ヒデト。異世界を受け入れる
「君は、別の世界からここに来たんだよね?」
カルマが僕に問う。
おそらく、別の世界というのは僕が今まで生きてきた、あの現実のことなんだろう。
ここが、異世界。つまり、僕のあたりまえを否定する場所なら、地球上に存在しない場所であるのなら、それは。
この年にもなって、サンタはいると大勢の人のの前で言い張るのと同じだ。
「ここは、日本じゃないのか?たとえそうじゃなくても、ここは地球上だろ?」
僕はおそるおそるカルマにたずねる。
ノーという答えは、かえってこないと確信しつつ、聞いてみることにした。
「日本?地球?それ・・君がいた世界の名前?」
ノーでも無かった。質問を質問で返されるとは想わなかった。
だけど、これで、この現状が現実味を帯びてきたようなそんな気がする。
精神状態が落ち着いてきたからなのか、僕の視界は少しずつではあるけれど開けてきた。
森にふりそそぐ、木漏れ日がカルマの顔を照らす。
十代後半くらいの、あどけない顔立ち。
その幼さにそぐわない銀髪のショートで、長いまつげが風にゆれている。
肌は褐色で、華奢な体に不釣り合いな、巨大なマシンガンのような物をせおっている。
それでも様になっていたのは、彼女が来ていた軍服のような衣装の存在感があったからだろう。
服も靴も土にまみれていたけれど、りんとした美しさがそこにはあった。
そんな彼女が真剣な表情で僕に疑問をなげかけている。
日本を知らないならまだしも、地球がわからないなんて。
彼女の言葉は、とても冗談には聞こえなかった。
本当に、知らないのだろう。
僕が知ってる、日本も地球も。
「僕は、地球にある日本っていう所から来たんだ。ここは、どこなのか教えてほしい」
まるで、自分の住所でもいうかのようにすらすらと彼女は答える。
「ここはロスト・ワールドのフォレスターという村よ。見ての通り、周りは沢山の木でかこまれているわ」
「木?これの事、木って呼んだ?」
僕は、木を指さし、学校の授業でならったディス イズ ア ペンのように、常識であることをわざわざ口にする。
「えぇ、木よ。私たちの世界ではそれは木、それが沢山あつまったものが森。あなたの世界でもこう呼ぶの?」
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「うん!同じだよ。これは木で、ここは森の中」
全くの見知らぬ土地で、自分と同じ日本人を見つけた時のような喜びがわきあがる。
喜ぶ僕の姿をみて、カルマは
「ほかにも同じところがあるかもしれないわね」
と、柔らかい笑顔で言った。
「さぁ、日がくれないうちにアジトに戻らないと。また、あいつがくるかもしれないから」
「あいつって・・・さっきの?」
「そうよ。あいつは必ず,またおそってくる。私には危害は加えない。けど、あなたは違う。あなたは、異世界からここへきてしまったから」
!そうか・・・彼女が無傷ですんだのにも納得がいく。
現地の人、この世界の住人には無害なんだ。
「どうして、異世界から来た人だけおそわれるんだろう」
ひとり事のつもりが声にでてしまっていたらしく、カルマが答える。
「あいつはこの世界の政府の使いだから、異世界から来た人が何か問題をおこすまえに対処する。それが、この世界のやりかたなのよ。私は、それが納得できないの。だって、おかしいじゃない。何もしていないのに、消されてしまうなんて・・」
消されてしまう・・。
やっぱり、山田はもう消えて無くなってしまったのか。
これから、あの男にねらわれ続けるのなら、彼と同じ運命をたど日も遠くないはず。
その前に、もとの世界に帰る方法を早く見つけないと・・。
「なぁ、えーと・・(呼び捨てにしていいものか悩む)」
「カルマでいいよ。私はヒデトって呼ぶから」
カルマがフランクな性格で助かった。
これで、変に遠慮せずに話せる。
「カルマ、僕は・・元の現実に。僕のいた世界に帰りたいんだ。もともと、ここに来たのは僕の意志じゃない。もう一人、一緒に来てしまった人は・・マントの男に消された。何か、何でもいい。少しでも可能性があるなら、それにかけたい」
僕は僕なりに考えていた。
ここが、あっちの世界の人にとって危険な場所であるなら、マンホールがあったこの世界の入り口を、完全に閉じてしまわないといけない。
そうじゃないと、また同じ事が繰り返されてしまう。
仮に、マントの男を倒しても、カルマの言う政府はまた刺客をはなつだろう。
そして、おそらく、こっちにはあの入り口をふさぐ事は不可能。
できるなら、もうとっくにやっているだろうし、わざわざ政府が動く必要もない。
入り口さえなければ、こんな事、起こりえないのだから。。。