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フレアのまそー


 翌日、朝食を終えたフレイシアとステリア、そしてエレメント達は、庭に集まっていた。


「きょうこそまほーつかいたい!」

「ふふ、張り切ってるわねフレア。されじゃあ早速始めましょうか!」


 当初は、昨日、魔法の練習までやる予定だったのだが、フレイシアがエレメンターに覚醒するという嬉しいハプニングがあったため、それどころではなくなってしまい、結局は今日に持ち越しになっているのだ。

 すでにフレイシアは、自身の魔力を感じ取り、肉体の延長として、魔力の操作も、ある程度は出来るようになっている。

 後は魔法を発動するだけとあって、フレイシアは早く早くとステリアを急かしている。


「魔法は、起こしたい事象を思い描いて、その思念に魔力というエネルギーを与えることで、現象化すると言われているわ」


 ステリアは魔法の概念についてフレイシアに伝えた。


「……どゆこと?」


 フレイシアはステリアの説明が難しくてよく分かっていないようだ。


 この世界において、魔力というのは思い描いた事象を具現化するための触媒のようなものなのである。

 限度はあるが、発想によって様々な現象を引き起こすことが出来るという。


 とはいえ、具現化するイメージが複雑なほど消費する魔力が増えるため、戦闘を魔法のみで行うものは少ない。


 例えば――A地点に出現させた火球を、B地点まで飛ばす魔法を発動した場合、まずA地点に具現化させた後、B地点に飛ばすために更に魔力を消費する必要がある。

 ただこれだけのことでも、人によっては、身に纏っている魔力の殆どを消費してしまうのだ、火球を大きくしたり、飛ばす速度をあげる、軌道をそらす等した場合は、より多くの魔力を必要としてしまう。


 そういう理由で、魔法を専門に扱う者は然程多くない。

 日常生活で気まぐれに使うくらいのものだ。

 多くの魔力を保持する者、複雑な事象を思い描き、強力な現象を引き起こせる者は貴重なのだ。


 さておき、ステリアはフレイシアに概要を噛み砕いて説明した。


「ん~……そうぞうしてみればいいの?」

「そうそう、そしてそのイメージが目の前にあると信じるの、慣れてくれば息を吐くように発動出来るようになるわ」


 随分と大雑把な説明だが、幼いフレイシアにはこの方が分かりやすかったようで――


「じゃあ、この森はあったかいから、こおりを作ってみようかな?」

「いいんじゃないかしら。フレアの得意属性は風と氷みたいだから」


 ステリアが言った得意属性は、概ねその人物のウィスプを見ればわかるのである。

 各属性には色があり、ウィスプは、司る属性の色を発している。

 フレイシアの場合は、風の緑にほんのりと氷の水色が同居していた。


「よ~し! じゃあいくよ! ……んんん~!」


 意識を高めて集中するフレイシア。

 すると、カチカチカチっと音を立てながら、フレイシアの手のひらに拳大の丸い氷が形成された。


「――ッ! できた! できたよおばさん!」


 初めて行使した魔法が成功したことで、フレイシアは興奮している様子だ。


「やったわね、フレア! それが魔法よ、発動の仕方を覚えれば後はあなたの想像力しだいよ!」

「え~っと……たしかぁ、こんなかんじで……みて! ユイだよ!」 


 調子に乗ったフレイシアが今作ったのは、前世の家に置いてあったガラス製のフクロウの置物を参考にした、透き通った氷で作ったユイの人形だ。


『すごいよフレア! でも……ユイはもうちょっと細いもん……』


 この後もフレイシアは、氷でステリアやサンダーボルト、前日知り合ったホットドッグ屋のティムなどを作って遊んでいた――


「……あなたどれだけ魔力をもってるのよ……得意属性なのもあるんでしょうけど、気の変換効率が高いのかしら……」


 魔法は、そのイメージが鮮明な程に消費する魔力を多く必要とする。

 フレイシアのように細かい造形の人形を作り続けようものなら、普通は二体も制作すれば魔力を使い果たしてしまいかねない。

 ところが、フレイシアには、十体程作っても、未だ体に纏った魔力に余力をがあるように感じられたため、ステリアは少し呆れていた。


『そういえばそうだね、ユイもまだまだ元気だよ!』

「ん~……わたしってまりょくが多いの? ……あんまりへってない気がするよ」


 フレイシアはなにも、保持している魔力が多いわけではない。

 《調和の資質》によって、無駄なく、効率的に必要な分の魔力を扱っており――人形の作成程度なら、気で自然に回復される魔力との均衡が取れるようで、今回は魔力の消費を感じていないのだ。


「変な感じなのよねぇ……フレアから感じられる魔力があんまり変わってないような……そんな感じね」


 ステリア達が不思議そうに首をかしげていたところで、実はその場に居たサンダーボルトが切り出した。


『なあ、魔法は使えたようだし、そろそろ魔装についても考えてみたらどうだ?』


 魔装とは、エレメンターの望みを反映した形にエレメントが変身するというエレメンターの真骨頂だ。


『そうだよ! フレアはどんな力がほしいの?』

「まそーかぁ……ん~、どんなのがいいかなぁ~?」


 顎に手を当てて、どのような魔装がいいかと悩むフレイシア。


「最初は武器が良いんじゃないかしら、いきなり全身を纏うような魔装だと、それだけで魔力を使い果たしちゃうかもしれないわよ」


 エレメントを変身させるのにも魔力を消費するため、エレメンターの初めての魔装は、比較的小さいく、消費が少ないものを選ぶ傾向にある。

 かくいうステリアは右手の鉤爪だった。


『ある程度なら、ユイがフレアのイメージを補足して作れるから安心してね』


 フレイシアは考えていた。


(ぶきかぁ~……やっぱりかっこいいのがいいよねぇ~、ん~……そういえば、丸えもんといっしょに暮らしてる眼鏡くんは、射的が得意だったなぁ……映画だとかっこいいんだよねぇ~! じゅうかぁ……いいね! かっこいいよね! あ……でもしくみがわかんないや……うぅ~、ユイがなんとかしてくれるかな……あ! だったら二個作ってもらおう! ふふふ……! 両手にじゅうをもってるともっとかっこいい……ふふ)


 フレイシアは不敵に笑いながら、格好いいボディと共に名前も思いついた。


「うん、きめた! いくよユイ……《モデル・スノーナイト》!」


 フレイシアの思念の乗った言霊を聞いて、ユイの体が輝きその形を失っていく、ユイだった輝きは二つに別れ、フレイシアの両の手に委ねられた。


 程なくして輝きが収まり、その姿が顕になる。

 それは――雪の舞う夜空を連想させるボディのオートマチックニ丁拳銃だった。

 そしてフレイシアは無言のまま片膝を付き、体の前で両手に持った銃を交差させ構える――


「あ~ん! 可愛いわよフレア!」

「――かっこいいはずだよ!」


 とはいえ二歳児なのである。

 魔装はエレメンターの体のサイズに合わせた大きさで出現する――当然フレイシアの銃は小さいのである。

 二歳児サイズの銃はどう見ても玩具で、今のフレイシアは、子供が大人ぶってはしゃいでいるように見えて、ステリアには実に愛らしく思えたのだ。


 しかしフレイシアとしては、精一杯背伸びをして格好つけたというのに、思っていたのとは違う反応が来て少しむくれてしまった。


 それでも、せっかくの新しい武器なので早く撃ちたくて仕方がしたいようである。


「ちょっとためしうちしてみよっかな……」


 気を取り直したフレイシアは、新しい武器を試そうと的を探していたが――


「ねえフレア、それはどういう武器なの?」


 ステリアは銃を見たことが無かったので、それが武器には思えず、フレイシアに尋ねた。


「あ――これはね、じゅうっていうんだよ、このさきっぽからたまがとんでいくの」


 銃口を(・・・)ステリアに向けながらフレイシアは言った――ステリアは暢気に覗き込んで見ている。


「……ん~、遠距離の武器なのかしら? でもどうやって飛ばすの?」


 えっとね、と言ってフレイシアは説明を始めた。


 フレイシアは銃の構造を知らなかったため、このスノーナイトは地球のオートマチック式拳銃とはロジックが違う。

 スノーナイトのマガジンには、六発、弾が装填されており、撃ち尽くしたらユイがフレイシアの魔力を使い、新たに弾を装填する。


 この弾は先細りになった氷で作られており、その後部には魔力そのものが詰まっている。

 トリガーを引くことで、弾に詰められている魔力を使い、風の魔法が発動し、膨れ上がり、その空圧によって弾が発射されるのだ。


 そしてスノーナイトは、フル・セミオートの切り替えが可能で、連射することができる。


「よくそんな物を思いついたわねぇ~」

「まえにいたせかいでは、こういう武器があったんだぁ……。しくみはわかんないからユイにも手伝ってもらったの」


 とりあえずはその説明で納得することにしたステリアは、きちんと見せてもらおうとフレイシアに的を示す――


「あそこに木があるでしょう? ひとまずはあの木を的にしなさいな」

「わかった~! おばさんはちょっとはなれててね」 


 ステリアが距離を取ったのを確認して、フレイシアは右手のスノーナイトを――片手で構えた。

 しかも、スノーナイトは何故かフルオートに設定されていたようで――


――ピュピュピュピュピュピュン!!


「――あばばばばばッ!?」


 フレイシアはプルプル震えながらひっくり返った。


 スノーナイトのボディは丈夫だが、二歳のフレイシアが持てるように軽く作られており、反動が大きかったのである。

 その反動を受け止めきれず、フレイシアはひっくり返ってしまった。


「――フレア! 大丈夫!? ……ふぅ」


 慌てて駆け寄るステリアだが、フレイシアが怪我をしている訳では無いようなので、一先ずは安心したようだ。


「……ったたた~。ユイぃ~……どうなってるのぉ~」


 フレイシアは涙目でユイに抗議している。


『切り替えはちゃんと確認しないとだめだよぉ……ユイもびっくりだよ……』


 ユイとしては、フレイシアが自身に満ち溢れた堂々とした立ち姿ただったため、安心して見ていたのだが――ここまで反動がひどいとは思っていなかったようだ。


「……うぅ、れんしゃはだめだね……大きくなるまでつかえないや……」

『ユイもそう思う……フルオートの方はロックしておくね、とりあえずセミオートでも撃ってみてよ』 


 まさかとは思うが、単発でもあやしいのではと、フレイシアに試し撃ちさせることにしたユイ。


「そうだね、こんどこそ!」


 もうやめといたら、と言いたげなステリアをそっちのけに、フレイシアは改めて試射する。


――ピュン! ピュン! ピュン!


「……お、うてる! いっぱつずつならだいじょーぶみたい!」

『ホッ……よかった、単発も無理だったらどうしようかと思ったよ』


 そんなこんなで、初めての魔法の発動、魔装の創造が完了したのだった。

読んでいただいてありがとうございます。

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エレメンツ:ガールズ―elements girls―旅立ってからのお話です。
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