ヒデト。異世界へ行く
財布を盗んだ男は、年齢三〇代位の痩せ型で身長は一七〇センチほど。くたびれたTシャツといくつか穴の空いたズボンをはいている。
逃げる男は必死だった。
まさか、ここまで僕が追いかけてくるとは思わなかったのだろう。
言わせてもらうが、僕もあんたがここまで逃げるとは思わなかった。
いつの間にか僕たちは、人気のない路地裏に迷い込み、そこで男は足を止め僕に言い放つ。
「こっこのガキ!しつこいんだよ!こんなボロボロの財布、どうせ中身は大した金入ってねぇんだろ?はぁはぁ」
息を切らしながら、男はその場に座り込んだ。
「はぁはぁ、僕にとっては、大したお金なんです。それに・・その財布は妹が買ってくれた大切なものなんです。だから・・・」
これは、返してもらうためについた嘘じゃない。 本当の事。
去年の誕生日、二歳年の離れた妹からプレゼントされた赤色の財布。
普段、派手な色の洋服などは選ばない僕に、たまには明るい色も良いんじゃない?といって手渡された財布だ。
最初はあまり気に入ってなかったけれど、使っていく内にこの色の良さが分かってきた。
今では、僕のお金を預かってくれる。頼れる相棒のような存在。
「へっそうかよ・・じゃあ、中身だけもらっとくぜ」
そう言って男は僕の財布から小銭を取り出そうとした。その時
「うっうわあああああああああああああ!」
男の背後にあったマンホールのふたが吹き飛び、男が僕の財布と共に、その穴に吸い込まれていく。
「たっ助けてくれ・・!」
男は地面にしがみつき、必死に抵抗する。
「手を!つかんで!」
僕はその男の手をがしっとつかみ、引き上げようと試みる。が・・
それは、惜しくも失敗に終わり、僕は男と共に穴の向こうへ吸い込まれてしまったのだった。