夏野菜カレー
家庭料理の定番カレーが、頑固者の手に掛かり、理論武装。
暑い日こそ、辛いもの──というのも案外乙なのかも知れない。
おう、どうした兄さん。
なに、『久々に通りがかったらカレーの匂いがしたから』だと?
こちとら餓鬼の時分からカレー好きなのさ。じっくり煮込んだチキンカレー、衣さくさくのトンカツを放り込んだカツカレー。どれも垂涎ものよ。
おっと、そう期待しても今日はそんな大層なもんじゃねえぞ。
晩夏や秋口にこそ、夏野菜でカレーを喰うのも乙ってもんだろうさ。
茄子と玉葱、ピーマンなんかが良いだろうな。肉は挽き肉にすると味わいが増すし、相性もいいはずだ。キーマカレー宜しく、水とルウだけじゃなくて、水を減らす替わりにカット赤茄子を入れるといい。
知ってっか。温赤茄子ってのは身体にいいんだ。生より、こっちの方が推奨されているくらいなんだ。
本来、栄養価ってやつは加熱で壊れちまうものでな。ビタミンC、これも加熱で吸収量が下がる栄養価の一例だ。と言っても、芋なんかは加熱しても壊れないそうだ。脂溶性か水溶性かの違いがどうとか言ってたような気もするが……思い違いだったか。いや、本当に思い出せなくなっちまった。
大航海時代に船乗りが壊血症対策の食材にしたことで、一躍有名にもなったらしい。要は、この病気。極度のビタミン不足ってこったな。
悪い、話がそれちまった。
トマトの色素、リコピンは抗酸化作用で注目された訳だが、このリコピンは加熱によって身体に吸収されやすい形に変化するらしい。
栄養が欠如するどころか、健康成分が吸収しやすくなるってんだから素晴らしいな。
俺は、独り暮らしの時にカレーを作ると、大体赤茄子を放り込んだもんさ。ルウと水だけなんて勿体ねえよ。味も、赤茄子の酸味でまろやかに仕上がるし、深みも増す。
“赤茄子が赤くなれば、医者が青くなる”ってのは、強ち間違いじゃないのさ。先人方もよく知ってるぜ。
更に、押麦を混ぜて飯を炊くと、食物繊維も摂れる。
気候の変動が激しい今時分にはちょうどいいんじゃないかと、俺は睨んでるんだ。
そういえば、カレーと言えばだな。
昔一人で遊びに出た時、駅の近くに自家製カレーを食わせてくれる小料理屋があったんだ。
そこのチキンカレーの味わいの深い事と来たら、肉は柔らかで野菜もふんわりととろけていた。
また味わってみたいところだが……。
なに、『焦げ臭い』だと。
なにを馬鹿な──おいっ、焦げ付いてるじゃねえか!
新入りテメェ、何やってやがるんだ。
悪い、兄さん方。
……チキン南蛮定食でもいい?
恩に着るぜ。
しっかし、『日替わりメニューのカレーが駄目になった』なんざ、笑い話にもならねえよ。
慰めるな、これ以上は主に俺が辛い……。
キンキンに冷やしたラムネとカレーの構図が、案外絵になるのかも知れない(割りとどうでもいい)