哀の産物
君を求めたわけではなかった。君のことなんて気にしていない。
あなたを求めたつもりはない。あなたは必要ない。
一言、一言が二人の心を締め付ける。
針を刺された風船のごとく、流れ出した止まることのない涙。
そんな二人の慰めあい。しんしんと積もる雪が幕と閉じていくようだった。
きれいな愛を求めた。人前に生きて巡り合った、たった一人と末まで歩んでいく。それだけのことだったのに。
運命の人、そんな人はいなかった。ときめきあうなんてこともなかった。ただただ仮面を被り合い、壊れえ行く心の穴をふさぐかのように重なる。失恋の涙のキス。感動し合うはずもなく、幸せなはずもなかった。
だただ、人に拒否される恐怖をこれ以上味わいたくなくて、人の温度を知りたくて。とても脆く、弱弱しい悲しみに満ちた交わりだった。
二人はお互いを知りもしなかった。ただあの晩あのカウンターにいた。
それだけのことだった。
彼女の泣きじゃくる姿を見て居た堪れなくなり彼女の肩に手をまわした。
あの人の手がとても暖かくて大きな存在のように思えた。
下を向き歩き続けた彼女に引かれれて私は床についた。
あの人を忘れたくて彼を選んだ。あのクールな人ではなく、心を温めた彼を。ベッドまで引っ張った。彼の事情も、気持ちも何も考えずに。私は本能のままに行動した。
床についてから、彼女が私に語り続けた幸福な記憶。和差売れることのできないような素晴らしい体験。その先に動いたのは私だった。弱っている彼女につけこみ彼女を抱きしめた。
私を抱き寄せた彼の手が震えていた。乱れた髪に赤くなった目。この瞬間に彼をいとおしいと思った。
蝉の声に苛まれ目を覚ました。
あの晩の彼女との事は本当だったのかと疑うこともある。なんせ初めて会った人とその日に関係を持ってしまったのだから。
こんなんことはあり得ない、だが、あの日、確かに彼女は居たのだ。私と一緒に。
日暮のなく頃、庭の向日葵が輝きをまし、花の見栄えは黄色の美しさから黄金の神々しさにかわる。
あの雪の晩。私の勝手で彼を巻き込んだ。私のうっ憤を晴らすというためだけに。
去り際の彼は私にこう言った「君は強いね。」自分を弱虫だといった。
「あなたには辛抱強さがある」あたしはそういった。そんな時に二人とも笑ってしまった。
どれだけ凄惨な目にあって心打たれ辛い夜があっても自分だけじゃない。
みんな一緒、知らないだけなのだと。
だからは私たちがこれ以上逢うことはない。しりあえたのだから。
明日はもう明るい。
雪明けのまぶしい朝、わたし、あたし、達は軽く抱き合い、歩き出した。
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