謎の美少女、カルマ。登場
滴り落ちる血を想像していた目に、別の映像が映る。
目の前にいた山田が、まるで白い砂のようにサラサラと風に流されていく。
やがて、完全に姿は消え、跡形もなくなってしまった。
まるで、はじめからそこにいなかったかのように。
「どっ・・どういう」
口から言葉がこぼれる。
どういう事なのか、いったい何がおこっているのか、僕には理解する事ができない。
定まらない目の焦点をどうにかマントの男にあわせる。
マントの男がゆっくりと僕に近づき、言った。
「あいつは嘘をついていた。私にはわかる。イセカイニきたやつは皆、あんな奴ばかりだ。だから、殺す。どこにいても見つけて殺す。もちろん、お前もだ」
「っ・・僕をこっころすなら、どうして山田を先に殺したんだ!」
恐怖と怒りがまじった声がのどからあふれ、それを止めることができない。
「ここは!異世界じゃない!現実だ!あんたは人殺しだ!人をっ・・」
僕は山田が嫌いだ。
だけれど、彼がこの男に殺されるすじあいはない。
森に火をつけてしまったけれど、それはわざとじゃない、そのことで警察につきだすなら、まだ分かる。
だけど、殺していい理由にはならない!
そうだ、冷静に考えれば、これはおかしいことなんだ。
急に現れて、人を殺すなんて!
こいつは無差別に人を襲う通り魔と同じだ!
僕は心の中の怒りを燃やした。
恐怖と言う感情を消し去るために。
しかし、僕の怒りの炎は恐怖という名の冷水で消されていく。
マントの男の鎌が僕の頬をかすめたからだ。
「いせかいにきたやつみんなしね」
さっきまで普通に会話していたのが、嘘のようだった。
マントの男は、意志疎通が出来ないロボットのように言葉を繰り返す。
「いせかいにきたやつ皆死ね」
その言葉と同時に、何度も振り落とされる刃。
それは、僕の体の間一髪の所でそれ、地面につきささった。
黒いマントの男が、また攻撃をしかけてくる。
もう、僕にはその攻撃をよける体力も逃げる力も残っていない。
地面を這いながら、かろうじて動く両腕を前へ、前へと動かす。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「だめだ・・もう動けない」
音のない森の中、僕はその場で力つきた。
もうろうとした意識の中でかすかに音が聞こえた。
マントの男の足音。
それと、もうひとつ・・
「政府の化け物!彼から離れなさい!」
女の子の声だ。政府の化け物とは、マントの男の事だろうか。
力強く、それでいてどこか優しく、包み込むような声。
ドドドドドっ!突然銃声がひびく。
彼女の武器?その銃声はマシンガンそのものだった。
彼女とマントの男が戦っている。
どちらが優勢なのかはわからない。
僕の気力と体力はすでに限界で、体は鉛のように重く、視界はぼやけていた。
彼女が僕の近くに来てわかったことは、華奢な体に似合わない大型の武器を持っていた事くらいで、彼女が今、どんな顔で僕の事を見下ろしているのかさえ、謎だった。
マントの男といい、謎が多いものは恐怖心をあおる。
まだ、あかされていない真実が牙をむき、自分をおそうかもしれないと、感じるからだ。
だけど、僕はその時。
恐怖心どころか、安心感という感情をいだいていた。
「もう大丈夫。あいつは遠くに行ったわ」
彼女の声が、僕の弱り切った心を癒していくのがわかる。
「ほら、私につかまって」
そういって彼女は、僕の右うでを彼女の肩に回し、僕の体を空の方へと引き上げた。
「近くにアジトがあるわ。そこまで、歩ける?」
「うん・・平気・・だ。ありがとう・・」
「どういたしまして。ところで君の名前は?」
「田中 ヒデト・・・。君は?」
「私は、カルマよ。よろしくね。」
あっさりとっした口調でカルマは言った。
生い茂る草をかきわけ森をぬけていく。
カルマに聞きたいことは、数え切れないほどあった。
ここは、どこなのか。
黒いマントの男は何者なのか。
山田は本当に死んでしまったのか。