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如月 恭二 食のススメ  作者: 如月 恭二
3/10

底冷えのする日のお品書き ~和風汁もの編~

妹は可愛いものだ、抱きついたり、prprしたりして然るべきだろう?

 汁ものってなぁ、いいモンだな!?

 ……あっと、悪い悪い。つい興奮しちまった。兄さん方が来ていたとは知らなんだ。打ち込むと周りが見えない、この悪癖ってやつが憎いもんさ。

 まあ、なんだ。山間部に引っ越してこっち、寒さには悩まされていてな。

 お陰で毛布一枚から毛布二枚にランクアップする始末だ。

 放射冷却というやつでな、地表付近の温度が急激に下がるんだ。これがまたきつくてな。

 しかも、だ。なんと今日は朝から雪と来た!

 天気というやつは、昔から人の心に例えられる程だが、今日ばかりはせせら笑っているんじゃねえかと思うくらい恨めしく感じた。


 そんな現状だからか、汁ものが恋しくて仕方ねえ。

 鍋やシチューも捨てがたい。

 今夜は、ちょいと一杯引っかけてみたいところだな。最近は酒を呑む機会がめっきり減っちまってな、つい呑みたくなる瞬間がある。ただ朝は早いから、控えている。ある意味禁酒に近いな(笑)


 さて、今日は豚汁と味噌汁がおすすめだ。

 俺の、いわゆるおふくろの味ってやつでな、だしを取るところから始める。

 意外に思うかも知れねえが、これは俺の婆さんから習ったんだ。漬け物もその一つってな。

 照れ臭くて“ありがとう”なんて滅多に言えなかったがよ、今なら言える。まったく、人生ってのは何処までもままならねえもんさ。

 孝行のしたい時分に親はなし。昔の人は本当にうまいことを……。


 ──っておい!?

 誰だ、俺の取っただしの上からだしの素を入れたのは!? どう見たってこれはだしの素だろうが。見ろ、この粉を。

 なに、新人がやった?

 ……後で“オハナシ”するしかないようだな。


 (あの野郎、後でしばき倒す!)


 新人の処遇についてはじっくり検討するとして、少しばかり能書きを御披露目といこう。

 山菜でも汁に合うものは多いが、どうだろうな。俺ンとこだと、山菜汁なんてのは割りとよく耳にするんだが。

 ま、個人的にじゃが芋とゼンマイの味噌汁は絶品だと思うが。

 このゼンマイってやつは、繊維(せんい)()みほぐしてやったあとに灰汁抜きしたり、と中々手間の掛かるモンでな。繊維をほぐしてやったあとは干して、十キロが一キロ前後に目方が減るとかな。水で戻すことを前提としているから、目減りするんだ。

 それで保存用でもあるというな。昔の知恵は素晴らしいな。

 やはり手の込んだものもいいが、単純(シンプル)なものの方が恋しい時もあるな。とは言っても、単純なものの方が難しい時もあるが。



 話は変わるが、俺はじゃが芋が好きでな。ポトフやカレーにごろごろしたじゃが芋が入っていると嬉しいもんさ。

 焼じゃがもいいぞ。

 一昔前では、屋台のお品書きとしては割りとポピュラーなものだったらしい。ヴィクトリア朝時代のイギリスの屋台でも結構並んでいたとかなんとか。

 “小公女”で、セーラがじゃが芋頬張ってるシーンはなかったと思うが……さて、どうだっただろうか。すっかり忘れちまった(笑)

 そういえば、じゃが芋の元祖はアフリカ原産で毒があるらしい。

 なんだったか……確か、解毒策として泥を付けて食べるとか聞いたことがある。特殊な泥で、毒じゃがと食べることで毒の影響を受けないだとか言っていたっけ。

 そんなルーツを持つからか、じゃが芋の芽には毒があるというのは昔からよく言われてる。

 ──『じゃが芋の芽は食べるんじゃない』とな。

 これは実話なんだが、大事な試験の前日に大酒呑んで『じゃが芋の芽を喰うぞ!』とか喚いて喰って、当日病院に搬送された人が居たとかな。

 

 しかし、この毒成分は“タンニン”──じゃなかった、“ソラニン”って言うんだが。

 緑色に変色した皮にも含まれているらしい。ついでに、発育不良のじゃが芋も食用に適さないと聞いたことがある。


 (なんだったか、ウミヘビの毒の中和にタンニンがいいとか聞いたな。あれは、紅茶かなにかに多く含まれていたか。……そういえば、それが出てたのって名○偵コ○ンとかいう漫画だったような、そうでもないような。今度見返しておこう)


 しかし、フランスでは“大地の林檎(りんご)”とされ、“ボン=ヌフ”だとか言われているらしい。

 高価なイメージのフランス料理だが、何処だったかな。

 (重ね重ねうろ覚えですまんが)ドーフィネ地方とかいう場所は名産地で、家庭料理はじゃが芋のフルコースさながらだとか聞くな。

 聞けば、家庭的で素朴な味わいらしい。

 こうして海外の食事に思いを()せるのは楽しい。……少しばかりよだれが垂れてきたのは失態だが。


 ……まさかじゃが芋ひとつでここまで話が脱線するとはな。

 早くも二度目の失態だな。

 おい、そこの兄さん寝てんじゃねえか?

 マジかよ、寝てんのかよ……。

 起こしてやってくれ、(さかな)もなしじゃ周りに示しも付かねえし、な?

 おっと、お品書きはこっちだ。


 (そんな眠たかったのか……もう少し話の配分を考えておくか)



 ○豚汁

 人参、ごぼう、こんにゃく、油揚げ、豆腐、豚肉の切り落とし適量を用意する。お好みで椎茸も使用可能。

 人参は3~5㎜程度のいちょう切り、ごぼうは笹掻(ささが)き。こんにゃくは湯通ししておき、油揚げは油抜きをして短冊切りにする。豆腐はさいの目状に切る。

 如月のだしは、“いりこだし”。

 四人前なら30~40g前後を、沸騰した湯で10分程度煮る。後はあら熱をとり、人参とごぼう、少ししてからこんにゃくと豆腐を入れて煮込む。勿論、灰汁は取る。取った頃に豚肉を入れ、色が変わるまでじっくりと火を入れる。

 煮たったら味噌をとき、味を見て調整。塩梅(あんばい)がよければ完成。


 他にも、里芋を入れたり、ネギをアクセントにしたりする。

 寒い季節にうってつけ。刻んだ白菜を少量入れてもいいかもだ。


 ○味噌汁

 里芋(またはじゃが芋)、豆腐、わかめ、油揚げを用意する。

 キャベツを入れたり、白菜を入れたり、大根を短冊切りにして具材にするのも可。

 煮えにくい具材を入れ、煮詰める。

 火が通ったら、火を止めて味噌を解く。味を見ながら、じっくりと。勿論、だしはいりこ。


 人参もいいな。具材のリクエスト受付中。




 しっかし、味噌汁はいいな。

 なんかで聞いたが、呑むと味噌汁が飲みたくなる人が居るらしい。

 案外、アルコールでミネラルが飛んだ所に味噌はいいのかも知れんな。

 ……だからって、味噌をそのまま渡すのはどうかと思うが。


 それというのも、「味噌汁が飲みたい」と言ったら味噌を手渡された御仁が居るらしくてな。

 「何が悲しくて味噌を三つも常備してなきゃならないのよ!」と、泣いてたようだ。酔っ払いって大変だな。

 唐揚げにレモンを掛けたら激怒したり、ホント酔っ払いってのは可愛くもあるんだが鬱陶しくもある。難儀なもんさ。


 何、団子汁が欲しい?

 お前さんら、絶対大分出身だろう……。

──お巡りさんこっちです!

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