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第61話 それぞれの考え

 変な空気になってしまった生徒会室。俺は誤解を解くため琴歌について説明した。


 初めは妹が恋愛的に俺を好きと言った時点で事情を知らない未耶ちゃんと音心は頭にハテナを浮かべていたが、俺の真剣な様子を見て次第に真剣に聞くようになった。


「なるほどね。あの琴歌が……」


 全て話し終えた後、音心は顎に手を添えてそう呟いた。琴歌のことを知っている分未耶ちゃんよりもすんなり受け入れてくれたのだろうか。


「愛哩と未耶は知らないと思うけど、琴歌は本当に悟のことが好きなのよ。典型的なお兄ちゃんっ子でね」

「そ、そうなんですか……」


 未耶ちゃんは口篭りながら反応する。長岡さんは全部を知っているからか無反応だ。


「……」

「未耶?」


 何か言いたそうな未耶ちゃんに素早く反応する音心。不思議そうな顔をするが、俺と長岡さんなら。


(……好きっていうのは、本人の自由なんじゃないのかな……)


 トントン、と小さく長机が指で叩かれる。音のする方を見ると、長岡さんがこっちを見ていた。


(みゃーちゃんのそれ、どう思う?)

(まあ……、一理はあると思うよ。俺が嘘をついてまで失恋させるのが一番の正解だとは言えないし)

(でも納得は出来ない?)

(報われない恋愛感情、それも誰にも相談出来ない内容は放置すればするほど辛いだけだよ)

(確かにそうだね。正直私は宮田くんとちょっと違う意見だけど、それも正しいと思うよ)

(違う?)


 思ってもいない言葉が出てきて思わずを見開く。

 違うって何だ? 未耶ちゃんと同じ意見ってことか?


(みゃーちゃんとも違うかな。私は単に琴歌ちゃんに告白させてあげれば良いんじゃないかなーって思っただけ)

(でも、それは)

(うん。今までの仲良しの兄妹では居られなくなると思うよ。仮に仲が戻るとしても、時間は必要かな)

(……だとしたら、俺の考えは一番波風を立てないんじゃないの?)

(だから正しいと思うって言ったんだよ。というか多分、間違いはあれど正解はないのかも?)

「こら愛哩に悟。見つめ合ってイチャイチャしないの」

「してないよ」

「んふふ、宮田くん怒られてるや」

「長岡さんも当人でしょ」


 結構ガッツリ話したせいで音心には変に思われたのかな。確かに急に静かになるのは不自然だし、気をつけなきゃな。気をつけられた試しがないのが問題だけど。


「あの、それで悟先輩。どうやって彼女を決めるんですか?」

「あー……」


 考えてなかったな。割と勢いで言っちゃったせいで具体的なことが何一つ浮かんでこない。


 そうだ、その前に。


「未耶ちゃん、率直に言って今回のこれはどう思う? 気乗りしないなら、まあ偽装彼女自体はするつもりだけど……未耶ちゃんは降りてくれても構わないよ」

「……妹さんの、恋愛感情についてですよね?」

「うん」


 もやもやを抱えたまま協力してもらうのは忍びない。一度言葉にしてもらって、それでまた考えてもらおう。


「わ、わたし。それについては反対……です……!」

「!」


 未耶ちゃんのその言葉に驚いたのは俺か長岡さんか、それとも音心か。恐らく全員予想外だったと思う。俺と長岡さんは心を読んで理解しているとはいえ、ここまでしっかり考えを見せるとは思っていなかった。


「その、恋愛は自由だと思います。例えば好きな人にわたしとは違う好きな人がいたとしても……諦められない気がしますし……」

「偽装彼女を立てたとして、琴歌の気持ちは変わらないってこと?」

「そうじゃない方、悟先輩が考えてる可能性も大いにあると思います。でもそういう可能性も、何ならわたしは、そっちの方が高いと思います」

「ふむ……」


 言われてみると確かに有り得る話だ。もしかするとこれまで以上に過激になるかもしれないし、一概に未耶ちゃんの意見は否定出来ない。


 そしてそんな未耶ちゃんを見て、音心はふふっと笑った。


「成長したわね、未耶」

「会長……!」

「今みたいな感じで、思ったことはちゃんと口にしなさい。全員が愛哩とか悟みたいに人の考えてることに敏感なわけじゃないし、言って初めて通じることなんて沢山あるんだから」

「は、はい! 頑張ります!」

「それでよし! ……で、悟。何のその顔」

「ああ、いや。何か音心が先輩みたいだなーって」

「れっきとした先輩よ!!! これでも生徒会長なんだから!」


 だらしない顔をしていたであろう俺にツッコミを入れる音心はいつもの親しみやすい感じだ。

 たまに出るこういうところ。やっぱりカリスマを感じずにはいられない。


「ただごめん未耶ちゃん。今まで放っておいた結果かわからないけど、日に日にそういうオーラを出してきててさ。そろそろこの辺で行動を起こしておかなきゃってのは前から考えてたんだよ」

「そうですか……。それならわたしは何も言いません。勿論、か、かの、彼女だって! ちゃんとします!」

「うん。ありがとね」


 むんという掛け声が聞こえてきそうな仕草で未耶ちゃんは協力を承諾してくれる。


「私は当然協力するよ、宮田くん」

「しょーがないわね、アタシも出来ることはしてあげる」

「ありがとう、みんな」


 三人の内心に裏は無い。心の底から言ってくれており、俺にとってそれが何より嬉しかった。


 こんなに良い人達に恵まれた俺は幸せだ。口にはしないけど、そう思わずにはいられない。


「で、その彼女カッコカリはどうやって決めるのよ」

「……」

「カッコつかないわねぇアンタ……」

「そういうことならあずにお任せ!!!」

「「「「!?」」」」


 バァン!!!!! とめちゃくちゃな勢いで生徒会室のドアを開ける。


 そこに居たのは、俺が生徒会に入って初めて受けた依頼の依頼主。立花さんだった。


 え、何でいるの!?


「話は全て聞かせてもらってましたよ! 誰が彼女に相応しいか、それなら一度デートして決めたら良いじゃないですか!」


 声高々に宣言する立花さんはやり切ったとでも言いたげな顔。


 ……一度デートをする? 突拍子もない提案に、俺は首を傾げるのだった。




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