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第22話 ソラちゃん

「とりあえず紹介するね。こっち、オレの彼女のソラちゃん。五年生だっけ」


 ソラちゃんは声を出さずペコリと会釈をする。五年生に訂正がないってことは合っているのだろう。


 ……いや合ってちゃダメだろ。口にはしないけど。


「んでこっちが悟クンに長岡さん」

「長岡愛哩です。よろしくね、ソラちゃん」

「宮田悟です。よろしく」


 俺と長岡さんの挨拶に対しても会釈で済ませるソラちゃん。人見知りなのかな。


「ねえソウジ。コレ開けていい?」

「ん? ああレターセットね。どんどん開けて俺にラブレターくれると嬉しいな!」

「あははっ、何それ〜」


 さながら彼氏彼女(実際に彼らはそう言っているが)のような会話をする二人。

 (はた)から見たらただの事案現場だけど……。


「……ちょっと宮田くん。事案はいくら何でも失礼だよ」


 俺にしか聞こえない小声で窘める長岡さん。自分だって少なからず思ってるだろうに。

 とは言え、何かしら理由はあるんじゃないのかな。それまでの女性遍歴は普通だったわけだし。

 と、長岡さんが一歩前へ踏み出す。


「ねえソラちゃん」

「! ……は、はい?」


 いつもの万人に受け入れられるような笑顔。屈んで目線の高さを同じにしている。


「お姉ちゃんと恋バナしない?」

「え、え? 恋バナ?」

「そっ。女の子同士でよくするでしょ?」


 おお……、上手いな。恋バナしようって建前で事情を聞き出すつもりなんだろう。それに高校生は小学生から見たら大人だ。そんな相手と対等に恋バナをする。多少なりとも憧れはたるんじゃないかな。


「……あたし友達居ないからしたことない」

(みんな何考えてるかわかんないし……)


 一瞬、長岡さんの言葉が止まる。

 まあ結構重いことだもんな、友達が居ないって。こと小学生に限っては変に思い詰めたりしてしまうかもだし。


 俺と真逆だな。そう感じたのも無理はないはずだ。


「ソラちゃん!」


 パン、と手を叩く。長岡さん、いつも空気を変える時や仕切り直す時はそれやるよね。


「じゃあ私が初めてだね! 恋バナ第一号だ!」

「……でも、お姉ちゃんは友達じゃないし……」

(あたし小学生だし……)

「じゃあ今日から友達! 小学生も高校生も、友達には関係ないでしょ?」

「あ……!」


 長岡さんのその言葉にぱあっと顔を上げるソラちゃん。

 相手が欲しい言葉を選びとる。そうか、それが出来ると友達になるまでの時間が短縮されるんだな。それに仲良くなるのも早い。

 流石クラスの人気者だ。素直に感心する。 


「ね! だからお姉ちゃんに高槻君との馴れ初め教えてよ!」

「う、うん! ソウジ、良い?」


 ソラちゃんはキラキラした目で操二を見つめる。口元に笑みが溢れている。友達が出来て嬉しいんだろうな。


 そして操二は勿論嫌な顔はしていなかったが、どこか不安げな表情もしていた。俺はすかさず心を読んだ。


(ソラちゃん、変なこと言わないだろうな……)


 やっぱり何か隠してるんだな。強要してまで言えとは言うつもりないけど、多分重要なピースだ。じゃないと退部や女遊びから足を洗うといった生活を変えるような真似、出来ないと思う。


「ほら、男の子は外に出て! 男子禁制だよ!」

「ん……、まあいっか。ソラちゃん! あんまり恥ずかしいことは言わないでねー! ほら、悟クンも行こうぜ」

「あ、ああ……」


 促されるがまま病室の外へ出る。思ったよりも早い決断に少し驚いた。

 外に居る間どうしようかと思ったが、「こっち」と操二に呼ばれたため後を追う。

 自動販売機と数個並べられた椅子。俺と操二はそこで適当にジュースを買って腰掛けた。


「……んで? 悟クンは何かオレに聞くことないわけ?」

「そりゃ聞きたいことは山ほどあるよ。単なる好奇心じゃなくて操二の頼んできた問題解決のためって意味でね」

「答えられる範囲でなら答えるよ。流石にソラちゃんの個人情報とかは考えるけどさ」


 それなら好都合だ。後で長岡さんと得た情報を照らし合わせたら問題の筋も見えてくるだろう。


「じゃあまずソラちゃんのことだけど」

「見舞いだよ。多分後一ヶ月くらい入院しなくちゃでさ。病名とかはまあ関係ないからパスね」

「……彼女ってのは?」

「それは信用してもらうためだね。ほら、話してて感じたかもだけどあの子人見知りだからさ」


 でも、それで彼女……? これはあれか、チャラ男の考えることはわからないみたいな?


「……って言うと誤解生むかも。オレだって別に信用してもらうために誰彼構わず彼女にするわけじゃねえよ? 普通に考えたら小学生が恋愛対象に入るなんて有り得ないし」

「うん、まあそれはそうだよね」

「これオレとソラちゃんが出会った頃の話になるんだけど、本当に聞きたい? 割と長いよ?」


 そう言ってグビっと缶ジュースを煽る。操二の目はどこか遠くを見ているような気がした。


「聞かせてもらえるならその方がありがたいね」

「話すからには島本達への説明、しっかりしてもらうからね?」

「……一応聞くけど、それは上手くぼかしながらかつ納得させろって意味?」

「まあ言っても良いっちゃ良いけど、それならオレから言うし。本人からじゃなくて裏で繋がってる悟クン達に任せる。ここの意味をしっかり考えて説明してくれるとありがたいな」


 ジッと目の奥を覗かれる。モールでも同じことをされたな。俺や長岡さんみたいに心が見えるってわけじゃなさそうだけど、操二には何かしら見えているのかもしれない。


「先々週だったかな。オレが股かけてるのバレて修羅場ってたのが始まりだったんだけどさ」

「……始まり方が不穏すぎる」

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