戦闘! フリージアVSレオン
実はレオンくんの名前の由来は某炭酸ジュースです。 且_(:3」∠)_<そんなことより幼女のレモンジュース飲みたい
「ハチの巣になっちゃえーっ!」
ドドドドドッ!!
まず先に動いたのはフリージアだ。
準備時間が短く、さらに1度の準備で5回も連射が可能な<アイスボルトFランク>の魔法スキルで牽制を行う。
このような多少威力が低かろうと素早く遠距離から攻撃して敵の隙を作る戦い方は、<ファンタジーテールオンライン>では基本的な戦闘の始まり方で、もし当たれば1~2秒ほどののけぞり時間が発生し、その隙に準備時間が長めの強力なスキルを当てるのがセオリーな流れだ。
「たかが氷の塊、避けられないオレ様じゃねーぞ!」
先の宣言通り、レオンは華麗に<アイスボルト>を全て避ける。
ただし彼の言う氷の塊というのが、明らかにオレの身長よりデカいうえに、大砲の弾のような速さで発射されていて、砦の壁が豆腐のように粉砕する威力なんだ。
実際、アイスボルトの流れ弾が砦の壁を破壊して、ガレキの一部がこっちに飛んできてるせいで、オレは現在進行形でその威力の恐ろしさを身をもって思い知ってる最中だ。
あっ、今ほっぺにガレキがカスったわ。
「その首、貰ったァー!」
「甘い甘い~、サトウキビよりも甘ーいっ!」
ブォンッ!!
フリージアがすばやく尻尾を振るい、レオンの下半身を狙う。
たしかドラゴン系のモンスターだと、あのモーションは<スマートダウン>だったか。
攻撃対象をその場で強制的にダウン状態にして、ダウン状態中の相手にしか使えないスキルやダメージ増加補正が付くスキルを当てるためによく使われる<近距離>スキルだ。
ちなみにプレイヤーが使うと足払いのモーションになる。
「速いッ……が、そう易々と当たるものかよォー!」
ガシャーンッ!
レオンが紙一重で避け、フリージアの尻尾がそのままの勢いで砦にぶつかった事で、砦の上部分が崩れ始める。
オレはちょうどその真下にいて、このままだとガレキの下敷きになってしまう。
「なんてことしてくれてんだフリージア~ッ!?」
「お嬢様っ!」
とっさにマリアが縄を自力でぶち破り、オレに覆い被さるような態勢で盾を召喚し、<防御>スキルの<ワイドガードFランク>を発動する。
<ワイドガード>は最初は前方のみしか障壁を張れないスキルだが、6ランクからは防御判定が全方位になり、Aランクからは中心軸をずらせるようになるという、パーティでタンクを担う場合は英字のランクまで上げておくのが必須のスキルだ。
「……そこやな」
ズバァーンッ!
いつの間にかフェイルも縄をほどいて弓を召喚し、<遠距離>スキルの<マグナムAランク>で落ちてくるガレキに向けて矢を放つ。
<マグナム>はスマッシュの遠距離版とも言えるスキルで、6ランクからは命中した場所の周囲にいる敵やオブジェクトにも効果が反映され、Aランクからは射線上にいる敵などにも効果が反映されるので、多少マトが外れても大ダメージを与えられる仕様になっている。
ちなみに弓は射程距離が一定の数値を超えるごとに、矢の発射時に弧の部分にエフェクトが追加される仕様で、フェイルが使っている弓も相当な数値の射程距離があるため、かなり派手なエフェクトが発生している。
キュウウウウウンッ!
「フェイルは詰めがあまいナー」
「フェイルはすぐ手を抜くよネー」
ニコラスとフラメルが錬金銃を使い、<圧縮結晶化>という<錬金術>スキルでオレに降り注ぐはずだった小さなガレキを吸い込む。
この<圧縮結晶化>というスキルは、<ファンタジーテールオンライン>では<魔法>や<遠距離>といった攻撃スキルを無効化および吸収して、結晶の形でアイテム化するもので、さらに<結晶解凍>というスキルを用いれば、カウンタースキルとしても活用できるという仕様だった。
しかしこの世界では、どうやらスキル以外の物も結晶化できるみたいで、汎用性がさらに高くなっているようだ。
「わっ…悪いみんな……!」
「これくらい気にすんナー」
「お嬢様の縄も解いたし、もう安心だネー」
「うちはお嬢様が無事ならそれでええわ…ふぁ~……」
「ええ、本当に無事で何よりです」
ニコラス、フラメル、フェイル、マリアに助けられてオレがホッと一息つくと、レジスタンス達が姿を消していたことに気付く。
「そういえばレジスタンスの人達は?」
「<影忍者>の皆様がある程度の逃走経路を確保したので、リューナ、ディーヴァ、エムエスの3人がレジスタンスの方々を護衛しつつ誘導させております」
「なるほど」
ふと辺りを見渡すと、フリージアが砦を大きく破壊したことで大パニックが起こっており、現状はある程度ジェネラル将軍の狙い通りに事が進んでいると言えるだろう。
オレとしては防御スキルに長けたマリアをレジスタンス達の護衛に回したかったが、彼女の性格からしてどの道こっち側に付いたかもしれないので、あえて口に出すことはしなかった。
「……フリージアはっ!?」
一瞬で多くのことが起こりすぎて、オレはこのパニックの起因であるフリージアのことをすっかり忘れていた。
戦況は相変わらずフリージアの攻撃がレオンに当たらないものの、レオンの方は避けるので精いっぱいで攻撃すら出せていないので、これはフリージアが攻勢だと見るべきだろう。
それにしてもあのレオンという男、おそらく当たれば即死の攻撃をああも避け続けるなんて、<ファンタジーテールオンライン>のプレイヤーでも滅多にいないぞ。
そういえば、NPC売り武器と低ランクスキル縛りでメインストーリークエストやフィールドボス討伐をソロでクリアするプレイヤーを動画で見たことがあったなぁ。
もし彼が<ファンタジーテールオンライン>をプレイしたら、同じようなことができそうだ。
ドスーンッ!!
「ああ~、もうっ! 戦場レベルさえ気にしなければこんなヤツすぐにやっつけられちゃうのにーっ!!」
そうか、フリージアが強力な範囲攻撃スキルを使わないのは、戦場レベルの発生でレジスタンス達に被害が出ないようにするためか。
ということは、オレのところに向かって落ちてきたガレキは、オレならダメージを喰らわないと彼女なりに計算されていたのかもしれないな。
「背中がガラ空きだぜェー!!」
――マズイ!
レオンがフリージアの背中を取った。
「あの世の特急ツアーへようこそ~☆」
そう言ってフリージアは首だけをレオンに向けると、くぱぁっと口を開いて<ファイアボルトFランク>を放とうとする。
<ファイアボルト>はアイスボルトと同じく<初級>シリーズの魔法スキルだが、最大までチャージすればかなり大きいダメージを与えられるうえに戦場レベルも上がらないので、使い勝手が非常に良いスキルだ。
しかしレオンは怯むどころか、フリージアの背中を足場にしてさらに加速した。
「聖騎士のエースが……でかいミジンコ如きに負けてたまるかァー!!」
ぱくんっ
そのままレオンはフリージアの口に飛び込んで、彼女の喉に詰まって<ファイアボルト>を不発させた。
たとえゲームでも、あの距離を近接攻撃で魔法を無力化しようとするなんて事をやってのけるプレイヤーはそうそういない。
レオンはまさしく、エースと呼ぶに相応しい強さを持ち揃えた人物だと言えるだろう。
「ぶへぇーっ!!」
どーんっ!
フリージアの口から、ものすごい勢いでレオンが吐き出されて近くの建物に突っ込んだ。
「おぇ~…ばっちい……」
「大丈夫かフリージア!?」
「うん、問題ないない~♪」
「剣とか飲み込んでたような……」
「あんなナマクラ、クジラの骨より柔らかいからだいじょーぶ☆」
「そ、そっか……」
「そーなの♪」
オレがフリージアの無事を確認してからしばらく経ったが、レオンがなかなか建物から出てこない。
気になった聖騎士達が様子を見に行くと、そこには無残なレオンの姿があったようだ。
「うわあああっ!?」
「レ…レオンが血塗れになって……、ピクリとも動かない……っ!」
「ま…まさか、あのレオンが死んだ……!?」
あまりにもあっけなく情けない幕切れに、オレ達は思わず「ええ~……」と声を漏らしてしまった。
* * * *
「こ…来ないでくださーいっ!」
ズババババジャラララララァーッ!!
エムエスが百合を模したアンカーが先端に付いた刃状の鎖の鞭<リリー・ナイトメイデン・ウィップ>で、追ってくる聖騎士をバラバラに切り裂いていく。
この<リリー・ナイトメイデン・ウィップ>は、鎖が刃状になっているので装備するには<手袋>の装備スロットに専用の小手が必要になる。
そのかわり通常のウィップよりも2倍以上のダメージがあり、さらに本来は剣や鈍器などを装備していないと使用できない<近距離>の専用スキルも使用可能にするため、実質武器を2つ持っているのと同等の効果がある代物だ。
ちなみに精霊装備であるエムエスの依代でもあるため、専用の小手要らずで装備できるので、別の手袋ジャンルの装備を装着できる余裕がある。
「エムエスは性格の割に好戦的すぎなのだ」
ギュルギュルガガガガーッ!!
ディーヴァが持つシラーという花をモチーフにした模様が描かれた<シラー・クレイジーメイデン・エレキギター>から有線で操られた4体の巨大な鎧の人形が道を塞ごうとする聖騎士に向かって突撃して蹴散らしてゆく。
この<シラー・クレイジーメイデン・エレキギター>には、<弦楽器>のジャンルのみ使用できる<人形劇属性追加>の効果が付く<狂喜の糸>というレア素材が使われており、普通の<楽器>ジャンルの装備では使用できない<人形劇>というジャンルのスキルも使用することが出来る。
そのかわり<音楽>スキルのバフ効果が低く、人形を操れる距離が短いというデメリットがあるが、人形に敵のヘイトを稼いでタンク役をしてもらいつつ、装着者は<音楽>スキルによるバフ補助に集中できるというメリットを考えると、一長一短と言ったところの代物である。
ちなみに<人形劇>スキルと<音楽>スキルのプログラミング的な仕様上、演奏をしながら人形を操ることができるバグが発生してしまったが、製作スタッフの能力不足で解消できずに諦めて「もうこれが仕様でいいや」になってしまったという裏話が製作者インタビューで語られている。
「ちょっとディーヴァ、なんでアナタが前衛してるんですか!?」
「前衛してるのはディーヴァさんじゃないのだ。お人形さんなのだ。それにリューナの魔法は危ないから使っちゃダメなのだ」
「人を破壊神みたいに言わないでくださいっ!」
ズバァーンッ!
リューナは持つ桜のつぼみをモチーフにした<チェリーブロッサム・アイアンメイデン・スタッフ>で、エムエスの防御網を抜けた聖騎士を鎧ごと貫いて串刺しにする。
この<チェリーブロッサム・アイアンメイデン・スタッフ>には、<スタッフ>のジャンルのみに使える<ランス属性追加>の効果が付く<鋼の魔法石>というレア素材が使われており、<ランス>専用の近距離スキルが使用可能になっている。
そのかわり、魔法の攻撃力が下がるというデメリットを抱えているが、リューナの<エゴス:加速>があるので、<魔法>スキルの最大の弱点である準備時間の長さをある程度補える点を考慮すると、通常のスタッフよりも一歩先を行ける可能性を持った代物である。
ちなみにリューナのおっぱいは人を圧死できるほどの攻撃力を持っている。
「へっくち!」
「風邪なのだ?」
「いえ、誰かが私のウワサをしてるような気がして……」
「ディーヴァさんみたいなアイドルオーラがないのはともかく、リューナみたいな可愛げのない女の子のウワサなんて誰もしないのだ」
「なんですってーっ!?」
「ちょ、待つのだリューナ! その魔法は本当に危ないのだーっ!!」
『芽吹け、バーニングぅ…シードっ!!』
どぴゅるるるるるる~……
リューナの放った<バーニングシード>という炎の塊を撃ち出す<魔法>スキルは、<ファンタジーテールオンライン>において初めて実装された戦場レベルを発生させるほど強力な攻撃力を持った<中級>シリーズに分類されるスキルの1つだ。
発射から着弾まで遅いものの、その射程と攻撃範囲は実装当時ではかなり長く広いうえに着弾位置を自分で決められるため、種を蒔くように<熱気Lv3~6>の戦場レベルを点々と発生させることができるので、ちょっとしたトラップとしても利用できる。
ちなみにリューナの持つスタッフは魔法を発動するときには、つぼみの部分が開いて桜の花の形になる。
ドゴォオオアアアアアアアアアアアンッ!!
轟音と共に、まるで花が咲くように鮮やかな爆炎が広がり、追ってきた聖騎士達がそれに巻き込まれる。
最前列にいた聖騎士は黒焦げになり、その後方にいた聖騎士は無事に生きているものの、腰が抜けて身動きが取れない状態になっていた。
もっとも、動けたとしても燃え盛る灼熱の炎が熱気の壁となって、追うことはどの道できないのだが。
「……やっぱりリューナは破壊神なのだ」
「うるさいですね……」
「だからやめるのだリューナっ!」
リューナはスタッフを構えて静かに怒りの矛先をディーヴァに向ける。
そんな一触即発な雰囲気の彼女たちに、レジスタンス達が恐る恐る話しかけてきた。
「な…なぁ、お嬢ちゃん達は本当にいったい何者なんだ……?」
「そうそう、さっきの武器といい、今の魔法といい、あんなおとぎ話に出てくるようなドラゴンまで従えてるなんて、どう見たってただ者じゃないわよね?」
「えっ? う~ん……」
とつぜんの質問にリューナとディーヴァは言葉に詰まり、思わずお互いの顔をしばらく見続ける。
そんな沈黙をエムエスがもじもじしながら破った。
「わ…私達は、空の花園の主であらせられるアリスホイップお嬢様に仕える……メ…メイドインセヴンです……」
「あのドラゴンも言っていたけど、空の花園って?」
「ディーヴァさん達のギルドのお名前なのだ。おうちはお空の雲の上にあるのだ」
「そ…空の上ぇ!?」
「ま…まぁドラゴンなんて従えてるんだからそれくらいは……」
「ちなみにメイドインセヴンというのは、お嬢様の手によって作られた私たち7つの精霊装備のことです」
「精霊!?」
「け…けど、アナタ達どう見ても人間じゃない!?」
「そう見えるように育てられたのだ」
精霊の事を疑うレジスタンス達に、ディーヴァは自身が精霊であることを証明するために、自身の依代である<シラー・クレイジーメイデン・エレキギター>を上にかざすと、そのまま光と共に人間の姿を消した。
一時的に浮いていたエレキギターが地面に落ちそうになり、リューナが「おっとっと……」と受け止める。
「は…はは……、本当におとぎ話みたいだな……」
「おとぎ話じゃないのだ! 本当の話なのだーっ!!」
とつぜんリューナが抱えているエレキギターから声が聞こえ、少なくともディーヴァは本当に精霊精霊なのだと理解したレジスタンスは、そのエレキギターに向けて謝罪の言葉をかけた。
「ごっ…ごめんなさい、気を悪くしないでね。けど、空の上に家があったり、武器に宿った精霊が人の姿で現れたりだなんて、私達にとっては本当におとぎ話みたいな話なのよ」
「彼女達の言ったことはすべて事実だ」
とつぜん聞こえた声に一同が辺りを見渡す。
すると、灼熱の炎の向こう側から聖騎士達の怯える声が聞こえると同時に、小さな人影が現れた。
「あっ、お嬢様!」
「お…おいっ!? 危ないお嬢ちゃん、そんな炎に入ったら火だるまになるぞッ!!」
レジスタンス達の制止の言葉も聞かず、リューナが叫びながら炎の中に飛び込んで、その小さな人影を抱きしめる。
心配するレジスタンス達だったが、リューナは炎をものともせず、服も焦げ目すら付いていない様子だった。
「おい、暑苦しいぞリューナ……」
「えへへ~」
その人影の正体は<空の花園>の主にして<メイドインセヴン>の所有者であるアリスホイップだった。
* * * *
オレもといアリスホイップがリューナ達と合流する少し前……。
「なぁマリア、あのレオンってヤツにお前のエゴスを使ってやってくれないか?」
あれほどの実力者がこんな所で簡単に死んでしまうのがもったいないと思ったオレは、マリアに<エゴス:復帰>でレオンの<死亡>という状態異常を治して生き返らせようとするが、マリアに「敵に情けは必要ありません」とキッパリ断られてしまう。
「そこをなんとか頼むよマリ――」
「っかぁ~、全身トマトの汁だらけでベトベトだぜ!」
「「「……えっ?」」」
なんと、死んだと思われていたレオンがとつぜん起き上がり、この場にいた全員が驚きの表情を浮かべる。
そう、レオンが飛び込んだ建物の中に、トマトを保存していたタルがあり、ちょうどそれがクッションになったおかげで生きていたのだ。
オレは起き上がったレオンの無事を確かめるべく名前を呼んでみた。
「おいレオン!」
「なんだチビ助?」
カチャリッ
「おめー、本当に命知らずのようだナー?」
「てめー、本当に次は死んじゃうかもネー?」
レオンの一言がニコラスとフラメルの逆鱗に触れたようで、2人は笑顔で武器を構えて怒りの意思を示す。
それがオレの意思に反すると理解しているマリアが「やめろ」の一言で2人を抑えつける。
それにしてもレオンのヤツ、武器を向けられても全く怯みもしなかったな。
本当に肝の据わったヤツだとオレは改めて思った。
「お前は強い」
「当然だ!」
「だが若すぎる」
「あっ? 負け惜しみかチビ助!?」
カチャリッ
またもやニコラスとフラメルが武器を構える。
しかし、今度はマリアの鉄拳が2人の頭に制裁を加えて抑えつけられた。
「お前には延び代があるって言ってんだよ」
「のび…しろ……ってなんだ?」
「わかりやすく言えば、まだ強くなれるってこった」
「なんだよ、だったら最初からそう言ってくれ」
「まさかここまで伝わらないとは思わなかったんだよ」
「当然だ、なんせ俺はこの腕っぷしだけでこの砦を守るエースまで這い上がってきたんだからな。ムズかしい言葉なんて知らんっ!」
周囲が唖然とする中、オレだけ笑い声をこぼした。
実際オレも似たようなもので、考えるよりも身体を動かす方が得意だから共感してしまったのだ。
「あははっ、どうやらお前は根っからの職人気質みたいだな!」
「それはどういう意味だ?」
「身体で覚えるのがすごく得意なヤツって意味だ。これも立派な褒め言葉だぞ?」
「おおっ! じゃあ素直にその言葉受け取っておくぜ!!」
「……さて」
オレはレオンに向けた上機嫌な笑顔とは真逆の冷めた表情をハイザに向ける。
「ハイザ……とか言ったな?」
「は…はいっ!!」
「レオンに武者修行が長期間できる準備をさせて、この砦から追い出せ」
「な、なぜそのようなことを……?」
「オレの故郷には『可愛い子には旅をさせよ』という言葉があってな。だからオレは気に入ったレオンに旅をさせていろいろ学ばせて更なる成長を見たいと思ったんだ」
「はぁ……」
まぁ実際は少しでも死人を増やしたくないっていう、オレのワガママでもあるんだけどね。
オレの考えとしては、亜人を迫害する国という枠組みの解体さえすれば、住民はその思想を持ったら滅ぼされるという考えが自然と広がっていき、結果的に死ぬ人を減らすのが狙いだ。
とはいえ、捕らぬ狸の皮算用の考え方そのものなので、実際はどうなるかわからないが……。
ちなみにレオンは顔は整っていて美形で母性心くすぐるような真っすぐ一直線な性格だけども、オレの趣味ではない。オレの身体が幼女とはいえ、中身がオッサンだからな。
そういえばレオンが死んだって知った時、あまり嫌悪感ってものを感じなかったな。
なんというか、人の死に慣れてるような感覚の方が強かった。
おそらくこれも、アリスホイップの身体だからこその感覚なんだろう。
話は少し脱線してしまったが、ハイザに本来の要望を伝えるとするか。
「それとお前の国の王様にこう伝えておけ、『これ以上、亜人を迫害するな』ってな」
「も…もししてしまった場合は?」
「そうだな……」
――しまった。
相手が簡単に恐怖を想像できるような脅し文句が、意外とすぐに思いつかない。
スキル名を言っても魔法の名前が違うようだから伝わらないだろうし、強力なスキルを実演したらしたらで何も関係ない近隣の住民が巻き込まれそうだし、かといって弱めのスキルでも脅しにはならないし……。
予想してない質問が来て言葉に詰まったオレに助け船を出すように、フェイルの口から小さいが確かに聞こえる声が漏れ出し、フリージアもそれに続いた。
「……この砦のような光景が国全体に広がる」
「侵略♪ 壊滅♪ 大虐殺~♪」
おお、さすがいざという時は本気が出るフェイルとフリージアだ!
たしかに、砦の中は倒壊した建物で溢れ、上空は魑魅魍魎に掌握され、巨大なドラゴンが見下ろすこの状況が国全体に広がると言い、さらにわかりやすい短い単語を付け加えれば、どんなに相手の想像力が足りなくても嫌でも理解してくれるだろう。
「わかりましたっ! 我らは直ちに本国に帰還し、我らが法皇ザクゲルグ・ジオ・ズム・タイクーン陛下にその言葉を届けに参りますっ!!」
ハイザが聞いてもいないトップの名前を言ってくれると、とつぜんジェネラル将軍から<テレパシー>が届く。
(お見事です総統閣下)
(……へっ?)
ジェネラル将軍の唐突な褒め言葉に、オレは困惑してしまう。
(敵のエースを懐柔して排除するだけにとどまらず、敵将の名前まで聞き出し、果てには敵の本拠地を探るために泳がせるとは、このジェネラル感服いたしました)
――悪いジェネラル将軍、実はこれ何も考えなしの行き当たりバッタリなんだ☆
なーんてことは、あの顔が怖いジェネラル将軍にはとうてい言える訳もなく、震える声で「ま…まあな……」と答えるしかなかった。うん、答えざるを得なかったんだ。
ドゴォオオアアアアアアアアアアアンッ!!
これでひと段落かと思いきや、とつぜん遠くから大爆発が聞こえてきた。
いったい何が起きたのかとオレ達含めて全員が驚いていると、フェイルがすぐに何が原因かに気付く。
「……バーニングシード、リューナが暴れてる」
「リューナ、またやらかしてるナー」
「リューナ、怒るといつもああなるよネー」
「いつもなのか……」
「はい、お恥ずかしながら……」
マズイな。
このままじゃせっかくの要望も聞き届けられないかもしれない。
急いでリューナを止めに行くために、マリアにあとを任せて向かうことにした。
「マリア、オレはリューナを止めに行くから、あとの事は任せたぞ!」
「承りました。いってらっしゃいませ、お嬢様」
「いってら~☆」
「いってらっしゃいナー」
「がんばってネー」
「すー……すー……」
「「「寝るなフェイルっ!」」」
ところで、さっきからオレ達の動きに合わせて演奏の雰囲気を変えてくる<音楽LOVE>さんのNPC達は、どうやってこっちの様子を見てるんだろうか?
* * * *
「というわけなんだ」
「はう…面目ありません……」
オレの説明を聞き終え、リューナは顔を真っ赤にして落ち込んでしまう。
「ち…ちなみに<ウィンドスピーカー>を通して演奏してる方たちは、多分ですが…現地にいるフリージアさんか誰かが<ライブ>を使って空の花園で放送してるんだと思います……」
そうか、<ファンタジーテールオンライン>には動画サイトやSNSと連動した公式ネット配信機能があったな。
つまりこれも<スクリーンショット>や<チャット>と同じで、違う形で機能が残っていたわけか。
そうなると、またマリアに使い方を教えてもらわないといけないな……。
オレが今後のマリアとの会話でまた精神的に疲れるのを想像してため息をついていると、ディーヴァがオレに話しかけてきた。
「ということは、戦いは終わりなのだ?」
「ああ。あとは聖騎士のヤツらが本国とやらに引き返すのを<影忍者>たちに追わせて、オレ達はそこのレジスタンス達の拠点で今後の相談をするだけだ」
「わかったのだ!」
オレ達の話を聞いていたレジスタンスの1人がこちらに近づいてくる。
彼はたしか、オレ達が聖騎士に捕まって馬車で運ばれてる時にオレの正面にいた男だ。
「お嬢ちゃ……じゃなくて、アリスホイップ様?」
「アリスでいいよ、メイドインセヴン達にもホイップが付いてるんだ。あと、出来れば様付け以外にしてくれないか?」
「ああ、わかったよアリスさん」
「……そういえば、アンタの名前を聞いてなかったな」
「おっと、これは済まない。俺はロレンスだ」
「ロレンス…か。よろしく、ロレンスさん」
「こちらこそよろしく、アリスさん」
オレとロレンスは互いにあいさつをして固く握手を交わす。
柔らかくて小さいオレの手と比べると、ロレンスの手はあまりにも大きくゴツゴツとしており、握り合うというよりは一方的に握られてるような感じだった。
まるで本当にワラにすがるかのように。




