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如月 恭二 食のススメ  作者: 如月 恭二
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アオリイカのお刺身。

如月が釣り上げたイカを振る舞う。

 へい、らっしゃい!

 久しぶりだね、生きてたかい?

 なに、『大将(オレ)も生きてるのか』だァ?

 へへっ、残念ながらこの通りピンピンしてるぜ。


 でもまあ、恥ずかしながら俺はちょっと参ってた時期もあったんだ。

 個人的になんだがよ、今の世の中、何処見たって「生きづれえな……」と思うことの方が多い。それを押し付けたり、ましてや共感してもらおうとも思わねえけど、この情報化社会と人間同士のしがらみやいざこざ。その上、我慢することも当然多い。

 たまに思うよ、「一人になりたい! “協調性”だなんだと、もううんざりだ!」ってな。

 そんな時、俺は『釣り』に出会った。

 高尚な遊びじゃねえけどよ、面白いだよこれが。


 でも、人間ってなァ勝手だぜ、「一人になりたい」って言ってるが、釣り場で見ず知らずの人の優しさに触れれば、『そんな人間ってのも悪くねぇな』って思うのさ。

 それに、魚達と触れあうし、周りに人がいなければ確かに一人の時はあるが……命達がそこにあるんだぜ?

 ちゃんと狙いさえすれば、いつかは顔も見せてくれる。

 変な話だが、一人なのに孤独感を感じない。釣りってのは不思議な側面も持ってるような気さえしてくる。


 気が付けば、釣りの本質が狩猟だってことも一瞬失念するくらいに楽しんでいるよ。魚達を締める──即死させること。良い鮮度を保つ効果がある──時は、罪悪感も覚えるけどよ。

 でも、狩猟ってのは殺すことで、結局は食べることに繋がる。

 だから命に敬意を払っていかなきゃ、きっと皆雁首揃えて枕元に立っちまうよ(笑)


 ……まぁ、だからかな。少し救われてる部分もある気がするよ。

 誰かに助けられて、海の命にも助けられて、さ。


 ──おっ、早速注文かい?

 おっと悪いねェ、話し込んじまって。これも俺の悪癖だな。なんせよく言われるのさ、『話が(なげ)ェ!』っつってよ。

 ……あぁ、残念ながらその“小アジの唐揚げ”は品切れでな……。数が入れば“小アジの南蛮漬け”も、と思っちゃあ居たんだが、如何せん自然が相手だ。どうしたって厳しくてなァ……。

 ホラ、替わりにイカでもどうだい?



 アオリイカってどんなイカ、だとォ?

 ……そうだな。ミズイカとか、バショウイカ。地域に因っちゃあ、モイカやミミイカなんて呼ばれてるヤツなんだが。

 ご存知のようだな。

 知ってるかい?

 そのイカのオスは、最大で五キロ以上のモンスターにもなっちまうんだぜ?

 つまり、コブシメ(沖縄地方の巨大なコウイカの仲間)の次にデカいって訳だ!

 ところで、このイカは高級魚の部類に入るんだ。知らなかったろう?

 身が柔らかくて味が非常に良く、甘味が強いイカなんだ。コウイカと並んで、“イカの王様”なんて呼ばれたりもするくらいだ。身に火を通しても、硬くなりにくいことも特徴だ。

 バター焼きも棄てがたいが、ここは新鮮なイカを刺し身にするのが乙ってもんだと思ってな。



 ⚪材料 アオリイカ一杯

 胴体の真ん中に包丁を入れ、頭頂部から、胴体の終端まで切る。切り込みから手で開き、甲(骨とも)を取り出す。

 内臓とゲソを身から、手で優しく引き抜く。内臓が少し残るので、それも取り除く。その後、水でさっと洗う。

 イカの内臓からスミ袋の端をつまみ、スミ袋を取り除く(多ければパスタに使える)。

 内臓と身を切り分け、内臓を処分する(寄生虫予防の為、24時間以上冷凍するか、火を通す。或いは、締めて即内臓を取り出すことを推奨する)。

 胴体をキレイにしたら、エンペラ(耳)の隙間から指を滑らせて皮を剥ぐ。固定した身の上に指を滑らせると簡単。

 剥いだエンペラの軟骨部分と身に分ける。

 触れば分かるので、触って硬かったところと身の境目を斜めに包丁を入れて切る。軟骨部分は、少々硬いが(あぶ)るとこりこりで美味しい部分だぜ。捨てるのは非常に勿体ないのでキープだな。

 エンペラ表面の皮は、生臭い匂いの元なので剥ぐこと(剥ぐのは簡単だ)。

 胴体部分は、新鮮なら乾いた布巾(ふきん)で少し擦ると簡単に取り除ける。ここにも軟骨があるが、盛り上がったところだけを切り取っても、下側のまだ軟骨がに残っている。ここを狭い幅で切ると、ここも炙って食べられる。切ったところから、表裏の薄皮を剥ぐ。

 イカが小さければあまり気にもならないが、皮が気になる。イカが大きければ取り除くことをオススメする。


 裏技で、竹串(たけぐし)やつまようじでめくって、残りを取り除くやり方がある。騙されたと思って試して欲しい。


 まずゲソは、残っている内臓()を取り出す。

 ……が、ここは塩辛にする事も出来るので、やるのなら本当に新鮮なうちに取り除くこと!

 そして、一度頭を裏返して“ろうと”と呼ばれるイカのスミや水の噴出口を二つに割る。

 さらに裏返して、目と目の間に包丁を入れ、身の半分まで切る。そして、目を切らないようにして半分に切ったところから斜め下に切り込んで広げる。

 イカのクチバシが入った、丸い身が出るが、ここも干して焼くと酒の肴にぴったり。捨てられない部分。


 頭の部分は、触ると軟骨の多い部分もあるので、そこは切り取って処分する。また、目玉も食べられないので、割らないようにして処分する。

 残ったゲソは、塩揉みして天ぷらや焼いたりすると美味だ。


 これで、イカのさばきは終わりだ!




 ……これを薄く、削ぎ切りに、と。

 そら、刺身の完成だ!

 白くて綺麗だろ?

 新鮮なイカはな、皮の模様が脈打ってるんだぜ!

 命ってのは、ただそこに在るだけで美しい。感謝しなけりゃならねぇな。


 ところで、胴体は勿論旨いんだがよ、エンペラの食感と味もいいんだぜ?

 エンペラはこりこりした食感でな。甘味も胴体と同じでしっかりしてる。

 わさび醤油(じょうゆ)をつけて口へ入れれば、まさに絶品なんだぜこのイカは!


 おっと、そう言えば納豆があったな。

 ちょっと待ってくれよ?

 ……よし、タレを薄めてゲソと絡めれば“イカ納豆”の完成だ!

 甘過ぎると、イカの甘味が負けちまうからな。

 噛みごたえも栄養も抜群ってもんだ。


 あン?

 そいつのお代ァ要らねえよ。楽しんでくれ。『旨い。ありがとう』って言ってくれりゃあ、きっとこのイカも成仏してくれるだろうさ。


 飽食の世の中だのなんだの言っても、“食える”ってことはやっぱり嬉しい……そう思ったのよ。

 たとえ犠牲の上に在り続けるものだとしても、感謝の気持ちはずっと持ちてえな。


 ……や、すまねえ。

 言葉に出ちまったか。

 やれやれ、綺麗事なんて性分じゃあねぇんだがな。

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