思い出の一品
蘊蓄回というか、談義的なアトモスフィア。
やあやあ、暫くぶりじゃねえか。
今日の通しは納豆とキムチだ。
……なに、『臭い』だと?
そう言えば以前から疑問だったんだがよ、同僚にも聞いたんだ。「納豆とにんにくだったら、にんにくの方が臭いだろ?」ってな。
そしたらそいつがな、「いや、納豆の方が臭いだろ!」と真顔で返してきてな……。昔なんかのテレビで、納豆って世界で三番目に臭いと言うランキング付けがあったらしい。二位がくさやだったか。一位は勿論シュールストレミング──話題によく上がる缶詰めのアレ──だ。
つまりだ。俺が愛する納豆は、臭いと不評な訳でな。愛している身としては悲しいもんさ。
因みに、ひきわり納豆の方が栄養価が高いらしく、特にカルシウム吸収促進に効果的なビタミンK。これが粒納豆より多いって話だ。
……粒納豆の方が、豆の味を楽しめるから俺は好きなんだがな。
要は表面積の話で、ひきわり納豆の方が表面積が広い分、粒納豆より納豆菌も豊富ってわけだ。
納豆トーストも捨てがたいな。チーズを加えるだけの簡単料理だが、朝食には持って来いだろうさ。
あぁ、分かった。分かったから!
ほら、通しのキムチを貸せ。兄さん方もだ。豚キムチにしてやっから。嫌いなもんを無理くりにすすめるとあっちゃあ、家庭的の歌い文句も形無し、ってな。気にするこたぁねえ。食材は余ってるんだ、豚肉の切り落としがな。どうにもバラ肉って奴ぁ、脂が多くてイカン。さっぱりした味の方が食欲も増すってもんだ。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
どうした、品書きなんか出して?
あぁ、それ──卵とウィンナーの炒め物──か?
確かにな、レシピも何もあったもんじゃねえよ。でもな、このメニューは俺の思い出のひとつなんだ。
昔な、俺と親父は伯父貴の家で厄介になってたんだ。
……まぁ、家庭で一悶着あったのさ。
ただ、この伯父貴は人が好かった。悪いことは悪いと、親以上に叱り飛ばされたこともある。だがそれ以上に優しい気性でな、俺にしてみりゃあ親父がもう一人いるようなものだ。
そんな伯父貴だが、料理は苦手だった。昔気質な職人だからな。何より寡黙な人だ。
ある日、伯父貴と二人で夕食を摂ることがあったんだがな……。その日、おかずも何もなくてな。
『お前は座ってろ、ちょっとおかずを作る』
そう言って伯父貴は台所に入ったんだ。
しばらくして完成したのが、その炒め物だったってわけさ。他愛のない話だろ。
味は塩コショウ。
さほど辛くもないし、寧ろ丁度良い味付けだった。
──嬉しかった。
普通な、甥っ子ったってそこまでするか?
今でも帰るとな、無口な伯父貴が冗談言って笑うんだ。何を馬鹿な、とは思ったけどよ……伯父貴のお袋──俺の婆さん──はもう居ないんだ。
色んなこと背負ってるんだと思うぜ、施主──施行依頼主であり、お客様──との相談やら、同業者との段取り。果ては施工上の責任も、だ。
それでも変わらないスタンス、流石漢だ。
尊敬するね。
……参ったな、これじゃまるで惚気だ。誰が舎弟だ、誰が。
くそっ、酒の肴にでもしやがれ。あぁ、今日は暑くていけねえや。
切って焼いたウィンナーを、トーストに乗っけても美味しいですよね(^q^)