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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

回廊十夜。

作者: 丹

初めてこのタイプの話を書いてみました。

思い切り「夢十夜」のインパクトを受けています、ダークな世界観好きな方どうぞ。

好きなように綴るので、不定期更新が主です。

彼女の心の回廊をただ歩みゆく。歩を進めるのか、逆なのか。

奥の部屋は、病弱な貴方を介抱するための医務室、扉を開けて、あの時の思い出をたどれば、

儚げな花を一面にちりばめて、笑わない彼女がただ横たわる。誰かがすすり泣く、彼女の手を強く握りながら。

それを誰だか分かっているくせに、その部屋を後にする。


次の部屋は、物狂いな人の部屋。

壊れる玩具を沢山壁に打ち付ける、火の粉が飛んできそうなつんざくような悲鳴。

その声を聞いてしまったら、耳障りな毒で死んでしまう、と扉を閉める。


3番目の扉を開けよう。オルゴールの音色響く、憩いの場。

ここで編むマフラーを彼女は誰に編んでいたのか、僕には皆目予想だにしなかった。

足音もなく近づき、手編みのマフラーを首にかけられ、優しい声色で問いかけられる。

「貴方はだぁれ?」その返答を待たずとも、彼女は倒れて赤いマフラーが僕を縛る。

首をきつく拘束され、息がするのも苦しくてでも逃げない。逃げられなかった。

見下ろす彼女を見るのが怖くてこの部屋から息苦しくて逃げ出す。


回数を心で数えながら、また扉を叩く。

開けずに叩く、怖くて切なくて物悲しくて開けられない。

ガタガタと音がして、目に涙が満たされれば、開けずとも分かる感覚とは何なのか。

罪人の目が隙間から見え、溢れるほどの恐怖で身がすくんで僕は後ずさりしながら他の部屋を開ける。


数えるのを辞めながら、扉から綺麗な筋張った指が「おいで」と僕を抱きしめて浚った。

身体中をキスの雨で降らせれば、何かを思い出すのかと思いきや、僕なのか彼女なのか、

吐息が答えを出さずに、雨を終わらせ、衣擦れをなかったこととして毅然と立ち去る。


息が荒いのは先程の何かなのか、と熱を帯びれば、

次に訪れたのは、氷のような世界。

肌で寒いと凍えれば、目で何かを察知して逸らす。

身も心も正気に戻り、何が正気か問いただす。

凍って居なかった、誰も。誰も居ない部屋。


歩を進め、チェス盤に躍り出る。

僕はようやく、狂ってしまったのだ、と狂気の沙汰に陥った自分をチェス盤の上にある鏡を見やる。

そこには疲れた顔の僕が、不意に何の気なしに微笑んで、ガラスを壊す。

バラバラと、割れた破片で僕は額を切った事を流れる血の味を舌鼓を打ちながら、

誰かが僕の頭を人差し指と親指の腹で持って、「チェックメイト」と呟く。


そして、チェス盤から捨てられると、そこには無の境地が佇む。

何にもない。誰も居ない、畏怖もなく、愛もなく、是非を問う、そんな事もなく、

僕は居心地が良くて、少し横たわる。永遠に寝てしまえ、そう思うのに閉じた瞼は開かれた。僕は起きる運命に翻弄されるらしい。

ただ何歩も違わぬうちに。


涙を携えるそんな世界へ出た。

みんながみんな泣いており、誰も助けず、誰も慰めず、誰も慰め者にしない。

その代わり、ただ泣く。涙を流し、その涙が滝となり、洪水となり、泣いてるみんなは流されて見えなくなった。嵐の訪れた後のように、僕は清々しい気分に見舞われる。あんな泣いてるみんなが、まるで居なくなってスッキリしたとでも言いたげに、心の遅延性の棘が後で喉に突き刺さる雨のように。


中央の部屋の扉を開ける、そこは砂時計の沢山置いてある、迷宮のような複雑な迷路。

人の命を砂時計だと、語る魔女の思惑を身に染みて感じ取る。何故だか出口を知っていた。

右へ、左へ、ランプの灯をいつの間にか手に持ちながら、僕は何かを思い出す。

「何か」とは何かと、魔女に問われながら砂時計を手に渡される。

冷えて皺が寄った手に、感じない心は不感症なのかもしれない。


砂時計は、舞い散る砂塵のように少しずつ僕から「何か」を奪うんだ。


光の差す出口の扉を開ければ、そこは向日葵の一面咲く花畑。

砂時計が一瞬で割れて、そこには彼女が立っていた。

居ないはずの、妖?いや、それよりも、そんなことはどうでも良かった。


「私の目はあなただけを見つめてる」


囁きながら、甘えるように抱き着かれれば、幸せな終わりへライトの灯が一斉に掻き消える。

駆け巡る、貴方を護り切れなかった、僕の不遇を告げる音色。


「あなたを、一人にはさせないわ、永遠に」


向日葵は笑わない、泣きもしない、助けもしない。ただ僕もあなただけを見つめてる。

そこは死神の…楽園。凍るような背筋が僕にあれば、そんな感情があれば、僕は不感症なんかじゃないから。でも、ここは僕と彼女の、アダムとイブの永遠の楽園だから―関係ないよね、彼女さえ居て僕が居て、

世界に二人さえ居れば。横たわるものが何かなんて、僕「は」知らなくていいんだ。


「僕も、あなただけを見つめてる。罪と共に、お供します…永遠に」


神聖不可侵な花として崇拝し、憧れ、あなたは素晴らしいと、最期に嘯いた。

貴方に恋した咎と、僕への贖罪。あなたへ全部「何か」を託すよ。


「だから、離れないでね」

いかがでしたでしょうか?

従者は何を思うのか、彼女は何なのか、など考察めいた物語は初です。

よろしくお願い致します。

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