、何が起きても不思議じゃない。そういう考えは大事だ。
まぁそもそも、今の時点でじゅうぶん不思議なことばかり起きてるけどな……。
「さて……」
ある程度<ファンタジーテールオンライン>の法則が通用するなら、<チャットコマンド>や<ボイスコマンド>も通用するはずだ。
オレは息を「すぅ……」っと大きく吸い込んで、ボイスコマンドと共にヤツの名前を叫んだ。
「CALL フリージアッ!!」
ドギューンッ!!
ギルド基地のどこからか、何かが発射されたかのような轟音が鳴り響き、急に辺りが陰りだし、ふと空を見上げると、そこには太陽を背にして翼を広げたあまりにも巨大なドラゴンが神々しく宙に浮かんでいた。
その様子に思わずオレ、リューナ、カンナの順で口から一言が漏れ出す。
「速い」
「デカイですね」
「近所迷惑な」
うっわぁー、みんなしょうもないことしか言わねぇ……。
オレとしては、オンライゲームでお馴染みのタイムラグなく来てくれたことに驚いてほしいんだが、どうやらNPCにはプレイヤー特有のその感覚はないようだ。
みんながそれぞれの思考を巡らせていると、フリージアが地上に降りてその大きな口を開いた。
「きゃっほー☆ 天空からイタズラ天使ちゃんが可愛く舞い降りるように、伝説にしてサイキョーのエンシェントドラゴンであるフリージアちゃんが華麗に参上だよ~ん♪」
……んっ?
何やらフリージアの方からオレより可愛らしい声が聞こえたような……。
「もぅ~、みんなノリが悪いぞ~? 絶世の美少女ドラゴンのフリージアちゃんが来たのに、もっと盛り上がらなきゃ!」
間違いない、フリージアの声だこれ。
そして周りを見ると、みんなオレと同じように呆然としていて、その光景にオレは「まあ当然だよな」と、頭を抱えてしまう。
「特にアリスホイップちゃん、せっかく張り切って飛んできたのに、その態度はないでしょ~っ!?」
オレよりも幼女が似合いそうな声で文句を言われたことで、ついにオレの思いの内を抑えていた口は決壊する。
「なんでテメェそんな恐ろしい見た目でオレより可愛い声してんだよっ!? フツーそんな見た目だったらイケメンボイスかイケオジボイスが鉄板だろーがよぉ!? その声帯オレと交換しやがれッ!!」
「いやいや、お嬢様ツッコミ入れるところが違いますよ……」
リューナには申し訳ないが「可愛いが性癖」のオレにとって、これは重大な問題なんだ。ツッコミの十個や百個くらいさせて欲しい。
フリージアに色々とオレが言いまくっていると、カンナも不満げな表情を浮かべて別方面でツッコミを入れてくる。
「一つお聞きしたいのですがフリージアさん、現ギルドマスターであらせられるアリスホイップお嬢様になぜ、そのような無礼な態度を?」
「だってー、アタシってば実はアリスホイップちゃんの同期なんだよぉ? いわゆるー、オトモダチってワケなの~♪」
ああそうだった。
オレと黒キノコさんが<空の花園>に入ったちょうどその日に、ギルドの先輩にして主力メンバーの1人である<ωΠぷるんぷるん>さんというプレイヤーが<Episode8>をクリアしたことで、うちのギルドでもエンシェントドラゴンを入手できるようになって、結果その日のうちにフリージアが来たから彼女の言う通りオレとは実質同期になるんだったな。
もう27年前の出来事とはいえ、そのことをすっかり忘れていたことを申し訳なく感じて、オレはさっきまで罵倒の言葉を吐き続けていた口を閉じてしまう。
一方でカンナは、フリージアの言葉に渋々ながら理解しつつ、彼女に淡々と指示を出し始める。
「アナタの言い分はわかりましたが、今はとりあえず、各種防御系スキルを展開しながらお嬢様を乗せてギルド基地周辺を見回ってはいただけませんか?」
「ほいほーい☆ アリスホイップちゃんがいつも乗ってる出落ち魔のアンヴァルとは違うトコロをみんなに魅せ付けちゃうんだからっ!」
とうとつにオレの愛機であるギガントゴーレムの<アンヴァル>が酷評されたが、彼女の言う通り防御力の低さもあって撃墜率があまりにも高く、よくギルドメンバーからネタにされていた。
今となってはそのやり取りすら懐かしく感じてしまったオレは「あははっ」と素直な笑いをこぼす。
一応、他にも8機ほど各極地に対応したまともな防御力と攻撃力を持ったギガントゴーレムを用意はしているが、移動速度が物足りないうえに、それで主力メンバーについて行こうものなら確実に置いて行かれてしまうため、いつもオレのプライベートエリアのガレージの中でタンスの肥やしと化してしまっている状態だ。
まぁオレのアンヴァルは、撃墜された後からが本番なんだけどね。
「それじゃあ、行ってくるね~☆」
ドギューンッ!
オレを乗せたフリージアが勢いよく飛翔し、リューナ達が手を振ったりしてオレ達を見送る。
しかし、一番頼りにしていた防御スキルをフリージアが全く発動してくれていなかったことに気付いたオレは、慌てて彼女に催促する。
「防御! 防御スキル忘れてる!」
「んも~、メンドーくさいなぁ。えいっ!」
不満げに翼を広げてフリージアが発動したのは、自身を中心とした範囲内にいるキャラクターを20秒だけ受けた攻撃を無効化させる<古龍の加護Aランク>、同じく自身の周囲にいるキャラクターが受ける物理ダメージと魔法ダメージを3分間90%減衰させる<アンチマテリアルフィールドEランク>と<アンチマジックフィールドEランク>、同じく自身の周囲にいるキャラクターを5分間1秒につき最大HPの1%を自動回復してくれる<ヒーリングフィールドFランク>という、エンシェントドラゴン専用のスキルだ。
ちなみにプレイヤーの場合、指定したキャラクターだけに効果がある<アンチマテリアルアーマー>と<アンチマジックアーマー>と<ヒーリングアーマー>という劣化版のスキルが用意されている。
「回復系のスキルはまだ温存してほしかったんだが……」
「アリスホイップちゃん、注文多すぎぃ!」
<ファンタジーテールオンライン>では、この4つのスキルはどれもクールタイムが10分かかる。なので回復系のスキルは、せめて攻撃を受けるまで温存しておきたかった。
そういえばこの世界だとクールタイムもゲームと同じなのだろうか?
オレがスキルについて考え込んでいると、フリージアが急かすように話しかけてくる。
「ちょ、ちょっとアリスホイップちゃん! コレってどういうこと~っ!?」
「ああ、まるでオレ達のギルド基地以外の土地がぜんぶ吹っ飛んじまったみたいだな……」
「それシャレにならいよぉ!」
オレ達の目に飛び込んできたのは、ギルド基地がまるで某アニメに出てくる天空の城のように空に浮かぶ光景だった。
「アレ……アレアレ~っ!? <エデン>だけじゃなくてママが引っぱり上げた<地獄>もなくなっちゃってる~っ! 一体全体の万体、どうなっちゃってるの~っ!?」
「そっか、<エデン>の設定すっかり忘れてたわ」
あれはたしか、<ファンタジーテールオンライン>の最初のメインストーリークエストである<Episode1:Revival>で神々が創り出した「たどり着けばすべてが救われる」と言われている<エデン>という土地をプレイヤーが探すけど、その正体がプレイヤーたちがいた世界そのものだったという衝撃の事実が<Episode3:Truth Of Eden>で判明して、さらに<エデン>が天空に張られた結界の中で、敵の本拠地だった<地獄>が地上だったというさらなる事実が<Episode4:Falling Earth>で判明して、その時点でプレイヤーが行ける土地がすべて地上に落下して<第一章>が完結したんだっけか。
要するに、<エデン>は空にあってオレ達は最初からそこにいたということだ。
ちなみにエンシェントドラゴンの入手条件であり<第二章>の最終話でもある<Episode8>では、千年に一度生まれるエンシェントドラゴンの親がそのエピソードのラスボス戦で瀕死の状態になって、プレイヤーに子供が立派に成長するまでの間の世話係をさせる代わりに親ドラゴンが残されたエンシェントドラゴンの力を使って願い事を一つ叶えてくれるということで、<地獄>と言う名の地上に堕ちた<エデン>を敵の本拠地ごと再び天空まで引っ張り上げてもらうけど、あと少しのところで力及ばず再び墜落しそうになって、危ないところを<エデン>の無事だった土地に拠点を置いていた錬金術師たちの新装備と新スキルのおかげでなんとか無事に天空に戻れて、<錬金術>スキル中心の<第三章>に繋がるという中々に壮大なストーリーなのだが、公式サイトに掲載されている制作スタッフの裏話によると、実は<Episode1>から既に実装されていた<地獄>がメインストーリークエストのクリア以外にも、そこでしか取れない素材集めを目的で頻繁に行くことが多い場所でもあったため、プレイヤーから「肝心な移動の仕様があまりにも面倒だ」という苦情が非常に多くて<Episode|4>が作られた経緯があるのだが、そのせいで「本来の第二章」で予定されていた土地やストーリーが使えなくなり、それを再利用するために「現在の第二章」の結末がこうなったらしい。
「今思ったんだが、MPは自然回復できてるか?」
「うん、普通にMPを体内に取り込めてるよ。魔法スキルもバッチリ使えるし」
<ファンタジーテールオンライン>のMPは速度こそ非常に遅いが自然回復がされる。
自然回復が可能だという事は、この世界で魔法を使うこと自体に支障はなく、今まで通り運搬しても問題ないということだ。
そうなると、ますますオレも魔法を使いたくなってきたので、フリージアに半ば誤魔化しながら魔法の使い方を聞くことにした。
「なぁフリージア、オレさっきから魔法を使う感覚がおかしくなってるんだが、お前って魔法をどんな感覚で使ってる?」
「いつも通りの感覚だよぉ? まぁ色んなスキルをバカみたいに反復練習しまくってるアリスホイップちゃん達なら、頭が忘れても身体が覚えてるかもだけど」
「身体が覚えてる……か」
言われて思い返してみると確かに、身体が普段とは違う感覚で動くことが何度かあった。
すぐに思いつくだけでもリューナに全裸にされた時、アイテムを取り出す時、フリージアを呼んだ時が特にそう感じたな。
もしそれがこの身体の記憶なのだとしたら、スキルについても恐らく同じように発動できるはず。
「フリージア、そのまま少しジッとしていてくれ」
「ほい?」
――頭で考えるな、身体で感じろ。
まず、右掌に右人差し指と右中指を挿入し、大型魔導具である<スタッフ>属性のある<手袋>装備の<魔法石の小手>のカードを取り出して実体化する。
――良く使ってる装備とはいえ、身体任せにするとこんなに速く取り出せるものなのか?
次に、オレが最も使う<魔法>スキルの<上級>シリーズである<ライトニングバスターFランク>を使うための体勢に移る。
――腰を落として、軽く足が開いて、左手が開いて前に行き、後ろ手が握られて後ろにさがっていく。
最後に、全身に溜まり廻るMPを左手に集中させて雷の塊を形成して……それを右手で思いっきり殴るッ!!
『ライトニングゥ……バスタァァァァッ!!』
バリバリバリドギュウウウウウウウウウウウンッ!!
大気全体を揺るがすかのような凄まじい轟音と共に、巨体のフリージアどころかギルド基地まるごと簡単に飲み込んでしまいそうなほどの極太な雷のレーザーが真上に向かって放たれた。
バチバチッ! バチンッ!
ライトニングバスターが終わったあとも<戦場レベル>の<乱気流Lv8>らしき現象が発生して、辺り一帯が暴風と共に雷鳴が響き渡る。
基本的に上級シリーズの魔法を使用すると、ランクとチャージ時間に応じてランダムでLv5からLv9までの戦場レベルが100%発生するので、場所やパーティメンバーによってはランクを落としたりチャージ時間を短めにして使うことが良くある。
今回はどこまで<ファンタジーテールオンライン>と同様なのか試してみたかったため、Fランクのフルチャージを放ってみたのだが、描写のされ方というか、効果範囲が明らかに違っていた。
本来であればライトニングバスターは範囲拡大の効果の装備をつけても、ここまで太くはならない。
さらに言えば、今はその手の装備を1つも身に着けていないのだ。
ひょっとしてこの世界では、魔法が威力に応じて範囲補正も付くのか?
「痛ってぇ!?」
マズイ、乱気流の戦場レベルが高すぎて、戦場レベルに対しての<耐性>スキルがそれなりに高いオレでもダメージを受けてるうえに、強風で今にも飛ばされそうになっている。
おまけにフリージアが張っている防御スキルは戦場レベルに対応してないから、もろにダメージが通るせいでめちゃくちゃ痛い。
そして、<ヒーリングフィールドFランク>のおかげでダメージ量よりも回復量が多いため、今は死ぬことがないので、結果的にフリージアの判断は間違っていなかったことになった。
しかし、そんなピンチな俺のことなど気づかずに、フリージアは魔法を使えたオレのことを褒めてきた。
「おお~っ、アリスホイップちゃん、やればできるじゃん!」
「そっ…そんなことより、確認は済んだからさっさと降りようぜっ!?」
「らじゃー!」
フリージアはオレの指示に素直に従い、戦場レベルの発生している上空から脱し、ギルド基地に降り立った。
まずはフリージアに色々とお礼を言わなきゃな。
「ふぃ~…フリージア、ヒーリングフィールドありがとな……。危うく自滅するところだったわ」
「えっへん!」
フリージアは得意げに頭を上に向けて鼻から白い息を出した。
言葉使いや声からしてフリージアの性別は女なんだろうけど、その行動は女の子としてどうなのだろうか?
……人のこと言えないけどさ。
「おかえりなさいませお嬢様」
「先ほどの上級魔法でお疲れになられてると思いまして、MP回復とリラックス効果のあるマナハーブティーをご用意させていただきました」
帰ってきたオレを早々に出迎えてくれたのはカンナだった。
その後ろでリューナが傘の付いたテーブルの前でティーポットを持って待機していたので、みんなに向けて「ああ、ただいま」と、あいさつを済ませて席に着いてお茶をいただいた。
そういえば、帰ってきて「ただいま」と言ったのは何年ぶりだろうか。
「それで、基地周辺はどのようなご様子で?」
カンナの問いかけに、オレとフリージアはそれぞれの印象を口にする。
「言葉通り、何もなかった…。何も……」
「そうなのそうなのー! <エデン>も<地獄>も何もかも綺麗サッパリ消えちゃってるのーっ!!」
オレ達の報告を聞いた周りのNPC達が不安な表情を浮かべて静まり返ってしまう。
明るい性格のリューナでさえ「そんな……」と口から漏らしてしまうほどに、みんなはショックを受けていた。
それもそのはずだ。彼女たちにとって、この現象は世界が消滅したも同然なのだから。
「ところで、この世界にはまだ地上は残っているのでしょうか?」
「あっ……」
……しまった。
スキルの事を気にしすぎて、カンナに言われるまで肝心なところを確認するの忘れてた。
「あったよ! それでね、アタシたちのギルド基地って大陸のど真ん中に浮いてるみたいなのっ!」
助け船を出すかのように、オレの言葉に繋げるようにフリージアが答えてくれた。
さっきのアドバイスといい、今の注意力といい、癖が強すぎる口調からは想像ができないほどの能力を目の当たりにすると、やはり彼女は伝説のエンシェントドラゴンなのだろうと実感する。
いや、フリージアだけじゃない。
リューナやカンナもまた、生活面や気遣いの面を見ると非常に優秀な人材だ。
というより、ひょっとすると実はオレがこのギルドの中で最下位の人材なんじゃないか?
「うーん、この世界の土地が地上しかないとなると、どうしましょう?」
リューナの問いかけに、オレは思わず「普通は天空に土地なんて存在しないぞ」とツッコミを入れそうになったが、彼女たちにとってそれが「普通」だとすぐに理解して思いとどまり、オレは今後のことをカンナに相談してみることにした。
「なぁカンナ。この事態をみんなに伝えたいんだが、どうすればいい?」
「でしたら、私達が各部署の長達を<おもちゃ箱>の<謁見の間>に集めますので、そこでお伝えするのがよろしいかと」
即答してきた。しかも面倒かつ大事な作業を自分で買って出てくれるというおまけ付きで。
オレが言うのもなんだが、本当に優秀すぎないかこの子達……。
「よっしゃ、そうと決まればさっそく取り掛かるぞ!」
オレの掛け声と共に周囲のNPC達が「はっ!」とそれぞれ異なる形の敬礼をオレに向け、散り散りに去って行く。
「……オレ、こんな優秀すぎる子達の中でやっていけんのかな?」
数々の不安を胸に抱きながら、オレは謁見の間に向かう。
沈む夕日を背にしながら。