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第30話 初夏の足音

 その日の放課後。俺と長岡さんは生徒会を休んでソラちゃんの入院する病院へと向かっていた。勿論操二も一緒に居て、今度は前の相合傘のように二人きりではない。


「悟クンと長岡さんが仲直り出来てて何よりだよ。おめでとう」

「おめでとうは違うだろ……」

「いんや、こういう時はおめでとうで良いんだよ。な! 長岡さん!」

「まあ悪いことではないもんね」


 確かに悪いことじゃないけど、だからと言っておめでたいことなのかな……? まあ何でも良いけどさ。


「……そーいやそろそろ期末テストだなぁ。もう来週だっけ?」

「だね。操二は勉強出来てないの?」

「もーヤバい。オレ勉強だけは苦手なんだよなぁ……。いっつも赤点でたまに回避。悟クンは?」

「俺は勉強得意だから」

「宮田くんは張り紙にも名前載ってるよね。成績上位者のやつ」

「マジで!? 悟クンすげーな!」


 バンバンと俺の背中を叩く操二。運動部が思いっきり叩くな痛い痛い。

 うちの高校は成績上位者、五教科合計のトップテンまで名前が張り出される。一学年につき二百人程いるためかなりの狭き門だが、さっきも言った通り俺は勉強が得意なのでよく載せてもらっているのだ。

 ただ長岡さんも常連のはず、なんだけど……。


「前回は四点差で宮田くんに負けて六位だったからね。今回こそは負けないよ」

(あれ死ぬ程悔しかったんだから……!)

「……長岡さんって意外と負けず嫌いなんだ。知らなかったや」

「あっまた勝手に読んだでしょ! ダメって言ってるのに、まったくもう」


 腕を組んでふんとそっぽを向く。負けん気モードの長岡さん、ちょっと子どもっぽくなってる? 初めて見たから確証は無いけど。


「悟クンも長岡さんもすげぇなぁ……。よし、着いた着いた。んじゃパパっと面会受付済ませてくるわ! お二人はゆっくり歩いてきて良いからなー!」


 敷地に入ったところで操二は病院内へと走り出す。俺と長岡さんはよろしくと言って見送った。


「……今回は勝つからね」

「今回も勝たせてもらうよ」

「その余裕も来週までだからね、宮田くん!」


 ビシッと俺を指差して宣戦布告をする長岡さん。

 ……やっぱり、ちょっと子どもっぽくなってないか? そう思わずにはいられなかった。




「え……、じゃあソウジとはいっぱい会えるってこと?」

「そうだよ。やっぱりオレだってソラちゃんと会いたいからさ」


 ソラちゃんの病室。操二は頭を優しく撫でながらそう答える。ソラちゃんも嬉しそうだ。


「ま、と言っても週一日会えるのが三日に増えたってだけなんだけどね?」

「それでも、それでも嬉しい! ありがと、ソウジ!」

「あっはっは! お礼なら悟クンに言ってあげてよ! 悟クンが言い出さなきゃこうはならなかったわけだしさ!」

「お兄ちゃん、ありがとう!」


 真っ直ぐな目で俺を見つめるソラちゃん。俺は少し照れくさくなって頬をかいた。


「お兄ちゃんが言ってくれなかったら、あたし我慢してたと思う。ソウジに迷惑がかかっちゃうって思って」

「そっか。それなら良かったよ」

「うん!」


 ソラちゃんは破顔し、おでこを触ってふふっと笑う。何だろう、普通はあんまりしない仕草だけど……。


(おでこのキスは“祝福”……。『オレとソラちゃんの付き合った記念日にお祝いとして』、だったよね。ソウジ)


 嬉しそうなソラちゃんを見て、俺と長岡さんは自然と顔を見合わせて笑う。


(操二のキスした場所、そこだったんだな)

(だね。だけど宮田くん、今のことは言っちゃダメだからね? だって二人だけの秘密なんだから)


 コツン、と。

 俺の手の甲に長岡さんの拳が触れる。


(うん。俺も長岡さんも何も見てないし、何も知らない)

(んふふ、よく出来ました)


 俺と長岡さんは再度頬を緩める。

 昨日までのような不自然(・・・)はもうない。お互いそれを感じとって、自然(・・)に笑顔になった。


 さて、じゃあそろそろお暇しようかな。ずっと病室に居るのも二人に悪いし。


「操二、俺と長岡さんは帰るよ」

「おう! あれだな、今日のお昼の真逆?」


 ああ、確かにその時は操二が気を利かせて二人にしてくれたんだっけ。でも前提が一つ違う。


「操二とソラちゃんとは違って、俺と長岡さんは別に付き合ってないからな?」

「そう? まあ恋愛相談とかなら乗れるからいつでも連絡してよ、悟クン! んじゃな!」

「またね」


 俺は引き戸を開けて病室を出る。長岡さんもじゃあねと言って後ろを歩いていた。




「ねえ、宮田くん?」


 帰り道、空はまだ明るい。二人で道を歩く中、ポツリと長岡さんが言葉を零した。


「今回は本当にありがとね」

「こちらこそだよ。てかもうその話は終わっただろ?」

「んふふ、言葉が強くなってる。安心してくれてるんだねー」

「……」


 どうしてか恥ずかしくなり、たまらず長岡さんから視線を外す。それでも否定の言葉が出てこないのは、多分実際その通りだから。認めるのはやっぱり恥ずかしいけど。


「今日は何か暑いなぁ」

「梅雨も明けたらしいからね。これからどんどん暑くなってくるよ」

「そっか」


 空は一面の青。快晴に吹き抜ける爽やかな風は、初夏の足音を鳴らすようだった。

ジャスト30話でぴったり2章が終わって丁度10万字を超えて。

出来すぎなくらいでちょっと笑ってしまいました(笑)

ここまで続けることが出来たのも読んでくださる皆さんのおかげです。ありがとうございます!

そしてまだまだ続きますよ!(笑)

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