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第49話 当たり前の異常、もしくは異常な当たり前

申し訳ありません……クソほど遅くなって本当に申し訳ありません……(  ˙-˙  )

「二人になったけど、どうする?」


 少し歩いて操二達と完全に別れたところで、俺は琴歌に訊いてみる。


「もうお昼だし、ご飯食べない?」

「ん。じゃあどこか入るか」


 今居る場所からぐるっと周りを見渡す。

 ご飯を食べれそうな建物はとりあえず近くにはない、か。じゃあ適当に歩いて探そうかな。


「あ、あの。悟君!」

「ん?」

「そこのベンチ……座らない?」

「え、まあ良いけど」


 お昼食べるって言ったのにベンチ? 休憩ってことか?

 俺が腰を下ろすと、隣の琴歌もちょこんと座る。胸に手を当て、深呼吸をしているようだった。


「もしかして琴歌、疲れてた? 気付けなくてごめん」

「いや、そうじゃなくてね……その。お、お弁当作ってきたんだけど……食べる?」

「おお、食べる食べる」


 お弁当なんて作ってたんだ。だからベンチに座ろうって言ったんだな。

 俺がこくこくと頷くと、琴歌は少し安心した表情で小さく息をついた。


「ほら」

「おお!」


 カバンから取り出したのは小さな弁当箱のようなケース。中には丹精に作られたサンドイッチが詰められていた。


「こんなのいつの間に」

「昨日の夜に下拵えをしておいて、今朝作ったの」

「あ、だから今朝は俺を先に行かせたんだ」


 そういうことだったのか。俺はてっきりまた琴歌の気まぐれかと思ったけど、ちゃんと理由はあったんだな。


(まあおにぃと待ち合わせがしてみたかったっていうのもあるんだけど……)


 うーん……? 一石二鳥だけど、良いことか……?


「上手く出来てるかはわからないけど……」

「もらうね」

「あ、どうぞ」


 容器の中から一つ取り出し口に運ぶ。まずはオーソドックスな卵サンド。パンには水気がなく、サクっとした表面のパンとゆで卵が良い具合にマッチしている。


「うん、美味しいよ。流石琴歌」

「えへへ……、前に愛哩さんに教えてもらったから。メモもとったんだよ」

「長岡さん……ああ、前に家に来てもらった時か。ちゃんと出来てて偉いぞ」

「ありがと、おにぃ」

「呼び方戻ってるけど二人だから良いのか?」

「あっ、悟君だった。……何だか恥ずかしいなぁ」


 普段呼び慣れない呼び方だと確かにむず痒いよね。それこそ俺も長岡さんを愛哩なんて呼ぶ時が来たら全力で照れるだろうし、その時の心を読まれてまたからかわれる。ありそうで怖いなぁ……。


「じゃあ次はこっちのサンドイッチも……うん、美味しい。上手になってたんだなぁ」

(お母さんにも手伝ってもらったけど、これは内緒で良いよね)


 あ、母さんに見てもらったのか。前手伝ってもらわなかったのは異性としての(って実の兄が言うのはおかしな話だけど)アプローチだったからで、今回は兄妹で行く前提だから。こんなところかな。実際は構造だけ見るとそれこそ異性としてだけど。


「琴歌ももらうね。……んん!」


 琴歌は口に入れた瞬間目を丸くして満足そうな顔をし、小さくやったと声を漏らした。自分でも上手くいったと思えたのだろうね。良かった良かった。


 結局俺と琴歌は、サンドイッチが全部無くなるまで食べていた。




 昼食を済ませ、適当にアトラクションを眺めながら歩いていると、正面に操二とソラちゃんの二人が手を繋いで園内を回っているのが見えた。どちらも楽しそうな顔で、何だか微笑ましい。

 声をかけるか悩むけど、このままだとやることがないんだよな。そう思い操二を呼ぶ。


「おーい操二ー!」

「ん? お、悟クン! それに妹ちゃんも!」


 気付いた操二がこちらへぶんぶんと手を振る。俺と琴歌は二人のもとへ歩いていった。


「今さーソラちゃんがメリーゴーラウンド気になっててね? オレも乗る? でも写真とか撮るのも良いし、けど一人で乗せるのはどうよとか考えててさー」

「それなら琴歌と乗ってきたら? 俺と操二はカメラ係ってことで」

「お、冴えてるね悟クン。てことで二人もそれで良い?」

「ソウジとも乗りたかったけど……、その代わり可愛く撮ってね」

「もち!」

「琴歌もそれで良いよ」


 二人の了承も得られたところで、俺と操二はメリーゴーラウンドの柵の外側に待機し、琴歌とソラちゃんには列に並んでもらった。


 メリーゴーラウンドに乗りたいとか、ソラちゃん可愛いこと言うんだなぁ。男としては正直メリーゴーラウンドの良さがわからないんだけど、どこか何かしらに魅力があるんだろう。一種の憧れってやつ?


「ね、悟クン」


 二人になるなり、操二が真面目な顔をして呼び掛ける。俺は声は出さずに視線だけ向けた。


「相談。もっかい乗ってくんね?」


 照れ臭そうに口元だけ笑みを作り、そう漏らす。自嘲めいたものもどこか感じた。


「俺で良ければ」

「やー、何かホント悟クンには頼りっぱなしだね。未耶チャンの時の相談だって結局力になれてはなさげだし」

「そんなこと……」

「まあこれは自己満の範疇だからさ。オレが納得出来てなかったら、それは力にはなれてねーの」


 そう言われたら何も言えなくなるけど……、本当に何も感じる必要ないのになぁ。ただそれこそ言っても意味は無さそうだ。


「じゃあ早速本題。やっぱさ、悟クンもおかしいと思う?」

「何を?」

「小学生と高校生が付き合うこと」

「!」


 いつになく真剣な眼差しで訊いてくる操二。その目は真っ直ぐに俺の答えを待っているようだった。

 小学生と高校生が付き合う。まあ、一般的な意見だと。


「遠慮なく言うと、やっぱり普通じゃないとは思うね」

「だーよなー……。そりゃそうだ、そこは言われなくてもわかってる部分だよな」

アイツら(・・・・)もそう思ってたわけだし。アレでソラちゃん傷付いてなかったら良いけど)

「たださ、それは字面だけ、表面だけを見た場合だよ。俺は操二とソラちゃんの間に何があったのか知ってるし、そこを加味すればおかしいなんて言うはずがない」


 俺はそこで一度言葉を切る。次の言葉を強調するため。


「おかしいなんて、言わせもしないよ」

「……っはは! 流石悟クン! 全部お見通しだなー!」

(やっぱすげーなぁ悟クンは。ドンピシャじゃん。オレが欲しい言葉そのまま)


 欲しい言葉そのままか。どこかで見たフレーズだね。そう思われたってことは、多分俺もこの能力の使い方を何となくわかってきたんだろう。


「丁度今日の話なんだよ。悟クン達と合流する前、オレはソラちゃんと別の場所で待ち合わせてから手繋いで向かってたんだけどね」


 さっきまでとは打って変わり、操二はリラックスした状態で話し出す。俺と琴歌と合流する前って言うと、大体九時半とかそんな頃かな。


「他校のツレにそれ見られてさ。あ、ツレつっても女じゃないよ? 普通に男友達。多分悟クンも一回だけ見たことあるんじゃねーかな」


 俺が見たことある……あっ、遅い時間に長岡さんと一緒に帰った時かな。あの時は確か操二が彼女を理由に合コンを断っていたんだっけ。


「初めは親戚の子守りか? なんて言われてね。そりゃそうなんだよ、オレとソラちゃんが付き合ってるとか普通思いつかないし」

「それはそうだね。知らなかったら俺でもそう思う気がする」

「そん時オレ言えなかったんだよ。ソラちゃんが彼女だって。適当にそんな感じだとか言って誤魔化して」


 はぁ、と溜め息をつく。操二は少し辛そうな顔をしていた。


「その後ソラちゃんなんて言ったと思う?」

「なんて言ったか……」


 大体選択肢は二つ。怒るか悲しむかだ。関係を誤魔化されたことは基本的にはマイナスに映るはずだ。

 後はそれを聞いた操二も辛く感じて相談してしまう発言。だとしたら。


「何で嘘ついたの?」


 こういう純粋な疑問が一番堪えるんじゃないかな。厳密には嘘じゃないんだけどさ。


「それもキッツイね。良い線行ってる」

「てことは違うのか」

「正解は『遊園地楽しみだねー!』だよ」

「……ああ、なるほどね」


 気を遣わせた。ソラちゃん自身が一番わかっている“異常さ”。それなのに操二を思いやって、気にしていないと言わんばかりの誤魔化し。


 確かにキツイ。


「初めはこれが一番良い選択だと思ったんだけど、早まったかなー」

「操二、それは……」

「だいじょぶだいじょぶ、それでも付き合わなきゃ良かったなんて言わないよ。ソラちゃんはオレの彼女だ」

(問題なのは恋愛じゃなくて親愛なこと。オレがソラちゃんを異性として好きになれないこと)


 操二の心中は穏やかじゃない。言葉の節々から自己嫌悪に似た何かを感じる。


(これも女を取っかえ引っ変えしたツケなのかもな。誰と付き合うことにも躊躇いがねーわけだし。あの子達とは付き合ってなかったけど)

「操二」

「ん?」

「操二がソラちゃんのことを真剣に考えていることはとてもよく伝わってる。だけど役者が足りていないよ」

「……あー、確かに! こういうのは一人で考えるもんでもねーか!」


 操二は顔を上げ、ふと口元を緩めた。切り替えの良さは操二の良いところの一つだね。


「やっぱやべーな悟クン! 何か相談したら全部答えくれるし!」

「そんなことないよ。多分俺がいなくても操二は同じ結論に辿り着いてたと思う」

「それはオレを買い被りすぎだわ。なんせソラちゃんと付き合うまでは常に六人は女いたよ?」

「今はソラちゃんだけでしょ? 浮気もしてないっぽいし」

「これ以上ソラちゃん悲しませてらんねーってな! あんがと、悟クン!」


 にかっと笑顔を見せる。本当に俺は何もしていないと思うんだけど、これもあれだね。操二が初めに言ってた自己満。役に立ったって思えてもらえてるなら喜んで受け取ろう。


「おーい! ソウジー! お兄ちゃーん!」

「だ、だからソラちゃん! おに、悟君はお兄ちゃんじゃないって……!」

「お、ソラちゃんもう馬に乗ってんじゃん! バッチリ写真撮るからねー!」


 メリーゴーラウンドから呼ばれ、大きな声で応える操二。ソラちゃんもそれを見て顔を綻ばせていた。


 確かに操二とソラちゃんにカップル感はない。だけど、少なくとも二人はやっぱり良いコンビに見え、つられた俺はふふっと笑ってしまった。

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