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異世界に来たやつ皆、XX !  作者: なみやん
第一章  異世界へ
3/8

ヒデト。黒いマントの男と出会う

真っ暗だ。

 何も見えない。

 ただ、耳は聞こえる。

 この音は・・・小鳥のさえずり?

 その音に乗って風が頬をなでていく。

 「おい!兄ちゃん!しっかりしろ!聞こえてるか?」

 思い瞼を上に押し上げ目を開くと、さっきの男が心配そうに僕の顔をのぞき込んでいるのがわかった。

 「こっ・・ここは?」

 僕は男にたずねる。

 「分からねぇ・・。見たところ森の中だ。さっきまで、路地裏にいたってのによ。あ・・、

そうそう財布。ほらよ」

 男から手渡された赤色の財布を受け取る。

 中身は思った通り、空だった。

 「悪かったよ・・ちょっと、借金があってな・・。それに金あてちまって。今日の飯代が無かったから・・とっちまったんだ。それで、お前の財布の金は、さっき落としちまったから・・今どこにあるか分からねぇ。すまねぇ。」

 素直に謝る男の姿を見て、僕はせめることをあきらめ、言った。

 「事情は分かりました。こんな事、これっきりにしてくださいね。」

 「おう・・分かった。」

 万引きした犯人とその店の店長のようなやりとりに、僕はあきれた。

 「で・・あなたの名前は?」

 僕は男にたずねる。

 もちろん、これは尋問などではなく、ごく普通の問いなのだけれど。

時と場合が日常会話にピタリとはまるはずもなく、客観的にみても、僕が彼に尋問しているようにしか見えない。

 そんな僕の気持ちをよそに、男のひきつった笑顔がゆるむ。

 「おっ俺か?俺は山田 太郎だ」

 「・・・・・・・」

 「嘘だと思ってんだろ?偽名じゃねぇ!本名だ!俺は山田 太郎だ」

 「そうですか・・僕は田中ヒデトです。よろしくお願いします」

 「なんか・・ヒトデみたいな名前だな。まぁいいや。よろしく」

 その一言でふと思い出す。そういえば、僕は小学生の頃のあだ名はヒトデだった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「やーい。ヒトデ君!ヒットデ!」

 子供というのは、なんと無邪気で残酷なんだろう。

 今思えば、どうでもいい位くだらない問題でも、あの頃は違った。

 ヒトデ君。そのあだ名のレッテルは、決していいものではなかった。

 体育の授業のマット運動の時間。

逆立ちをしてマットの上に華麗に着地するはずが、うまくいかず。そのまま、マットからそれて体育館の冷たい床の上に倒れてしまった。

 その姿を見て、同級生達はケラケラと笑い声を上げ、ある一人のやんちゃな男子生徒が

 「見ろよ!ヒトデ君がヒトデになった!」

 そう叫びながら無邪気に体育館をぐるぐる走りまわり、周囲の笑いを広げていった事。

 あれは、忘れたくても忘れられない。僕の失態だ。

 「これから・・どうするよ」

山田が言った。

 表むきには敬語で話すけど(いちおう年上だし)心の中では呼び捨てでかまわないとしよう。

 「まず。ここはどこなのか、調べないと」

 僕は左ポケットから携帯を取り出しGPSを起動、場所を調べることにした。

 「おいおい!警察に連絡は勘弁してくれよ~」

 田中はなさけない声で僕に頼み込む。

 どれだけ信用されていないんだ僕は。

 まぁ、ついさっき初めて会った人を信じろっていうのは、無理な話だけれど。

 「そんなんじゃありません。ここがどこなのか調べて・・!」

 「そうか・・ふう。安心したぜ」

 「・・・だめだ。調べられない。ここ・・圏外です」

 「圏外?まじかよ~。」

 そう言いながら山田は、タバコとライターをズボンのポケットから取り出し、一服している。

 本当に、危機感がない男だと思う。

 「山田さん、こんな森の中でタバコ吸っちゃだめです。もし、山火事にでもなったらどうするつもりなんですか」

 「なぁんだよ。そんな細かい事、気にすんなって」

 言葉にすれば、それが現実になるとはよく言ったもので、不運にも山田のタバコが彼の指先から滑り落ちる。

 


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 



「うっうわ!やっちまった!」

 そう言いながら山田は急いでタバコの火を消そうとする、が、足で何度踏んでも火が消える気配はない。

 「どっどうなってんだ?これ?」

 山田はもはやパニックになっていた。水でもあれば消せるのに、どこを探しても水道はおろか湖さえ無い。

 男二人、なすすべをなくしていたその時。

 バシャ!

 どこからか、タバコに向かって水がまかれた。

 「うっしゃ!消えたぜ!ふう。あぶなかったな」

 山田がうれしそうにはしゃぐ。

 「そうですね・・でも、いったいどこから水が・・」

 あたりを見渡すも森、森、森。

 小鳥も姿を潜めているのか、姿は見えず、声だけがあたりに響きわたっていた。

 「っ・・!」

 思わず声がつまる。

 首をしめられたような感覚。

 それは自分だけではなく、山田にも同じように与えられているようだった。

 「かっ・・こりゃなんだ・・?」

 「わ・・か・・りません・・」

 思えば、ここに来てから分からないことだらけだ。

 いつもなら、携帯で調べればすぐに分かるのに。

 知識を多く得れば、天才になれたような気でいたけど、結局、携帯がなければ何も出来ない事を僕は痛感する。 

 森の向こうに人影が見えた。と同時に、真っ黒いマントの大男が目の前に現れ僕達に問う。

 「この森に火をつけたのは、どっちだ?」

 その質問の意味を僕らは理解した。

 でも、答えられない。

 喉の苦しみは、解けている。問題はそこじゃなく、もし、僕が正直に答えてしまえば山田がこの黒いマントの男に殺されてしまう。そう、感じたからだ。

 「悪いことをする人は、反省してもまた繰り返すものよ」

 母の言葉が脳裏をよぎる。

 まるで、これから起きることを予言するかのように。






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